第40話 もしかしたら
「……へい。……きろ」
「……ん、ん?」
「翔平、起きろ」
「……りょうすけ?」
俺は体を揺すられて、ゆっくりと眠りから目を覚ます。
重いまぶたを開ければ、そこには涼介の顔があった。
「涼介……?」
「そうだけど、どうした?そんなに驚いた顔をして」
「俺……生きてる……?」
「何言ってるんだよ。変な夢でも見たのか?」
おかしそうに笑う涼介は、俺に手を伸ばしてきた。
頬に優しく触れた手の温度に、目を細めてすり寄る。
「凄く、変な夢を見た。練炭自殺する夢」
「なんだそれ」
「涼介は悪魔になってた。それで俺が殺した」
「おいおい。勝手に人を夢に出しておいて、勝手に殺したのか? しかも悪魔って、変なテレビにでも影響されたんじゃないか?」
そうか。
あれは夢だったのか。
それにしては随分と生々しく、リアルだった。
でも目の前にいる涼介は、ちゃんと生きている。そして当たり前だけど、悪魔じゃなくただの人間だ。
「……とても長い夢を見た気がする」
「悪魔だの、俺を殺しただの、自殺しただの言っているけど、一体どんな夢を見たんだ?」
未だに夢から現実に戻りきっていなくて、ぼんやりとしてしまう。
そんな俺が珍しかったのか、夢の内容を聞かれた。
まだまだ時間はたっぷりある。
俺は思い出せる限り、初めから順番に夢の内容を話していった。
「……みたいな感じで、意識が無くなって終わり」
「なるほどな……」
何度もつっかえながら、それでも最後まで話し終えると、話している最中は何も言わなかった涼介が口を開く。
「でも、その夢まず前提からおかしいよな。翔平が俺の告白を断ったから、俺が自殺したっていうのがさ」
そうだ。
俺は確かに涼介に告白された。
でもそれを男同士だからといって断らなかったし、俺の方も涼介のことが好きだったから、今は恋人という関係である。
「もしかして本当は、告白を断りたかったとか?」
「そんなわけないだろ。涼介のことは好きだ」
「そうだよな。俺も愛してる」
たとえ夢だとしても、今の話はデリカシーが無かったか。
話したことを後悔するが、そこまで涼介も気にしている様子じゃないから安心する。
「それにしても変な夢だったな。でも悪魔の涼介は、元がいいから格好良かった」
「何だ、浮気か?」
「それも涼介だったんだから、浮気とかそういう話じゃないだろ。馬鹿」
もしあの時涼介の告白を断っていたら、夢に見た未来がありえたのだろうか。
完全にファンタジーだったけど、絶対無いとは言いきれない。
本当に夢で良かった。
心の底から愛した存在を殺し、そして結局一人で寂しく死ぬなんて、とてもじゃないけど受け入れられない。
ちゃんと涼介が生きていると確認するために、そっと首に腕を回して抱きつく。
「どうした? 甘えん坊になったのか?」
拒否されることなく背中に手が回され、俺を安心させるために一定のリズムで叩かれた。
「涼介」
「ん?」
「好き、大好き……違う。俺も愛してるから」
気持ちを伝えないとそのまま消えていなくなってしまいそうで、俺は普段は決して口にしない愛の告白を必死に紡ぐ。
「恥ずかしがり屋の翔平から、そんなふうに行ってくるなんて、明日は槍でも降るのか?」
言葉ではからかってくるけど、抱きしめる腕の力は強かった。
しばらくの間、そのまま抱きしめ合いながら、俺達はこの幸せを確認していた。
これは、もしかしたらありえた未来。
悪魔の執着、親友の愛 瀬川 @segawa08
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