第22話 転校生との関わり
イケメンは得だ。
涼介の再来かと思うぐらい素っ気ない態度の影沼だが、周りを侍る女子の数が日に日に増えている。そのうち学校の女子全員が取り囲むんじゃないかというぐらいのスピードだ。
別にそこに関して他の男子生徒のように妬んでいるわけじゃないが、俺に大きな実害がある。
俺が少しでも席から離れれば、いつの間にか誰かが勝手に座っているのだ。そして休み時間が終わるギリギリまで、決してどこうとしない。
授業の用意をしようとしても話しかけられる隙が無いし、お互いに争っている女子の群れに突撃出来るほどの勇気も空気の読めなさも持ち合わせていなかった。
完全に無視をされているのに、女子の諦めの悪さは凄いと思う。
でもこっち迷惑をかけるのは、本当に止めて欲しい。
前に意地でも席から離れないように、座り続けていた時があるけど、その時のいたたまれなさは二度と経験したくないものだった。
女子の冷たい視線に、あれだけのダメージがあるなんて、全く知らなかった。
出来れば早く諦めるか飽きてほしいし、それが無理ならばどこか移動してもらいたい。
俺の状況に同情してくれた男子が受け入れてくれるからまだいいけど、これがずっと続くようであれば、一度影沼に文句を言う必要があるか。
まだ我慢出来るが、その内耐えきれなくなりそうだった。
「ねーねー。影沼君って、休みの日に何してるの?」
「今度の休みに、一緒にどこかに出かけない?」
「ちょっと、抜けがけ禁止!」
「そうよそうよ。影沼君が困ってるでしょ!」
「うるさくしちゃってごめんね」
威嚇し合いながら、一人だけ特別を手に入れようと必死だ。
なんとも言えない気持ちで、俺の席が知らない女子に使われているのを、遠くから眺めることしか出来なかった。
「東条も可哀想にな。あんな女子の群れのところ、俺だって何も言えない」
「だよなー。あんなん猛獣だろ。邪魔したら食い殺されそう」
「分かるわー」
「まあ、席替えまで我慢するよ」
担任の意向で、このクラスは三ヶ月に一回席替えすることになっている。
その席替えの時期が、もうすぐ来ようとしているのだ。
席替えしたばかりじゃなくて、本当に良かった。限界を迎える前に、影沼と離れることが出来る。
あと何日か我慢すれば、次は違うクラスメイトが可哀想だけど犠牲になるだけだ。
影沼が転校してきて、もうすぐ一週間。
その間も全く関わってこなかったから、席替えするまでも状況は変わらない。
そう、思っていた。
◇◇◇
どうしてこうなった。
俺は影沼と並んで校舎を歩きながら、気づかれないようにため息を吐いた。
関わらないようにと決めていたはずなのに、他人から見たら仲良しのように一緒に歩いている。
俺が望んで、こうなったわけじゃない。
全て担任のいい加減さのせいである。
「影沼はまだ学校に慣れていないみたいだから、校舎の案内を誰かしてくれないか?」
それは帰りのホームルームの時に、突然提案された。
頭をかいている先生は、また気まずそうに目をそらして話している。
その姿に、俺を含めて全員が悟った。
絶対に自分の仕事だったはずなのに、今まで忘れていたんだと。
「か、勘違いするなよ。ちゃんと初日に一通りは案内しているからな。ただ簡単にしただけだから、もう一度念の為にするだけだ」
俺達の冷たい視線を感じたようで、焦ったように言い訳を述べる。
あまりにも焦りすぎて怪しいが、今更どうこう言っても意味が無いから、あえて追求する人はいなかった。
「と、とにかく、放課後に影沼を案内してくれないか。俺はちょうど職員会議があって無理なんだ。部活動に入っていない生徒に頼みたい」
教室内を見回す視線に、俺はそっと視線が合わないように軽く下を向く。
こういうのは、絶対にやりたがっている女子の誰かを選んでもらいたい。
部活動に入っていないし、今日は特に用事も無いけど、絶対にやりたくない。
早く俺以外の誰かを選んでくれ。
祈るように誰かが指名されるのを待っていれば、ムカつくぐらいのんびりとした声が聞こえてくる。
「面倒くさいから、東条でいいか。確か部活動も入ってなかったよな」
嘘だろ。
女子から向けられる突き刺さる視線と、男子からの同情の視線。
全員が俺に顔を向けていて、俺は気が遠くなりそうだった。
「よろしく頼むな」
「……分かりました」
「よし。それじゃあ今日は終わり。用事が無い人は早く帰れよ」
文句を言われないためか、ホームルームが終わるとさっさと教室から出て行く。
たくさんの視線にさらされる中、俺は大人のずるさを感じながら、その背中を睨みつけた。
「……そういうわけらしいから、案内するよ」
頼まれてしまったからには、きちんと仕事をこなさなくては。
嫌々ながらも影沼の方を見れば、すでに荷物をまとめて教室から出ていこうとしている。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
慌てて俺も荷物をまとめ、そのすぐあとを追いかける。
面倒ごとを任された気配をひしひしと感じ、またため息を吐いた。
この少しの時間にも関わらず、幸せがどんどん逃げているみたいだった。
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