七日間の友達

柚城佳歩

1

夏休みになるといつも、田舎の祖父母の家に親戚一同が集まる。

特に示し合わせているわけではないけれど、大体の仕事が休みになるお盆の期間に揃う事が多くなる。


高校受験を控えた中三の夏。

今年は悠々自適な一人で留守番案もあったのだけれど、掃除に始まり食事の準備、洗濯に買い物なども全て自力でなんとかしなければならない状況を考えたら、例年通り両親についていった方が楽だという結論に至った。

誰が言ったか、まさに自由には責任が伴うものである。


勝太しょうた、また一人でいるの?まぁ同じ年頃の子がいないし、今年は受験もあるから勉強は大いに結構だけど、たまにはチビたちの相手もしてあげたら?気分転換になるかもよ」


歳が十離れている姉は、その面倒見のよさもあって、昔から年下の子どもたちによく懐かれていた。

今もトランプの相手をしていたらしい。

年下相手でも容赦なく勝ちに行った姉は、早々と一位を捥ぎ取り、勝者の特権とばかりに高いアイスを食べながら僕のところへやって来た。


「僕は小さい子の相手とか、ちょっと苦手だから……」

「ま、無理にとは言わないけど。もし混ざりたくなったらいつでもおいで。大人側が増えるのは大歓迎だから」


ニカッと笑って輪の中へ戻っていく姉を見送り、再び過去問題集へと向き直ったものの。

到着してからずっと参考書と向き合っていた事もあって、さすがに集中力が限界らしい。

休憩も兼ねて、家の中を少し歩く事にした。


元は豪農だったという日向ひなた家は、家屋自体は古いながらも、広さは充分すぎるほどにあって、小さい頃はよく探検と称してぐるりと一巡りしていた。

ただでさえ広いのに、離れまである。

だからこそ親戚一同が集まっても、寝る場所に困る事はなかった。


――たまに来た時くらい、ちゃんと仏壇に手を合わせておきなさいよ。


ここへ着いた時に母から言われた事をふと思い出した。だからというわけではないけれど、忘れないうちにと方向転換して仏間を目指す。

廊下の一番奥の襖をそっと開けると、ほんのりとお線香の匂いがした。

ライターは一人の時には使うなと言われていたので線香はそのままに、鐘だけでも鳴らそうかどうか少し迷ってから、結局手を合わせるだけにする。

心の中で今年も来た事の報告と挨拶を済ませ、正座をしていた足を伸ばし立ち上がると、仏壇の中に置いてある位牌の一つに目が行った。


日向四郎しろう


名前の隣には僕の誕生日と同じ一月八日の日付が刻まれている。

この人は僕のひいじいちゃんに当たる人で、子どもの頃から勝負事が好きな人だったらしい。

一月八日は勝負事の日。命日までそれにちなんだ日付とは、ある意味すごいと感心してしまう。


自分の誕生日と同じ命日の人がいる。

初めて父に教えられた時、少し驚きはしたけれど、特に気味が悪いとかは思わなくて、ひいじいちゃんに会った事もないのに妙な親近感のような、不思議な縁を感じた。


「わっ!」

「うわぁあっ!」


気配もなく突然背後から両肩に手を置かれ、驚いて振り向くとすぐ後ろに自分と同じ年頃の見知らぬ少年が立っていた。


「えっ……、誰?」

「俺か?俺の事はカッタって呼んでくれ。みんなそう呼ぶんだ。お前は勝太だろ?いつも一人で本ばっか読んでるからわからなかったんだろうけど、今までだって俺はお前を何度も見てきたぞ」

「そんな事は」


ない、と言いかけて止まる。

毎年来る度に新しい子どもが増えていたり、自分もよく言われるように、成長期のうちは一年会わないだけでも印象が大きく変わったりするものだ。

それに人がよく立ち寄る家でもあったから、そのうちの誰かの子どもだという可能性もある。

だから目の前の少年が初対面だと言い切る自信がなかった。


「ところで勉強はもういいのか?終わってんなら勝太も一緒に川に行こうぜ」

「いや、僕は」

「ほら早く早く!川の近くは涼しくて気持ちいいぞ。笹舟も作った事ないだろ?作り方教えてやるから作って流そう」

「ちょっ、わかった行くから腕引っ張らないで」


こうして僕は見慣れない少年に少々強引に外へ連れ出される事になった。






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