第37話 四天王 後編
『ハーミッド・クラウド』が霧散して中から姿を見せたエルフローザは火に油を足したように怒りで戦慄いていた。
「ぐっ……貴様、一体何をした!?」
動揺し、叫ぶエルフローザ。
確かに、普通ならしっかり握っていた武器を簡単に奪取されるなんて有り得ないだろう。
しかし僕の能力を使えば容易くそれは実現する。
簡単なカラクリだ。
まず僕が魔宝剣に指一本でもいいから触る。
その瞬間『ベネフィット・スターズ』第二の能力を発動。
この時、範囲はエルフローザは含めず、魔宝剣のみを指定する。
それが出来ればあとは『オーバー・ザ・ワールド』で一メートルほど横に転移するだけ。
結果、魔宝剣は転移後の僕の手中という寸法。
わずか二秒足らずでまんまと相手の武器を掠め取る能力を応用した超高等テクニックが炸裂した訳だ……!
もちろん、僕はその事を口にする筈もない。
「神のくれたチャンスだ! そいつの強さはこの剣ありきのもの! それを奪い取ったいま翼をもがれた鳥を殺めるが如く楽な戦いを強いれる! みんなやっちまえ!!」
僕はエルフローザの問いにはガン無視して、その場のブレイブ連中に向かって叫ぶ。
そう、今まで戦いを見て分かったのが、要するにこの魔宝剣が強すぎるのだ。
魔法という戦闘の要を封じ、オリハルコンとアダマンタイトの合金で作った槍を容易に切断する切れ味を持つ剣。
つまりそれさえ使わせなければ勝機は十分にある。
「う、うおおぉぉぉ! でかしたクズゴミ!」
「たまにはいい仕事しやがる!」
「よしっ! あのムカつく四天王をたたんじまえぇ!」
士気の上がったブレイブ達が武器を構え一気にエルフローザへと押し寄せた。
悪いがこのままリンチになって貰うしかないからな。
そして早速、最初の三人がエルフローザへ飛びかかる……!
が、しかし。
「調子に乗るな」
直後、ほぼ同時に鈍い音が鳴ったと思えば、最初に突っ込んだ三人が宙を舞っていた。
そして地面にグチャッと落ちたのを見た後続のブレイブ達は、揚々と突撃していた足を止め、またジリジリと後退し始める。
「あまり私を舐めてくれるな。有象無象の雑魚どもを蹴散らすのに、この身体ひとつあれば十分……!」
どうやら今のはほぼ一瞬で三発の蹴りを繰り出した結果らしい。
一秒で三人もやられてしまった。
考えてみればエルフローザはグレイブさんやハルバードの槍捌きを見切り、しかも蹴り一撃で倒す程の体術の持ち主。
今のは当然と言えば当然の結果だったか。
しかしまだ僕らが優勢なのは変わらない筈だ……!
「く……ひ、怯むんじゃない! だったら魔法だ! 距離を取って囲んで、四方八方から滅多撃ちで蜂の巣にしてやるんだ!」
すかさず今度はそう叫ぶ僕。
インファイトがダメなら遠距離攻撃で削る作戦だ。
すると早速、誰かが放った火球が空を切りながら飛んできてエルフローザへと命中する。
「よっしゃ、直撃ぃ! その強さを過信する傲慢さ故の隙が戦いの明暗を分け……る……!?」
「ぬるい、ぬるすぎる」
炎が弾け、煙が晴れた先には、火傷ひとつしていない無傷のエルフローザが立っていた。
それには流石に逃亡の二文字が頭をよぎるが……いや、まだだ。
「くそっ、誰だよ今のヘナチョコなファイヤーボール撃ったの! ヘボがよ! 全然効いてないじゃないか!」
せっかくのチャンスを一発分無駄にしやがって。
僕がそう文句を言うと、すっと一人の手があがった。
「あたしだ」
声の方を見ると、そこには明らかに不機嫌で怒り込み上げている笑みのエーテルが立っていて……。
「悪かったな。ヘボで」
恐怖のあまり、僕はすぐに保身に走った。
「あ、いや、違うんですエーテルさん。今のはその……言葉のあやと言うか、全くの本心ではなくこの異常事態が言わせた不本意なものであって、偽りの心情がつい口に出てしまったと言いますか……」
大量の冷や汗をかく僕。
この戦い、勝っても負けても死ぬかもしれない予感をさせながらも必死に弁解しようとする。
と、舌を回しながらも気が付いた。
あれ、エーテル魔法使えるようになったんだ。
よく見ると隣にはカオリンもいる。
そうか、流石にそんなに長く魔法をかき消しておくことは出来ないんだ。
これならアティナも復活してるだろう。
ならば魔宝剣を奪った今なら勝てる公算は高い……!
そう、僕は瞬時に勝利への道をはじき出す、が。
「おい貴様。確かクズゴミとか呼ばれていたな。相応しい名を付けて貰ったではないか」
「え、あ、クズゴミ・スターレットと言います……」
一瞬エーテルの恐ろしさに存在が飛んでいたエルフローザが話しかけてくる。
それにしてもなんで僕はこんな憎まれ口言われるほどエルフローザのヘイトを買っているんだ?
武器を奪ったのはあるけど、そこは敵同士なんだから必然のことであってむしろ敵ながら天晴れと褒めて貰いたいところだ。
「さて、クズゴミ。悪いことは言わない。すぐにその我が愛剣をこちらへ渡せ。先ほど地獄へ落ちろなど強い言葉を使ったが、この私を見事欺いた手腕に免じて見逃してやらないこともない」
「……断ったら?」
「殺す」
「ヒェ……」
遥か格上からの真の殺意のこもった殺害予告宣言に僕はちびりそうになる。
だからといって返すわけにはいかないが。
ていうか返した瞬間、斬りかかってくる危険もある。
「私も気は長くない方だ。三秒待つから決断しろ」
「さ、三秒……!?」
全然待つ気がない発言に僕は青ざめる。
どうしよう。
攻撃されても『ベネフィット・スターズ』の能力を発動すればダメージは受けないが、剣は間違いなく奪い返される。
もう一度『ハーミッド・クラウド』を使えればいいのだが、僕の魔力では一日一回が限度。
つまり『オーバー・ザ・ワールド』で転移しようとすると、その瞬間をこの場にいる全員に目撃されるということ。
それは最悪すぎる。
ちなみに、ここまでの思考で約二秒。
だが残りあと一秒……!
そしてそこで考える時間のない僕が取ったのは、僕の常套手段にして最終手段だった。
「あっ!! あいつは転移の異能力者!!」
「っ!?」
僕は大声と共に指を指すと、それに反応したエルフローザはその方向へ慌てて振り向いた。
指を指されたブレイブ達の方は、何のことだとざわざわしている。
そして当然、僕はその隙に……!
「あ! 逃げてる!」
ブレイブの誰かが気づいた頃には僕は走り出していた。
そう、トドのつまりの逃げである。
走り出す初動を押さえられないよう古典的な手段をとった訳だ。
エルフローザの目的はその異能力者を探すことにある筈だから引っかかってくれると願っていたが、上手くいって助かった。
「っ、あの男は……どこまでも謀ってくれる!」
またもやエルフローザを怒らせたようだ。
単純な手に騙されたことに憤りながらも後を追って走りだしていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕はいま、街の無人地域まで来ていた。
この辺りは三、四階建ての背の高い建物が多く、路地も入り組んでいて曲がり角も多い。
逃げ回るにはうってつけの地形だろう。
「よし、ここまでくれば大丈夫だな」
僕は逃げて路地に入り、人目につかなくなった直後、『オーバー・ザ・ワールド』で転移した。
要するに転移の瞬間を誰にも見られなければいいのだ。
この影の多い場所なら幾らでも転移のチャンスがあるから、これで捕まる心配は無くなったと言っても過言でない。
そしてとりあえず今は、時間を稼ぐことに徹しようと思う。
今頃は多分ギルドの人が、帝都のギルドに応援を要請している筈だ。
魔王軍四天王が敵ならば、きっとSランクのブレイブを助けに向かわせてくれるだろう。
オウレンさんがまだいてくれたらよかったが、まあ今そんなこと考えても仕方ない。
とにかく助けのSランクブレイブが来るまで時間を稼ぐのだ。
まあただ逃げ回るのもあれなので、僕は僕で少しでもエルフローザにダメージを与えるよう動くとするか。
用意は既に出来ているからな。
「おーい! エルフローザ! 僕はここにいるぞ!」
響く声で叫び、僕はわざわざ自分の居場所を明かした。
僕はいま四階建ての建物の屋上に転移してきていて、地上にいる僕を追ってきたエルフローザを見下ろす形になっている。
「……! 敢えて居場所を明かすとは大した度胸だな。これ以上逃げられるとでも思っているのか? せめて楽に死にたければ大人しく投降することだ」
相変わらず僕を殺す気満々のエルフローザが脅しかけてくるが、今の僕にはなんら響かない。
余裕すらあるぐらいだ。
「おいおい。そんなこと言ってていいのかな? 今僕は非常に優位な状況にあるんだよ。こいつを見ろ!」
僕の台詞にエルフローザは一瞬、何を寝言をと言いたげな感じだったが、僕が握りしめているものを見るや表情が一変した。
魔宝剣ではない、それとは反対の手にあるものだ。
「っ!!? き、貴様っ! 何故貴様がその子を……!」
慌てふためくエルフローザの反応に、思わず僕は笑み共に勝利を確信してしまった……!
時は少し遡り、僕がエルフローザの軍へ妨害工作を始めようとしていた時のこと。
デカデカと演説をしていた魔人と、周りと比べ比較てき若そうな魔人が会話しているのを偶然耳にした。
聞くと、若そうな魔人が大事そうに抱えている小動物を入れるカゴのことのようだ。
「ーーそれでな、その兎はエルフローザ様の今は亡き妹様の生き形見なのだ。自分のこと以上に大事にされておられる。それをお預けになるということは、お前を信用してのことだ。その事を忘れるな」
「そうですか……自分のような新米に……。分かりました、命にかけても守り通します」
「はは、だが力むな。流石に自分の命と天秤にかけることはない。エルフローザ様はいつもそう仰られている」
「……絶対守ります」
とまあ、そんな話だった。
何かに使えそうだナとほくそ笑んだものだが、まさか実際に使うことになるとはその時はまだしらなかったのだ。
という訳で僕はそのカゴを魔宝剣を奪ったときと同じ要領で掻っ攫い、兎を誘拐してきたのだ。
そしてそれはもちろん人質とするため……!
「何故貴様が私の大事なシャーロットを持っているのだ! 答えろクズゴミ・スターレット!!」
今までで一番の怒りを露わに思わず震え上がるほどの剣幕で怒号をあげるエルフローザ。
ていうかこの兎、シャーロットって名前なのか。
兎のくせに中々貴族っぽい名前してやがる。
「いやなに、おたくの軍に僕のお友達がいてね。色々聴かせて貰った上にこいつを寄越してくれたのさ。ダメだよー、新人にそんな大切な仕事与えちゃあ」
僕は優しく笑顔でしゃあしゃあとデタラメの作り話を吹く。
しかしエルフローザはすんなりと納得した様子で「あいつか……!」と言って舌打ちしていた。
それには引き笑いが止まらない僕。
「では、このシャーロットちゃんをお前が油断してむざむざ奪われたこの剣でスッパリと公開処刑にーー」
「っ! ま、待て! 頼む! その子は関係ない! 傷つけるのはやめてくれ!」
必死に懇願してくるエルフローザ。
半信半疑だったが、どうやら本当に相当大事な兎らしいな。
そんな大事なら金庫にでも入れておけばよかったのに、わざわざ戦場に連れてきたのが奴の落ち度よ。
そしてこいつが僕の手にある以上、やりたい放題って訳だ。
人類で最初に人質という概念を作った人を僕は尊敬するよ、まったく。
「けっ。だったらこっちの要求を幾つか呑んで貰おうか」
体を掴み、キューキューと鳴く兎の周りに刃を近づけながらそう言ってやる。
「ぐっ……ゲスが。私に……私に、どうしろと言うのだ……!」
恨めしく憎しみの目で歯軋りしながら睨まれる。
しかしその程度では僕の良心はびくともしない。
と、要求を呑めと言ったものの、特にやらせることを考えていなかった。
まあ、とりあえずは、
「まずは土下座せいっ! 土下座をマスターした僕を唸らせるぐらいのやつをだ! まさかやり方を知らないとは言わないだろうなぁ!」
「ど、土下座だと……!? この私に、貴様のようなクズに土下座しろだと……!?」
それには流石に即決とはいかず、僕の要求に戸惑うばかりのようだ。
僕の場合なら楽勝で済ますところだが、エルフローザには難しいらしい。
まあただの嫌がらせで言ったことだから別にやってもやらなくてもいいっちゃいいのだが。
ちなみにそろそろ流石に襲いかかってきそうだが、僕がいるのは四階建ての屋上。
故に屋上までひとっ飛び出来たとしても、エルフローザが僕に接近するより早くに兎の首が飛ぶ。
それが分かってるから奴も動こうにも動けないのだろう。
「僕も気が長い方ではないからな。三秒待ってやるから早く決断して貰おうか」
さっき言われたことそのまんま意趣返しに言ってやる僕。
「三、二……」
そして始めるカウントダウン。
「一、残念! 時間切れだぁぁぁぁ!」
「待て! 待ってくれ! 分かった、やる。やるからやめてくれ……」
その消沈した声音のエルフローザの言葉に、兎の首をカッ切ろうとした剣の動きを寸前で止める。
するとよっぽどやりたくないのか、錆びついたような動きでゆっくりと地面に膝をつけ、頭を下げて姿勢を作った。
「これで、満足か……!」
頭を下げ地面を向いたまま確認してくるエルフローザ。
満足かって?
「馬鹿がっ! 満足な訳ないだろうが! 全然なってない! それじゃあただ正座してお辞儀しただけだろうが! もっと足を開いて腰を浮かせて額を地面に擦り付けるんだよ! こちとらほぼ毎日やってんだからな!」
「うぐ……貴様という男は……。それでいいのか人として」
言いながらも、エルフローザは僕の指摘したところを直して不恰好ながらも土下座のポーズを作る。
「まあ及第点ってとこかな。まあ、それはそれとして……そいっ!」
エルフローザの土下座に点数を付けるや否や、僕は兎のシャーロットの片耳に魔宝剣の刃を当てて。
そのままスパッと耳を切断した。
「なっ!?」
なまじ切れ味がいい分、スルッと切れた。
それに伴い悲鳴の鳴き声をあげるシャーロット。
ちなみに僕に罪悪感は微塵も存在しないのであった。
「き、貴様アアァァァァ!? どういうつもりだ!? 約束が違うぞ!!」
やはり激昂するエルフローザ。
だけどこれには訳がある。
「はあ? なーに言ってんだお前? 僕は三秒待つって言っただろ。でもお前が土下座したのは三秒経ったあとじゃないか。まあ意味は無かったけどやるってお前が言うから、終わるまで切断の刑を保留してやってたんだ。それを約束が違うとか言われてもなあ」
親切心で僕はそう説明を施した。
しかしそれで納得するほどエルフローザは冷静ではいなかったらしい。
「ふ、ふざけ……ふざけるなっっ!! クズゴミ・スターレットォォ!!」
完全にキレたようだ。
流石に限界だったのか、兎が僕の手元なのにエルフローザは凄まじい跳躍を見せ僕の所に一気に迫ってきた。
「おっと!」
だがそれで捕まる僕ではない。
後ろに身を引いてエルフローザからの視線を切り、すかさず発動させる。
『オーバー・ザ・ワールド』……!
「ハァ、ハァ、おのれ! どこへ消えた!?」
「おーい! こっちこっち!」
ほぼ一瞬で今さっきまで僕がいた建物の屋上に移動さしたエルフローザに、僕は隣の建物の屋上から声をかけた。
「馬鹿な……一体いつの間にそっちへ……?」
「そんなことよりもよぉ。おたく、人質のシステム分かってる? いま自分がやったことがどういう意味を持つか、とくと拝見させてやる……!」
そう言って僕は兎のシャーロットの残ったもう片方の耳へと刃を当てる。
「ま、待ってくれ! 悪かった! 私が悪かった! だから……!」
「そぉい!」
そして僕は耳を傾けることなく、何のためらいなく兎の耳を切り捨てた。
再び悲鳴の鳴き声をあげるシャーロットとエルフローザ……!
「ああ! 可哀想に! 両耳が無くなっちまった! お前も不幸だな、あんな飼い主に飼われなければこんな憂き目には合わなかったのによ!」
意地の悪い言い方をしながら兎の頭部をエルフローザに見せつける……!
「くぅ……うぐ、絶対に許さんぞ貴様。このままただで済むと思うなよ……!」
もはや涙目になってるエルフローザが親の仇を見るような目で睨みつけてくる。
「んん? なんか勘違いしちゃいないか? こうなったら原因はお前にあるんだぜぃ! 武器を取られるヘマしたのもお前! リスをスパイにむざむざ私のもお前! 全部お前のせいでこうなったんだ! お前が悪いんだ!」
我ながらめちゃくちゃ言ってる自覚はあるが、別に時間稼ぎで思いついたこと適当に喚いてるだけだからまあ気にしないでおこう。
それにしてもいくら魔王の四天王とはいえ女性を泣かせるのは少し申し訳ない気がしてきた。
いや、だがここは街のためにも心を鬼にしなくては。
「黙れ……黙れっ! もう貴様の言葉など聞きたくない! 街の連中ごと一緒に殺してやる! 外で待機している部隊を呼べば貴様らは終わりだ! それが嫌ならシャーロットと剣を返せ!」
エルフローザは懐から何やら平たい板のような物を取り出して僕にそう脅しかけてきた。
あれは確か遠くの人と通信出来る魔道具だった気がする。
僕には縁のないものだがな。
「部隊、か。いいよ、別に」
「な、なんだと……」
僕の余裕気な態度に不信感を抱くエルフローザ。
直後、通信の魔道具から声が聞こえてくる。
「……エルフ……様……申し訳…………地龍が……暴れ始め…………壊滅……」
「おいどうした! 応答しろ! 何があった!」
途切れ途切れで聞こえてくる通信は、ただごとではない事態が起こったことを思わせる。
最終的には断片的に魔道具から声が出ていたが、結局完全に途切れてしまった。
「……あー、街の外にいた魔人達なら馬車を引かせてた地龍と騎馬隊の馬が暴れたのと、一部で仲間割れが起こったせいで壊滅したよ」
少し同情の気持ちを覚えながら僕は教えてあげた。
僕が妨害工作した結果そうなったのだが。
でも壊滅させようとまではあの時は考えていなかったんだ。
ただ不運にも地龍三体の眼球に激辛スプレーを吹きかけたところ、火を吐きながら暴れ始め、宥めようとしたま魔人達へ大きな損害を与えてしまったのだ。
馬にも同じことしたら当たりの魔人や物を蹴りまくる始末だし、適当な魔人の後頭部を殴打したら誰がやったと喧嘩が始まった。
僅か数分で脆くも内部崩壊して壊滅的打撃を負ったという訳だ。
「う、嘘を言うな……貴様がどうやってそんな……」
「言ったろ、お友達がいるって。そいつの仕業だよ」
エルフローザは次第に絶望感に満ちてきてる顔で膝から崩れ落ち、戦意喪失といった雰囲気になっていった。
ところであの新米の魔人、僕が完全にスパイに仕立ててしまったな。
もしかしてエルフローザが戻ったら八つ裂きにされたりしないだろうか。
僕の知ったことではないが。
「おっと、武器を持った相手に隙だらけだ」
「っ!?」
僕はエルフローザの目線が下を向いたそれを見逃さなかった。
瞬時にエルフローザの背後に転移してダメ押しに魔宝剣を振るい、斬りつけた……!
「……っ、は!? あ、ああ、髪が……」
ランス達と戦ったときの姿は見る影もなかった。
不意打ちとはいえ回避されることもなく、僕の狙い通りに無駄に綺麗な長い髪をバッサリと切り落とす。
本当なら首を切ることも出来たんだからそれは流石に実行する勇気がないからやめた。
まあ髪は女の命というが、本物の命を奪われるよりはマシだろう。
「おいおいおい、いいじゃないか髪の毛ぐらい。どうせまた生えてくるって」
見た目相応の少女のように悲しみ出したエルフローザを見て、今更ながら罪悪感が湧いてきた僕。
切断した髪はふっさぁと風に乗って飛んでいってしまった。
何もわざわざ髪を切る必要はなかっただろうか。
フォローのつもりで行った台詞も、考えれば煽ってるようにしか聞こえないし。
「そこまでよ」
その声に誰だと思って振り返る。
そこには何故か僕をゴミを見るような目で見るアティナの姿があった。
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