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「両端を折って、ここをこうして切り込みに差し込む。ほら出来た!」


歩いて五分ほどの場所にある川は、川と呼ぶにはささやかで、幅も街中で見掛ける用水路くらいの広さしかない。

それでも周りには川を取り囲むように木々が生い茂っているため、日陰が多くて涼しかった。

カッタと名乗った少年はそこら辺の笹の葉を適当に千切ると、器用な手付きであっという間に笹舟を完成させた。


「……意外と簡単だね」


彼ほどの早さは無理だとしても、作り方はそう複雑じゃない。これくらいなら自分にもすぐ真似が出来そうだった。


「だろ?お前もやってみろよ」


差し出された葉っぱを受け取り、さっき見たばかりの手順通りにやってみたものの。


「あれ、なかなかはまらない……あっ、裂いちゃった」

「意外と不器用なやつだな。父親譲りか?ほら、もう一回別の葉っぱでやってみろ」


確かに僕も父も細かい作業は苦手で、どちらかというと体よりも頭を動かす方が得意なタイプだ。

父を知っているという事はやっぱり僕が覚えていないだけで、この少年はうちに関わりがある人物なんだろう。

失敗を踏まえて、今度はもう少し慎重に、丁寧さを意識して指先を動かしていく。

すると今度は不器用ながらもどこも破く事なく笹舟を完成させることが出来た。


「よし、出来たな!じゃあ早速川に浮かべて競争しようぜ」

「競争?」

「ただ作って終わりじゃ面白くないだろう。スタートはここから。ゴールはあの出っ張ってる木の枝な。よーい、どんで手を離せよ」

「え、ちょっと待ってってば」


急かされるようにスタート位置に舟を着けると、考える暇もないうちにカッタが「よーい、どん!」と号令を掛けた。

ほとんど反射的に手を離した笹舟は、川の流れに乗ってどんどん下流へと進んでいく。

初めて作った笹舟がちゃんと波に乗っているのを見て、なんとも言えない達成感のようなものが湧いてくる。


「ほら、早く追うぞ!決着を見ないと」


川の流れは緩やかで、走れば余裕で舟に追い付く事が出来た。笹舟レースの勝敗の結果は。


「やった、勝った!俺の勝ち」


途中、突き出た石にぶつかりもたついた僕の舟を置き去りに、何にも邪魔されず進み切ったカッタの舟の勝利。


「まずは俺の勝ちだな。よし、じゃあ二回戦いこうぜ」

「二回戦?まだやるの」

「当たり前だろ。勝太は今ので満足したのか?俺はまだまだ物足りねぇよ。そうだな、今日は十番勝負といこうか」

「そんなに。でもきっと、何回やってもカッタが勝つよ」

「やる前から負ける事を考えるな!」


思いの外真剣な声音に少し驚く。


「何事も実際にやってみないとわからないだろうが。負けを意識しながら物事に挑むな。この笹舟なんか、同じ作り方してるんだから技術云々じゃない。ほとんど運任せみたいなもんだ。運任せの勝負くらい、もっと気楽に楽しめよ」


何か行動を起こす時、失敗した場合の事も考えてから行動するのが僕の癖だった。

だけど確かに、こういう時くらいは目の前の事に集中して楽しむのもいいかもしれない。


「……うん、そうだね。次は僕が勝つかもしれないし」

「おう、その意気だ。どんどんやろうぜ!俺も負ける気はないけどな」


二回戦以降は、彼の手を借りる事なく作り上げた笹舟で勝負した。

十番勝負は三対七でカッタの勝ち。やっぱり僕が負けてしまったけれど、勝った時はもちろん、負けた時までも楽しかった。


「あー、楽しかった!全勝するつもりだったのに、三回も勝ちを譲ってしまうとは」

「それでも充分強いだろ」

「せっかく勝ったからには何か賞品が欲しいところだ。そうだアイス、アイスが食いたい!」

「知ってると思うけど、この辺お店とかないよ」

「わかってるって。でも家の冷凍庫には入ってんだろ」

「それをここまで持ってこいって?」

「皆まで言わん。だが俺はここから動くつもりもない」

「はいはいわかったよ、ちょっと溶けてても文句言うなよ?」


ひらひら振る手に見送られ、真夏の日差しの下、一人来た道を戻る。

やっぱり少し溶けてしまったソーダ味の棒つきアイスが落ちないように、冷たさを堪えながら無言で口いっぱいに頬張って食べた。

ものすごい勢いで食べ切ったカッタが、「先に食べ終わった!俺の勝ち」と言った直後に頭を押さえながら顔を顰めて呻いていたのが面白くて僕は笑った。




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