第12話 不穏な届け物
あの一件から、完全に人間不信になった。
どんなに見た目が無害でも、心の中まではどうか分からない。
悪魔の言った通りだ。
悪魔のような所業を平気で行う人は、たくさんいる。それこそ身近にも。
それから家族とも会話らしい会話はせず、家に引きこもっている。
幸い、なのか俺が引きこもりのようになっても、誰も無理に外に連れ出そうとはしてこなかった。
それどころか、俺の存在が面倒くさいのか、軽く放置されている。
最低限の衣食住だけ用意されて、それで終わり。
引きこもっている立場だから文句は言えないが、それでも保護者としてどうなんだと思わなくもない。
……本当は、放置されている理由を知っている。
俺の周りで最近人が死にすぎて、呪われているんじゃないかと思われているからだ。
確かに涼介をきっかけに、この数ヶ月の間にたくさんの人の死に関わった。
でもそれは全部、悪魔の仕業である。俺自身が何かをしたわけではない。
日本はどちらかというと、悪魔に取り憑かれているというよりも呪われているという方が信じる。
まあ、どちらにしても距離を置かれるのは確かだ。
気味が悪い、そう言われても傷つきはしない。
むしろ、その通りだと思う。
悪魔が現れてから、俺は前よりも変わった。
何が、と言われれば上手く説明出来ない。
ただ心の中の大事なものが欠けてしまったような、そんな気がした。
人間として欠陥品になった俺を、むしろ好む特殊な性癖を持つ人はゼロでは無いらしい。
◇◇◇
ある日、家に一人でいた時、チャイムの音が鳴った。
ちょうど両親が出かけていて、俺以外に応答出来る人はいない。
無視しようかとも考えたけど、これぐらいはやっておかなければ存在価値が無くなる。
とりあえず、誰が来たのかだけでも確認しよう。
のろのろとベッドから起き上がると、モニターのある一階までおりた。
足音を立てないように気をつけたのは、セールスとかだった場合に居留守を使うためだ。
静かに一階までおりてモニターを見た俺は、思わず首を傾げる。
そこには誰の姿も映っていなかった。
チャイムが鳴ってからモニターを確認するまで、三十秒もかかっていない。
よほどせっかちな人だったのかと部屋に戻ろうとしたが、一応ポストを確認しようと考え直す。
もし不在票でも入っていたら、再配達の依頼をすぐにしておいた方がいい。
そのままにしておいたらグチグチと話されるだけなので、そういうのは無くしておいた方がお互いの平和のためだ。
一週間ぶりぐらいの外に、少しだけ緊張した。
でもすぐに一メートルにも満たない距離で何を怖がっているのかと、自分が情けなくもなった。
今までのことで神経が過敏になっている。
このままだと、本当に悪魔のところに堕ちてしまいそうだ。
弱気になっていては駄目だと喝を入れて、ポストを確認しに行った。
そして後悔した。
俺はテーブルの上に並べたそれらから距離を置き、腕を組んで考える。
ポストの中に入っていたのは、シンプルな白い便せんだった。
住所は書かれてなく、切手の類もない。
ただ表に、東条翔平様へ、と俺の名前だけが書かれていた。
こういった手紙をもらう予定は無かったから、不思議に思いながらも封を開けた。
封筒と同じようにシンプルな便せんが数枚。
中身はびっしりと文字で埋まっている。
初めは何が書いてあるのか、全く分からなかった。
でも目を通して、その異常さに気がつく。
手紙の文字は決して綺麗なものではなく、定規を使って一本一本線を引いて書かれている。
便せんの文字を全部と考えたら、とてつもない手間だ。
肝心の中身はというと、たぶんラブレターなのだろう。
はっきりと断言出来なかったのは、それが可愛らしいものでは無かったから。
好き、愛しているはまだありえる。
でも、殺したいはあまりにもラブレターからかけはなれた言葉だ。
告白なのか脅迫なのか判断がつけられない内容に、新たなトラブルの予感がする。
しかもまた、相手はおかしな人間のようだと頭が痛くなってきた。
「へー。これまた随分と熱烈な告白だな」
親が帰ってくる前に、どう処分するべきか悩んでいると、後ろから覗き込む気配が現れた。
相変わらずの神出鬼没具合に、俺はため息を吐く。
「……これもお前の仕業か」
「何のことだ? と言いたいところだが、まあ無関係ってわけじゃない」
たぶんそうだろうなとは思っていたが、あっさりと認められて俺は力が抜ける。
「今度は何を考えてる」
「少し慣れてきたか? 俺がいることに驚かなくなってる」
何故か嬉しそうに俺に擦り寄る悪魔は、頭にキスをしてきた。
言っている通り、このぐらいの接触にいつの間にか慣れてしまっていた。
それはまずいと分かっていても、悪魔の思い通りに俺は気を許している証拠だ。
「お前がしつこいから、好きにさせているだけだ」
「今はそれでもいい。俺が一番だと、選んでくれるまではな」
「……絶対に選ばない」
その声が、自分でも弱々しいものに聞こえた。だから向こうにも、それは伝わっているはずだ。
でも何も言わず、また頭にキスをされる。
まるでなだめられているみたいで、俺はいたたまれない気持ちになった。
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