第36話 四天王 中編

 数分後。

 僕が妨害工作を終えて街に戻ってくると、何やら街の正門広場に武器を構えた戦闘態勢のブレイブ達が集結していた。

 ひとまずそれを物陰に潜みながら様子を見る僕。

 そしてそのブレイブ達の視線の先には……。


「ーーさあどうした! この魔王軍四天王がひとり、エルフローザと剣を交えようと言う勇敢な勇者はいないのか! それとも雁首揃えて怖気るだけか貴様らは!」


 クリーム色の長髪をなびかせ異質なオーラを放つ女騎士が、羽のように薄い剣を片手に宣戦布告を言い放つ。

 見た目が予想外に別嬪さんだったが、どうもあれが噂の四天王らしい。

 とは言え魔王軍四天王の名を出されると、ブレイブ達もその威圧感に萎縮してしまってるようだ。

 ていうかあっちの軍隊の方に全然いないと思っていたら既にひとりで街の方に来ていたのか。


 馬鹿が。

 わざわざひとりで来てくれるとはな。

 いくら四天王でも数の暴力で叩けばひとたまりもない筈。

 こっちはあれだけ人数が集まってるんだ。

 とりま、奴の眼球にもハバネロソースを吹きかけて隙を作ってやるとするか。

 悶絶しているところを全員で袋叩きだ……!


「ーー俺たちが相手を努めよう」


 だが僕が妨害工作にも使ったスプレーを構えたと同時。

 大気に響くような強い意思のこもった声がその場を駆けた。


「おお……トライデントだ……!」


「ランスのパーティーがやるつもりだ……!」


「彼らならやれるか……!」


 他のブレイブ達から期待の声が上がる。

 なにせこの街に滞在するブレイブの中では多分一番強いパーティーと言われるチーム・トライデントだ。

 アティナのような何ちゃって槍使いとは違う、本物の槍術使いなら、いくら四天王が相手でも遅れはとらない筈。


「ほう、これはこれは……『火雷ホノイカヅチ』の片割れが立ち塞がるならば相手に取って不足無し。我が魔宝剣の飢えも満たせるというもの」

 

「……今はチーム・トライデントのランスだ。すまないが一騎討ちは期待しないで貰う。四天王相手にそんな余裕ないんでな」


 エルフローザと対峙するランス。

 その後ろにグレイブ、ハルバード、そのまた後ろにプルプルと震えたスピアと続き、チーム・トライデント四人が揃い踏みする。

 

「グレとハルは左右から挟撃。スピアは援護だ。俺が奴を刺す」


 堂に入った構えをとり、指示を出す。

 絆の深い兄妹間ではその短い指示だけで作戦が伝わり、抜群の連携がとれるらしい。

 しかし。



「え、嫌だけど? 四天王相手に切込みやるとか自殺行為過ぎるだろ」


「こういうのは言い出しっぺが行けよ。兄ちゃんがやるぞって言ったんだ」


 グレイブとハルバードは反抗的だった。

 毎回上手く事が運ぶことは珍しいらしい。


「は? この出来損ないのクソボケ共が舐めた口ききやがって。なんで俺がそんな事を。さきにボコられてーのか?」


 そんな弟二人に脅迫の言葉を投げかけるランス。


「「二体一で勝てるとでも?」」


「っ! テメェら……裏切るつもりか! 許せねえ……!」


「に、兄ちゃん達ぃ、いい加減にしてよ……!」


 兄三人、味方同士で槍を突きつけ合わせる始末。

 妹のスピアが恐る恐る止めに入っていた。

 仲間割れを始めるトライデントの面々に、後ろの方にいるブレイブ達からは不安の騒めきが走り始める。

 あれで平常運転だから知らない方からしたら恐ろしい。


「……ふぅ、くだらない。自信気に現れたと思えば聞くに堪えない痴話喧嘩をーー」


 その様子にやや呆れ気味のエルフローザは相手にしないことにしたのか、ため息を吐きながら他のブレイブに目線がいった。

 その瞬間。


「『イグナイト・ライン』!」


 橙色に光る線がレーザーの如くエルフローザの頭部を狙った。

 それを発したのはスピアだ。

 ランス達の間をすり抜け、不意の奇襲となって空を飛ぶ。


 しかしそれをエルフローザは、表情ひとつ変えずに首をかしげる事で回避した。


「……狡い真似を」

 

 それには悪態を吐くエルフローザ。

 肉眼では捉え難い魔法のうえ意表を突いた筈なのに躱すとはさすが四天王と言わざるを得ないだろう。


「おうっ!!」

「らあっ!!」


 そして直後、瞬時に駆け寄ったグレイブとハルバードが左右から槍のスイングをエルフローザへと振るう。

 今しがたのスピアの魔法は囮で、隙を作ってその間に近づき攻撃を叩き込む算段だったようだ。


「それは私を甘く見過ぎだろう、たわけ共」


「「っ!?」」

 

 だがその挟撃もエルフローザにまるですり抜けた思えるような最小限の動きで避けられる。

 グレイブもハルバードもAランクのブレイブを担う実力があるというのに、一目で見切られたということか。


「ちぃ! ちょこざいな動きをしやがる!」


「だがよ、そう上手く何回も躱せるかよ!」


 驚きはしたものの、気にする事なく追撃を仕掛けるグレイブとハルバード。

 エルフローザの左右から挟むように位置取った二人は追撃の連続刺突を繰り出す。

 残像が見える速度での槍捌きにはとても回避出来る隙間は皆無のように思えた。

 

「ハッ、その程度、児戯に等しいぞ!」


 それをもエルフローザは一蹴した。

 槍の刃が届く寸前。

 流れるような所作で手に持った薄い剣で、双方から迫る二つ槍先を抵抗なく切り飛ばしたのだ。


「え、これそんな簡単に斬れる代物じゃ、ごふっ!?」


 想定外の出来事に一瞬フリーズしたハルバード。

 その隙にエルフローザの当て付けか槍のひと刺しのような勢いのつま先蹴りが腹部へとめり込み、数メートルは吹っ飛ばされる。


「ぐっ! っの野郎!」

 

 グレイブが穂先を失くした槍でなお突っ掛ける。

 だが半ばやけくそ気味の攻撃が通じる筈もなく。


「ぐはっ!?」


 エルフローザの回し蹴りがグレイブを払い、大型の魔獣の尾撃を喰らったかのように飛ばされる。

 

「う、わあぁ! グレ兄! ハル兄!」


 スピアが兄が倒される光景に悲痛な声をあげていた。

 見ると二人は意識はあるが戦闘続行は不可能な様子だ。

 あの二人の強さは僕も知っているだけに、こうも一方的にやられる様を見てしまうと少しショックな部分がある。


「たわいもない……さて、次はどうするつもりだ。今度はそっちの震えた妹に特攻させるつもりか?」


 グレイブとハルバードを猛攻を凌ぎ切って何事もなかったかのように立ち尽くすエルフローザ。

 その上、ランスを挑発するような声音でものを言う。


「……ほざくなよ四天王。んな訳ないだろ……俺が相手だ」


 ランスはそう言うと構えを解いた。

 持ってる槍は地面に突き刺し、右手から魔法を使い炎を発生させる。


「『バーン・ザ・ランスロッド』」


 その炎は一瞬で形状を変化させ、槍の形となってランスの手に収まった。

 赤光の火炎で槍を形成する、ランスの得意魔法だ。

 本来なら炎を持つことなんて出来いが、その炎はしっかり槍として成立していて、刺したり斬ったりが可能となっている。

 グレイブとハルバードの槍と同じものを使ってる以上、また武器破壊される可能性を考えればそれは得策かもしれない。

 なにせ槍とは言え炎なら斬られても切れないからだ。

 

「こいつは滅却する火であり、刺し穿つ槍でもある。弟たちのようにはいかねえぞ……!」


 『バーン・ザ・ランスロッド』を装備し、構え直したランス。

 その手にまで炎が帯び始めていた。


 ところで見せてもらう度に思うけど、あれ熱くないのだろうか?


「なるほど、それが噂に聞いた『火であり、槍である《バーン・ザ・ランスロッド》』か。いいだろう、我が魔宝剣とどちらが上か勝負しようではないか」


 不敵な笑みを浮かべるエルフローザは、魔宝剣と呼ぶ自分の剣を両手で構えた。

 よほど自信があるのか、あくまでもランスと真っ向から打ち合うつもりらしい。

 

「上等だ……行くぞ」


「いつでも」


 言うが早いか、ランスは疾走した。

 残す火による軌跡が更に走るようだ。

 対してエルフローザはその場から不動の一手。

 魔宝剣を頭上に構えタイミングを見計らっている。

 完全にランスの攻撃を迎え撃つ腹だろう。

 

 刹那、ランスの疾走による推進力を乗せた渾身の刺突と、エルフローザの振り下ろしの斬撃。

 『バーン・ザ・ランスロッド』と、魔宝剣が衝突する。

 そしてその直後ーー。


「っーー!?」


 火炎が弾けたのも束の間。

 『バーン・ザ・ランスロッド』は赤光の炎は、塵ひとつ残す事なく文字通り煙りのように消失してしまった。

 そして絶句する武器を失った丸腰のランスの前には、無傷のままのエルフローザが魔宝剣を翻し、続けて斬撃を見舞う姿勢を見せていてーー。


 次の瞬間、鮮血が飛び散った。


「チッ……どうなってんだよ、くそ……」


 飛び退り、大きく距離を取るランス。

 袈裟斬りに斬られた傷からは痛々しく流血している。


「……勝負ありだな。いや、素晴らしい一撃ではあった。並の者なら武器ごと体を焼き貫かれていたところ。だが我が魔宝剣は魔法を消滅させる力を持つ。魔法で生成した槍では粉砕されるが道理」


 剣に付いた血を払いながらエルフローザは淡々と語る。


「相手が悪かったな、槍使い」


 追撃する様子はない。

 どうやら完全に勝ちを確信しているようだ。


「……へっ、なに勝ち誇ってやがるんだ。まだまだ俺はやれるっての……!」

 

 呼吸は乱れ、浅くはないであろう傷を押さえながらもそう言うと、ランスは地面に刺していた槍を持ち直し戦う姿勢を見せる。

 しかし出血の量は酷くなる一方だ。


「ラン兄もうやめて! その怪我でこれ以上やったら死んじゃうよ!」


 見かねた涙目のスピアが止めに入った。

 必死にランスの腕に寄り添っている。


「四体一の上に騙し撃ち仕掛けた挙句、バンスまで使ったのにこの体たらくなんだから、もうラン兄の負けで終わってもいい! だからもうやめて!」


「や、やめてくれスピア……その台詞は俺に効く」


 止めるつもりなのかトドメを刺すつもりなのか分からないスピアの言葉に、意気消沈するランス。

 本人は止めたい一心なんだろうが更なるダメージになってることに気付いてない様子。

 するとそこに。



「可愛い妹の言うことは素直聴くもんだぜ?」

 


 一体どこに行ってたのか。

 箒を片手にいつものマジシャンスタイルで登場したエーテルがランスを諭す声をかけた。

 

「エーテルか……お前……」


「バトンタッチといこうぜ、ランス」


 そう言いながらランスの肩をポンッと拳を当てるエーテル。

 ていうかあの二人知り合いみたいだけどいつの間に面識があったんだ?


「うわ、あなた早く止血しないと本当に危ないわよ? 血の女神様からの忠告だからね」


「弟さんたちは既に退避されてます。傷の手当も必要でしょう。どうかこの場は我々に……」


 そこにアティナとカオリンも続けてやってきた。

 最初いなかったからまさか逃げたのかと思ったが流石にそれはなかったか。

 普段はバイオレンスだと感じるあいつらの戦闘力も、こういう状況だと頼もしく思えるな。

 どうせならもっと早く来てくれればよかったのに。

 

「ク、クズゴミくんのパーティーの方たちでしたよね……? 気を付けて下さい。敵の武器は魔法を消滅させる能力があります。切れ味も侮れません。それに敵自身の体術もーー」


「大丈夫大丈夫。あんなペラペラの剣ぐらい、吸血神の力の前では薄切りのごぼう並みに頼りないということを分からせてあげるわ」

 

 安心させるつもりか自信満々に意味不明な例えを言いながら、必死に説明するスピアにサムズアップするアティナ。

 余計不安がらせただけにも思えてきた。


「これはまた……色物共がそろったようだな。魔力の圧は逸品だが、それだけでは我が魔宝剣の敵ではない」


 舐めたことにエルフローザはアティナたちを一見するなり、軽く失笑しながらそんなことを口にする。


「色物とは言ってくれるぜ。これから煤色一色になる奴にはお似合いの啖呵だろうがよ」


「え? 私たちそんなにカラフルな配色じゃないと思うけど」

 

「違いますよアティナ。馬鹿にされているのです、私たちは」


 三人がそれぞれ武器を構える。

 意味が伝わらなかったアティナを除いてカオリンとエーテルは少しきている様子だ。

 なに、あのエルフローザも奴らの無駄に火力のある攻撃に晒されれば黙らざるを得なくなるだろうな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 アティナ、カオリン、エーテル対エルフローザの戦いの火蓋が切って落とされた。

 ランス達がやられてしまった以上、この街にいるブレイブでAランクとなるとアティナ達しかいない。

 もしここでアティナ達が敗北すると、事実上この街は魔王軍に落とされたも同然になる。

 なにせ戦って勝てる奴なんて他にいるはずもないからだ。

 つまりこの街の命運が三人の肩にかかっているということ。

 集まった他のブレイブからも声援があがる。

 なんとしても勝って貰いたいこの戦い……!

 

 

 十秒後。

 まずカオリンがやられた。

 スピードで撹乱しようとしたのだろう。

 『天魔舞動』を発動して目にも止まらぬ程の高速で接近したまではよかった。

 でもすぐにエルフローザの魔宝剣で魔法を打ち消された途端、ただの重りと化して地面に転がった。

 誤算だったのは魔宝剣が直接触れなくても効果があったという点だろう。

 剣を振るって生まれた剣風に当たっただけで打ち消されらしい。

 鎧の重量で動けず、倒れ伏したままになっている。


 更に十秒後。

 今度はエーテルがやられた。

 やられたと言ってもほぼ魔宝剣に完封されたと言った感じだ。

 『スカイドライブ』で機動力を確保しながら魔法を撃ちまくったが、悉く消滅させられ。

 剣風に当たってからは『スカイドライブ』も使えず、箒から魔法も撃てなくなる事態に陥ったらしい。


 そして最後の十秒。

 アティナが放った攻撃魔法や『グングニル・ブラッド・クロス』も全て魔宝剣で無効化。

 グングニル本体も真っ二つに切断された。

 自棄っぱちに魔法を使いまくってたアティナも、半分になったグングニルを見て魂が抜けたように意気消沈してしまい……。



 全滅の最後を迎えたという訳だ。



「ちぃぃぃ! 何やってんだ! 一人十秒で負けやがった! 今さっきまでの威勢はどこに消えたんだ!」


 その有様に僕は思わずその場に飛び込んでいた。

 僕の場合ならまともに戦ったら二秒でやられそうだからあまり人のことは言えないがつい体が勝手に動いてしまった。


「ぐっ……! うるさいわね! 今日はたまたま年に一回の絶不調だったのよ! 調子が出なかったの!」


「何が年に一回だ! 負けたとき毎回それ言うつもりか! お前は普通に負けたんだ!」


「言ったわね!? このクズ! グングニルの代わりにあんたを放り投げてやる!」


「やる気か!? おもしれー!」


 取っ組み合いの喧嘩を始めた僕とアティナ。

 瞬間、アティナの鉄拳が僕の頬を打ち抜く。


「頑張れアティナちゃん! おいクズゴミ! 後からノコノコ出てきた奴が偉そうに言ってんじゃねえぞ!」


「そんなに言うならお前が戦え! だからお前はクズなんだ!」


「そうだそうだ!」


 すると、ふざけたことに後ろのブレイブ連中から僕を誹謗中傷するヤジが飛び始めたのだ。


「あぁ!? お前らこそただ突っ立って見てるだけだろうが! お前らこそ戦え!」


「一人だけ隠れていた奴に言われる筋合いはねえぞボケッ!」


「そうだそうだ!」

 

 飛び交う怒号。

 もはや味方同士で乱闘が始まる手前までヒートアップし始める。

 

「……哀れな。味方同士で罵り合い、敵対相手を押し付け合とは。虫唾が走る連中だ。命までは取るつもりはなかったが、情をかける価値もないようだな」


 そしてその様子を見ていたエルフローザが、何やらガチの殺気がこもった声で恐ろしいことを言いだしている。

 しかも何故だかその射殺すような視線が僕に向けられているときた。


「え? ちょ、あの、僕は戦うつもりは実はこれっぽっちも……」


「捕虜はこんなに必要ない。貴様は地獄へ落ちろ」


 めちゃくちゃすぎる。

 理不尽にも何故か怒気を放つエルフローザに完全にロックオンされたようだ。

 やっぱり突然現れて仲間に好き勝手言ったのが奴の癇に障ったのだろうか。

 この大ピンチに助けを求めようと周りをキョロキョロするが、どうも駄目っぽい。

 今言い合ってたブレイブ達は怒るエルフローザにビビって後退りしてる。

 近くにいるアティナはグングニルが使えないし、エーテルは動けないカオリンを引きずって退避したようだった。

 

 気がつけば。

 僕はエルフローザとタイマンしなくちゃいけないような空気になっていた。

 ランスやアティナ達を軽く倒してしまう戦力を持つ魔王軍四天王とタイマンの状態。

 どうしてこうなった……!

 

「クズゴミ」


 僕が絶望を感じていると、アティナが僕の名を呼んだ。

 まさか、こうなった以上は戦えとか言うんじゃーー。



「逃げなさい」



「……え」


 思ってもいなかったアティナのいつになく真剣な雰囲気の言葉に、考えていた逃げるための口八丁が全部頭から飛んだ。

 

「当たり前でしょ。まさか本当にやり合うつもり? 私はまだ戦えるからクズゴミは早く逃げなさい。でないと、冗談じゃなく殺されるわよ」


 そうアティナは既にエルフローザを見据えていた。

 武器もなしに魔法をかき消してくる相手にまだ戦うつもりだ。

 しかも僕を庇ってくれている。

 

 ………………そうなるとなんか逃げづらいんだよナ。


 だから僕は、アティナより前に一歩出て。

 エルフローザに向かって指を指し。


「おい、エルフローザ。お前は今、この街で一番敵に回したら後悔する男を敵に回したんだ」


「ちょ、ちょっと!」


 宣戦布告の意味でそう豪語してやった。

 アティナは何やってんだと言いたげな面持ちだが、言ってしまったものはしょうがない。

 すると、エルフローザは僕の台詞に苛立ったのか、ますます剣呑な雰囲気になる。


「後悔……? 後悔だと? 貴様のような三下が、この私を後悔させると言うか? 本当に口先だけは達者だな、ブレイブという手合いは!」


「今に分かる」


 僕はゆっくりとエルフローザへ歩み寄る。

 奴に対する策を実行するべく距離を詰めたいからだ。

 さっきまでの戦闘を見ていてひとつ気が付いたことがあり、思いついた策だ。

 『ベネフィット・スターズ』第三の能力がなければまずやらないところだが。


 そして僕はエルフローザの間合いへと足を踏み入れた。

 圧倒的なオーラ漂う相手に、正面から向かいあう。


「さて、丸腰でどうするつもりだ。殴るか? 蹴るか? それとも魔法か? いずれにしても私にはーー」


「『ハーミッド・クラウド』ッ!」

 

 僕はエルフローザの言葉を遮り、すかさず魔法を発動させた。

 掌から出た小さい雲が一気に膨張して僕とエルフローザを包み込む。

 発動させたのは『ハーミッド・クラウド』。

 それは自分の周辺に大きめの雲を出現させる水属性なら誰でも使える魔法。

 主に煙幕の用途に使用するものだ。

 

「愚かな! こんな目眩しの魔法なぞ、一瞬で……!?」


 エルフローザがそう喋るのと同時、僕は雲の中から先に脱出する。

 僕の魔力では雲は長く維持出来ないが、十数秒くらいなら保てる。

 ただ魔法である以上、エルフローザの魔宝剣の餌食になるのは明白だ。

 消せるなら消さない理由は無い筈だろう。

 だがエルフローザはそれをしなかった。

 いや、出来なかったのだ。

 何故なら……!



「魔宝剣、もぉぉぉらっったっっ!!」



 僕は天高らかにエルフローザから奪い取った魔宝剣を掲げ、叫びをあげた……!

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