第16話 おまじないの方法
用意するぬいぐるみは、真っ黒である必要がある。
少しでも別の色が入っていれば、効果は発揮しない。
そのため市販のものじゃなく、手作りで用意しても構わない。
自分の名前は、紙に自分の血液を使ってフルネームで書き、ぬいぐるみのお腹を切り裂いて入れる。入れた後は黒い糸で縫い直す。
洗う時には洗面台に水を溜めて、水が綺麗になるまでしっかりとぬいぐるみを洗う。
この時、確実に冷水で洗うこと。
鏡を見ながら洗うことが重要になる。
漂白剤は、洗面台いっぱいの水に対してキャップ一杯。
終わったら、その場で朝が来るまで待つ。
絶対に途中で止めない。
絶対に人に見られない。
この全てを守らないと、どうなっても文句は言えない。
やり方全てを細かく聞いて、まっさきに俺は面倒臭いと思ってしまった。
やらなきゃいけないことが多すぎる。
制約もあり、その全てをきちんと守らないと上手くいかないなんてハードルが高い。
そこまで細かい性格じゃないから、上手く出来なさそうな気がしてきた。
「なあなあ。本当にやるのかよ?」
説明をしてくれたのは感謝するけど、だいぶしつこい。
絶対にやると言ったわけじゃないのに、面倒だ。
俺は適当に流すと、その場から離れた。
こんなにも面倒な手順を、みんなちゃんとやっているのだとしたら尊敬してしまう。
俺はすでに面倒くさくて、やる気が半分ぐらいに減っていた。
ここまでしないと罪が無くならないなんて、とは思うがここまでするからこそ無くなるものか。
どうせ本当に無くなるわけじゃない。
「……やる必要は無いか」
「何をだ?」
「び、っくりしたなあ。急に現れるなよ」
俺には一人で考える時間もないらしい。
独り言には返事があって、悪魔が普通に現れる。
慣れてはきたとはいえ、プライベートも何もあったものじゃない。
文句を言いながら悪魔を見れば、ニヤニヤと嫌な表情を浮かべていた。
「……何しに来た?」
「おいおい。そんなに威嚇するなよ」
「何か、ろくなことを考えていなさそうな顔をしている」
「元々こういう顔なんだけどな。酷いことを言う」
自分で顔を撫でながら、俺の隣に座ってきた。
遠慮しないし、距離感が近い。
俺は拳一つ分距離をあけて、そして侵入者を睨みつける。
「それで、何しに来たんだ? どうせ用があって来たんだろう?」
「俺は用が無かったら、翔平に会いに来ちゃ駄目なのか?」
「駄目だろ。悪魔がホイホイと人の家に来るな」
「酷いな。まあ、そういうところも可愛いんだけど」
「かっ!? そういうのを簡単に言うな。軽薄だ」
「軽薄って……なんか悩んでいるみたいだから、話を聞いてやろうと思ったのに」
演技だと分かってはいても、悲しそうな顔をされると胸が痛んだ。
俺の事を本気で心配しているんじゃないかと思い、睨むのは止める。
「馬鹿にしないか?」
「それは話によるな」
「そこはしないって言えないのか」
まあ、こういう奴だ。仕方ない。
俺は諦めて、おまじないのことを話す。
「……ふうん。白くなるおまじないねえ……」
俺が話し終えると、唇に指を当てて悪魔は考え込む。
馬鹿にしなかったことだけは褒めたいが、どうしてそこまで考えているのだろう。
「それ、やっているところを見られはしないのか?」
「いや、無理だろ。だってやっているところを見られたら駄目なんだから」
「今は色々なやり方があるからな。配信とかそう言ったものとか」
「いや、だから……ちょっと待てよ……」
配信という言葉に、俺は閃くものを感じた。
急いでスマホを手に取り、動画アプリを開いた。
そして、キーワードを入力する。
「……あった」
ヒットするかは一か八かだったが、一件だけそれらしき動画が検索結果に出た。
最近流行りの白くなるおまじないを試してみた!
そんなタイトルで、少し馬鹿らしい感じがしなくはなかったけど、駄目で元々だと再生してみる。
『はい、どーもー!』
初っ端から大声の挨拶に、すぐに再生するのを止めそうになったが、俺は何とか我慢して見続ける。
『今日はですね。最近学生の間で話題になっている、面白いおまじないっていうのを試してみようと思いまーす!』
動画の中では、二十代ぐらいのテンションが高い男性が、自室であろう場所でおまじないについての説明をする。
その内容は聞いたものと全く同じで、おまじないの信ぴょう性が少しだけ増した。
『説明を聞いて、あれって思った人いるよね? おまじないをしている最中は、人に見られたら駄目なのに配信しても大丈夫なのかって。そこはカメラだから大丈夫ってことで。まあ、なんとかなるっしょ』
結構いい加減なことを言っているけど、たぶん信じてやるわけじゃなく興味本位からだろうし、そういうものなんだろう。
『ちゃんと最後まで責任もってやろうと思ってるんで、そこは安心してくださーい。零時まではまだ少しあるから、それまで準備するねー!』
とにかくやってくれるのなら、俺としてはありがたい。
俺はこの動画の主がやるおまじないを、このまま見続けることに決めた。
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