第28話 モータルコンバット

 聖剣エクスカリバー。


 それはこの世で最も著名な剣であると同時に、最も優れた性能を有すると断言して差し支えないと誰も口を揃える伝説の武器。

 聖王と呼ばれる、あの魔王にまで匹敵すると言われた強大な力の人物が使用したと言われる武具の一つ。

 戦闘に使えば必ず勝利するというところから、聖剣に宿るのは振るう者に必勝を与えるという能力とまで謳われる。


「……っ! なる……ほど……! これが……これが聖剣、これが世界最強の称号を冠する剣……! 持っただけでも伝わる魔力に力の圧迫……その逸話は伊達ではないですね……!」


 無機質な鉄の剣は、刃に真っ白な光を纏う大剣へと変貌しカオリンの手に収まっていた。


「カオリン、気を付けて。もし性質まで『エクスカリバー』なってるとしたら持ってるだけでガンガン魔力を吸われるわよ!」


「え、ええ……。どうやら、そのようですね……!」


 見るとカオリンはかなり苦しそうに滝のように汗を流している。

 流石の伝説の聖剣、ただ装備するだけでも一苦労ということか。


「……びっくりしたな。聞いたことないぜ、聖剣にまで化ける剣も、今の詠唱も……。カオリン、山のように質問したいとこだが、今は……来るぜっ!」


 エーテルが叫んだ直後。

 態勢を取り戻したモンスターの大群が怒号を爆音のように鳴らし大気を揺らし、大波の如く全方向から突進攻撃で雪崩れ込む……!



「う、ぐががが、カスどもがっ! とっととすり潰れてくたばってしまえェーーーッエエエエ!」



 崩れた顔面を抑えながら異星人が怒声を発する。

 その巨大な物量に対して、アティナとエーテルが迎撃の魔法を発動させようとした……刹那。



「ーーー伏せてっ!」



 モンスターと異星人の怒号の中、不思議と耳に届いたカオリンの声に反射して、アティナとエーテルは頭が地面に当たる寸前までに身を低めた。

 そしてそれと一緒に僕が屈むエーテルに無理矢理に頭を押されて顔を地面に叩きつけられると同じタイミング。


 カオリンはその場で片足の爪先を軸に駒のように高速回転。

 『エクスカリバー』を遠心力の利用と『天魔舞動』で強化した身体能力にモノを言わせ、恐らく今カオリンが出せる最大出力のパワーで全方向に刃の斬撃を飛ばす。


「う、おああああああっ!!」


 カオリンが唸りを上げる。

 一瞬、先までの短刀に比べれば刃渡りは倍以上に伸びたとは言え、流石にモンスターの身体には当たらないと思ったが、それは否だ。

 光輝く刃が振るわれ残す剣閃は回転の軌跡をなぞり切断のエネルギーと化してモンスターの大群をすり抜けるように通過し、飛来して行く。


「な、何だそれはアぁ!? バカなッ、蟲兵の一斉突撃を、そんな簡単にィィ!? があああああつっ……!」


 有無を言わせない斬撃エネルギーの連弾は周りの全ての敵の姿も悲鳴も呑みこんだ。

 そして次に現れた光景は、剣閃に胴体を泣き別れさせられたモンスター共が『エクスカリバー』の魔力の威力によって発生した衝撃波に吹っ飛ばされ押し出されていくものであった。

 そう、カオリンの繰り出した回転斬撃は、アティナのグングニルでも、エーテルの火炎撃でも、ダメージはあっても原型は止める程の硬度を誇るモンスターの外殻をカッターを紙に走らせるように容易く切断せしめたのだ。


 衝撃波は回転によって渦巻き、切断されたモンスターの赤色の血液と臓物を巻き上げ、おぞましい血肉の嵐を降らせた。

 生暖かい血の雨が降り注ぎ、赤黒く一面を染める。

 衝撃で飛ばされないよう必死でその場に伏せていた身体を起こして辺りを見渡すと、それは凄惨の一言に尽きるような有様になっていた。


「ハァ……ハァ……血……あ……」


「だ、大丈夫か、カオリン……!」


 体力と魔力の限界か、苦手な血を見たせいか、力なく倒れるカオリンを僕は支え、ゆっくりと下に寝転がせた。

 『エクスカリバー』もその輝きが消えて、元の剣の状態に戻っている。

 更に大変なことに、カオリンの意識がないときた。


「う、うわあああ! カオリン、大丈夫か!? しっかりしろぉ!」


 やべぇ、死んだか?

 慌てた僕はカオリンの頬をペシペシと平手で乱れ打ちして起こそうとする。

 しかしそれをアティナが僕の脳天へのチョップで止めにきた。


「落ち着きなさいよクズゴミ。急激に動いたのと魔力の過剰消費で脈拍が速いけど、気を失っただけで命に別状は無いわよ」


「……ガス欠だな。身体の魔力が空になって一気に体力を消耗したんだろ、あたしも経験ある。偽物……いや、本物というべきか? 『エクスカリバー』の力を奮ったんだから無理もない。まあ少し横になっていれば大丈夫だと思うぜ」


「そ、そうなの……?」


 取り乱す僕に比べて冷静な二人の言葉を聞いて、少し安心した。

 確かにカオリンもちゃんと息をしてるし、顔色も……顔色はモンスターの血で濡れて真っ赤だから分からないナ。


「にしても、髪も服も血だらけだよ。周りも全部……よかったなアティナ、夢が叶って」


「……それって血を浴びるように飲みたいって言った話のこと? 流石の私もあれの血は遠慮したいわ……」


 そう言いつつも手に浴びた血を舐めてるアティナに僕は若干引きながら、辺りを見渡す。

 あれだけの攻撃だったのだから全部倒しただろと思いながらも、念のため僕は『アイズ・オブ・ヘブン』で確認しようとした。

 その瞬間。



「ーーーーーーーーーーーーがあっっっっ!!」



 もういい加減聞きたくない怒号を上げ、切断されたモンスターの身体の山から飛び出てきたのは、異星人の奴だ。

 聖剣の斬撃の暴風をどうやり過ごしたのか、五体満足のその身体は怒りのためか更に高温に熱を持ち蒸気を吹き出している。


「あいつ……ぶった斬れたと思ったんだがな……しつけぇ野郎だぜ」


 エーテルがうんざりしたようにぼやく。

 しかし異星人も蓄積したダメージが響いてきているのか、大分呼吸が乱れているようにも見える。

 そしてもう見飽きた異星人お得意の触手群を展開し、宙へ浮かび佇んだ。


「……クズゴミ、カオリンのことお願いね」


 アティナは僕にそう言うと、グングニルを握りしめ立ち上がり、異星人へと構えた。


「クズゴミ。死んでも守れよ、男だろ?」


 エーテルが僕の背中をパンっと叩いてアティナに続く。

 カオリンを置いて逃げないように釘を刺したつもりだろうか。

 信用なさすぎだ。

 言われなくても流石の僕もこの期に及んで一人で逃げようとは思っていない。


 今のところはな。


 そしてやはり、アティナとエーテルは次こそ異星人に始末をつけるつもりだ。

 二人が考えてることは僕でも分かる。

 まだいるかどうか不明だが、再び大群のモンスターを集められては今度こそ打つ手がない。 

 ならば、カオリンが他のモンスターを根こそぎ倒してくれた好機を必ず活かす。



 あの異星人がまた仲間を呼ぶ前に決着を……!



「『グングニル・ブラッド・クロス』……ッ!」


 アティナはグングニルに血のような魔力を覆わせた。

 しかしいつものように投擲するのではなく、手に装備したまま全力で異星人の方へ疾駆する。

 それを迎え撃つ異星人は触手を多方向から鞭のようにしならせ、アティナの足を止めようとけしかけた。

 叩く、巻きつく、絡ませる。

 どれが決まっても一撃で戦闘不能は必至の必殺の攻撃。

 だが眼前一杯にそれを捉えても、アティナは少しもスピードを緩めることはなかった。

 自分の間合いに侵入した順から、グングニルを払い血の魔力で触手を消しとばす。

 瞬く間に異星人との距離を詰めたアティナは『グングニル・ブラッド・クロス』を突き立てようと跳躍した。

 しかしいくら速くても来ると分かっていれば避けられる。

 そう言いたげな行動を起こした異星人はアティナの跳躍の範囲外に逃れるように更に高く宙に飛翔した。

 ほんの僅かな時だが宙にいて動きが出来ないアティナに狙いを定め、今度こそ仕留めようと触手の軍勢を操作しようとーーー!


「『ファイア・クラッカー』ッ!」


 だが空中はエーテルの領域でもあった。

 『スカイ・ドライブ』を発動し、箒を足場に飛行したエーテルの火球群が異星人に連続で炸裂する。


「ぐ、ぬあああぁぁ!?」


 意識がアティナに向いていた分、無防備な意識のところに喰らった魔法は異星人に痛烈なダメージを与えた。

 体制が崩れ煙を立てながら落下する異星人。

 その隙を見逃すほど今のアティナは惚けてはいなかった。


「『アイギス』……!」


 通常、防壁代わりに使用する『アイギス』を自分の足元に出現させ、それを足場に宙で更に跳躍した。


「『グングニル・ブラッド・クロス』ッ!」


 アティナはいわゆるチャージの技の形でグングニルを構えている。

 再度発動したその技は触手の大群を貫きながら本体である異星人の身体へ到達、硬い甲殻を粉々に砕きその肉体を鋭い旋風と化した血の魔力が撃ち抜いた。


「ッがは……!」


 それがとどめの一撃になったのか。

 異星人はそのまま浮くことも触手を展開することもなく、吹き出した己の血液とともに地面へと墜落した。


「……っ、決まったわ! 喧嘩を売る相手を……!」


「間違えたな、マヌケ野郎……!」


 かなり高い位置までジャンプしたアティナをエーテルがキャッチして拾う。

 胴に風穴を開けた異星人にそう投げ言って、決着のゴングとしたのだった。




「……やったか!?」


 気が付けば一瞬の出来事だった。

 アティナとエーテルが突撃して行ったと思えば、僕にはとてもついていけないレベルの攻防が繰り広げられ、結果二人が勝ちを取ったといった雰囲気だ。


「……ん……」


「は! カオリン、目が覚めたか! 大丈夫か!? どこか痛いとことかないか!?」


 僕はうっすら目を開いたカオリンの顔を覗き込む。

 カオリンの顔についた血は、『アイスブロック』の氷を溶かして作った水で濡らした破った服で拭いてあげたからよく伺えた。

 まあ可もなく不可もなくかな。


「はい……私は、大丈夫です……それよりどうなったのですか? 状況は……!」


 まだ具合が悪いのか、カオリンは言いながら身体を起こそうとするがどうも動かないらしい。


「ちょうど終わったとこだよ。もう少し早く起きてればアティナとエーテルが親玉をぶちのめすところが見れたのに。それよかあんまり無理しないでまだ横になってた方が……」


 それに今は仰向けになってるおかげで上を向いたままだが、辺り一面は血の池地獄みたいになってるのでカオリンが見たらまた失神するかもしれない。


「あ、いえ。身体は別に立って歩く程度なら問題無いのですが、魔力が底をついてまして……」


「魔力……? そうだな、『エクスカリバー』使ったらめちゃくちゃ魔力使うってアティナも言ってたぐらいだし」


 どうでもいいけど何でアティナはそんなこと知っているんだろうか。


「その……魔力が無いので『天魔舞動』が使えないのです……つまり鎧が重くて動けません。あの、申し訳ないのですがこれ脱がして貰えませんか?」


「あ、こんなところにマジックペンが……!」


 が、懐から出しただけなのにカオリンから強い殺気を感じたのですぐに戻した僕。

 そういえばカオリンの鎧は百キロ以上あるんだっけ。

 そんなの着てればそりゃ動けないってもんだ。


「それにしても流石ですね、アティナとエーテルは。私が不甲斐なく寝ている間に敵の親玉を討ち取ってくれているとは……」


 カオリンが急に自虐を始めやがったの巻。


「何言ってんだよ。カオリンが『エクスカリバー』で他の奴を倒してくれたから何とかなったんだ」


「それだって、剣は師匠から譲り受けたものですし、エクスカリバーの力だって私の力ではありません……」


 あ、なるほど。

 確かに。


「……! クズゴミ、鎧脱がせるの少し待って下さい」


「え? あ、うん……」


 まあどうやって取ればいいか全然分からなかったんだけどな。


「……どうやらまだ終わっていないようですね」


「っ! まさか……!」

 

 見るとアティナとエーテルも確実に死に体の異星人に向いて警戒体制をとっている。

 僕はすぐさま『アイズ・オブ・ヘブン』を使用。

 死んでいる生物は写せない能力だがら、これでサーチ出来なければ……。


 バッチリ見れちゃった。


 信じられないがあの異星人、あの状態でまだ息があるらしい。




「嘘でしょ……確実に心臓を打ち抜いたって言うのに、それでもまだ倒れないなんて……」


「やれやれ……しぶとさだけは称賛するぜ……」


 仕留めたと確信したのも束の間。

 魔獣とは違い事切れても塵にならない相手のため、魔獣討伐の常識が身についてる二人には判断が不慣れな点はあるものの、流石に今のは倒したと思うに値するダメージのはずだった。

 しかし異星人は地に伏していた致命傷を負った身体をゆっくりと浮かせ、動かす触手を攻撃するでもなく、あたりのモンスターに絡め始めた。


「ぐ……アティナ! エーテル! そいつはもう虫の息の死に損ないだ! 早いとこ、とどめをさしちまえよ!」


 今度は何を仕出かすか分からない異星人になんとなく嫌な予感がした僕は、後ろから二人にそう檄を飛ばす。

 今の異星人の野郎はただの浮いてる的に等しい。

 やるなら今のうちに早い方がいいだろう。


「うるさいわねっ……! ちょっと休憩ぐらいさせなさいよ!」


 何を悠長なと思ったが、見ると二人とも肩が上がってるし呼吸も荒い。

 確かにここまで連戦につぐ連戦で体力も魔力も消耗が激しいのは明白。

 流石にさっきので限界に達する攻撃だったか……!


「ちっ……喚くなよ……言われなくても、こいつで正真正銘最後のとどめだぜ……!」


 エーテルが箒の先端を異星人に構える。


「ふぅ……ふぅ……! お、の、れ……。この我が、こんな……ところで……! 貴様らなんぞにィィィ!!」


 口と身体を貫通したでかい傷からおびただしい血を流しながらも、死への秒読みを始めている筈なのに、まだ何かをやらかすかのような……!


「『シュート・ザ・フラム』!」


 振り絞るように発動されたエーテルの魔法は正確に異星人の頭部を目掛け射出された。

 直撃で間違いなく異星人の頭は消し飛ぶ……!


 着弾まであと一呼吸。

 一瞬後には火球が炸裂する。


「ッ!? おい……冗談キツいぜ……」


 しかし火球が爆けることはなかった。

 それには最後の気力で何とか立っていたエーテルも、がくりと膝をつく。



「ああ……兄様……なんと、お労しい……」


 

 高速で飛んできたのは、もう一人いた異星人。

 今死にかけてる異星人の妹の方であった。

 その妹の異星人の方が自分の触手で、エーテルの火球を着弾直前で払い退けたのだ。


「……ごふっ……ああ……妹よ……ああ妹よ。いいところに来たぞ……」


 血を吐きながら妹の助けに口を歪ませている異星人。


「く……おい、お前の相手をしていた……あたしの兄貴がいた筈だが、どうしたんだよ……」


 エーテルは箒を杖代わりにして身体を支え、力尽きた自分を無理矢理立たせる。

 それでも妹の方の異星人を睨む目は力強く鋭いものだ。


 それにそうだ。

 もう一人の方はオウレンが相手していた筈。

 でもこっちにやって来たってことは……オウレンが負けたことを意味する他ないのだ。

 Sランクの実力者であるオウレンがタイマンで遅れを取るとは考え難いが、やはり既に負っていた傷が響いたのだろうか……。


「……あのオスのことか」


 異星人の妹の方はエーテルの圧に意を介すこともなく、ただ冷えた態度をとっていた。


「聞ケ、あのオスはーーーーッ!?」


 そう何かエーテルに伝えようとしたその直前。

 見ていた僕らも一体何をしたいのか理解出来なく驚くだけで。


 異星人が新たに伸ばした巨大な触手で自分の妹を背後から飲み込み出したのだ。

 触手というよりは、ワームという種類の魔獣に似た形状をしている。

 異星人の身体から生えたそれは人ひとり簡単に丸呑みに出来るほどのサイズがあり、酷く嫌悪感を抱く見るに耐えない醜悪な見た目をしていた。


「あ、兄様……!? まさか、コレハ……一体何をされ……」


 そのおぞましいワーム触手に、一瞬で身体の下半分を取り込まれた妹の方が、何が起きたか分からないという感じで兄に問う。


「妹よ……ああ、本当にいいところに来てくれた……他の雑魚共ではエネルギー源として全く足りなかったのだ。だから……お前のエネルギー、丸ごと我が貰うぞ……!」


 その兄の言葉に、自分がこれからどうなるか察した妹の異星人は驚愕、そして恐怖の感情に震えているようだった。


「お、お待チ下さい兄様……! ココは一度撤退すべき……! それからでも奴ラを……!」


 だが、そんな言葉を無視するように無情にもずるずると次第に身体が呑みこまれていく。


「お願イです……やめて下さい……ワタシはまだ兄様のお役に立テます……デスから……あぐっ!?」


 瞳に涙を浮かべながらそう救いを懇願するも、残った触手が口や手に巻き付き締め上げる。

 それは、もはや兄妹の慈悲など無いことを意味していた。

 あれに呑みこまれたらどうなるかなんて、考えたくもないが想像出来てしまう。

 僕らからすれば敵の仲間割れに過ぎない。

 だけど、とは言え、あまりに残酷、あまりに非人道な目を背けたくなるような有様。


「くぅ……ああぅ…………!」


 抵抗しないのか出来ないのか、なす術もなく身体が引き込まれながらも突き出すその手は助けを求めるかのようだった。

 でも彼女には兄に裏切られた以上、もう味方はいない。

 それに救いの手を差し伸べる者はいなーー。



「おいよせよ……泣いて嫌がってるじゃねぇか……」



 いや、一人いた。

 颯爽と稲光のように速く、躊躇も迷いのかけらも感じさせない力強さで彼女をしっかりと掴んだのはSランクブレイブ、オウレン・ピャウオリーその人だった。


「兄貴……!」


 エーテルは思わずオウレンを呼んでいた。

 やられたと思ってだけに無事を確認出来て安心したからだ。


「……何だ、何をする……? 貴様には我ら兄妹のことは関係ないだろう……邪魔をする気か……」


「見ての通りだぜ。……まだ間に合うだろ、離してやれや……妹なんだろ……?」


 オウレンは吸い込まれる彼女の手を引っ張り、それを阻止している。

 依然、異星人に自分の妹を取り込むことをやめる意思は見られない。


「それがどうした? 妹とは言っても我を産んだ個体から少し時間を空けて産まれたメスと個体……ただそれだけだ。そこに余分な感情を移入するなどある訳がなかろう」


「……異星人、もういっぺんだけ言うぞ」


 冷ややかに答える異星人の言葉。

 それを聞いたオウレンの反応は。


「ーーいいから離せや」


 何がオウレンを駆り立てるのか。

 側から見ているこっちがビビリ上がるほど、キレていて。

 その怒気を隠しきれない声音はその場の全員の心臓を跳ねさせた。

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