第24話 面倒な転校生







 あんなに影沼の周りにいた女子が、あっという間に姿を消した。

 素っ気なくされてもめげなかったのに、どうしてかというと、影沼が本性を現したせいだ。



「東条。俺に祓わせる気になったか」


「いや、無理。何言ってるのか分からない」


「何度も言っているだろ。お前に憑いてる悪魔を祓ってやるって」


「俺も無理だって言ってるだろ」



 別に影沼は隠してなかったから、本性というと大げさかもしれない。

 いくらイケメンでも、厨二病ちっくな言動は受け入れられないようだ。

 むしろイケメンだからこそ、受け入れづらかったのか。


 悪魔だなんだのと言っている男は嫌らしい。

 まあ、気持ちは分かる。

 俺だって自分が悪魔と関わっていなかったら、頭でもおかしくなったと思う。

 普通の人間だったら、これが一般的な反応なのだろう。


 落ちこんでいた時に、誰かに悪魔のことを話さなくて良かった。

 もしも話していたら、今の俺の位置は影沼と同じところだった可能性がある。

 人は秘密にして欲しいと言っても、よほどの信頼関係が無い限り、みんな話してしまうものだ。

 誰のことも信じなくて、本当に良かった。



「そのままだと死ぬぞ。悪魔に取り込まれてな」


「何のことだか分からない」


「分かっているくせに、どうして知らないふりをするんだろうな。俺が助けるって言っているから、素直に助けを求めろよ」


「あーあー。聞こえないなー」



 これ以上話しかけられていれば、俺も同類だと思われてしまう。

 だから早めに諦めて、興味を失ってほしかった。

 今はまだ同情の視線を向けられているけど、それもそのうち変わる。

 変わる前に、俺は影沼から逃げたかった。


 それにしても、しつこいしめげない。

 素っ気なくしているのに、毎日のように話しかけてくるなんて、暇なんだろうか。



「悪魔祓いって、今まで実際にやったことあるの?」


「お、興味が湧いたか。俺の素晴らしい功績を聞きたいってことだな」



 違うと言いたいけど、少しは落ち着いたから良かった。

 そこはあまり知られたくないのか、声を潜めて顔を近づけてきたので、俺も自然と体を寄せた。



「これまで祓ってきた悪魔の数は、二桁は軽く超えている。まあ大半が取るに足らないような低級だが、世間的に名前が知られた悪魔だって相手にしたことがある」


「へー。悪魔祓いっていうと、テレビで見るような感じの、聖水とか聖書とかそんな感じ?」



 悪魔の名前を聞き出して、それで支配するとかそんな感じだったような気がする。興味が無かったから、だいぶあやふやだけど。

 海外だったらメジャーなものだけど、日本ではどうなんだろうか。

 どちらかというと、霊媒師の方が有名なイメージだ。



「俺はそんな、カタにはまったやりかたはしない。オリジナルの方法で祓ってる」


「オリジナルの方法か、どんな?」


「それはな……」



 ここで一旦言葉を止めた影沼は、さらに声を潜めながら話し出した。



「簡単だよ。殴ればいいんだ」


「殴る?」


「ああ、そうだ。力を込めた武器で頭を狙えば、一発で祓える」



 まさかの物理攻撃?

 そう思ったがツッコまず、俺は大人しく話を聞くことにする。



「実力を見せれば、悪魔は負けを認めて消える。簡単なことさ」


「す、凄いな。でも俺に憑いてる悪魔の力は強いんだろ? 大丈夫なのか?」


「最近雑魚ばかりで退屈だったんだ。たまには強い奴と戦わなきゃな」



 やっぱり任せるのは心配だ。

 本当に力があったとしても、失敗しそうな気がする。



「そっか、凄いね。はは」


「だろう」



 どう考えても本心から褒めている言葉じゃ無いのに、影沼はとても嬉しそうだった。

 悪魔のことを相談するのは、絶対に駄目だ。

 困っていたけど、自分でなんとかするしかない。


 なんとなくだけど、影沼は残念な子だとここ最近感じるようになった。

 もう少し賢かったら、上手く立ち回ることが出来るはずだ。

 それなのに周りから人がいなくなり、他の人間には嘲笑を向けられている。

 憎めないが、関わり合いたくはない。

 遠くから見ているぐらいが、ちょうどいいのだ。



「だから、俺が責任を持って悪魔を祓う!」


「いや、それは遠慮しておく」


「何でだよっ!」



 からかう分には楽しい。

 付き合っていくうちに、なんだか憎めなくなってきた。

 席替えをするまでは、話を聞くぐらいなら良いだろう。


 今は一人の影沼だけど、厨二病チックな人達が目をつけている。

 そのうち、そういうった部活に誘われそうだ。

 仲間が出来れば、俺に構っている時間も無くなるだろう。

 まあ、仲間がいれば遠巻きにされても、大丈夫。……たぶん。



「それなら、一目見るだけでも良いから。ちらっと。遠くからで」


「悪魔なんて知らないし、そう言っておいて絶対に隙あらばやるのは目に見えてる」


「そ、そんなことはしない」


「分かりやすすぎる動揺だな」



 でも本当に、影沼が最初のような性格のままじゃなくてよかった。

 涼介とかぶるところが無くなったから、思い出す頻度も減った。

 それが涼介との記憶を消されたくない、俺の独占欲みたいなものだと、心のどこかでは分かっていた。




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