第27話 聖剣の名付け親

「『シュート・ザ・フラム』!」


 遠距離からエーテルが力強く唱えると同時。

 箒の先端に出現した魔法陣から直径三十センチほどの火球が砲弾の如く射出され、異星人の顔面を穿たんと空を切る。


「無駄だ」


 しかしそれも異星人が自分の周りに大量に展開している触手の群れに阻まれ、火球は虚しく弾かれ地面に叩き落とされ不発に終わった。

 だがその異星人の注意が一瞬エーテルに向いた隙をついてアティナが動く。


「凍りなさい! 『シルバー・スプレット』ッ!」


 接近したアティナは『アイギス』を足場に跳躍し、異星人の頭上高くからグングニルより放出した『シルバー・スプレット』を豪雨のように打ち付けた。

 凍てつく冷気を見舞われミミズのように蠢いていた触手群は時が止まったように固まり、その動きを停止する。

 更にそこへ追撃を仕掛けたのはカオリンだ。


「魔鏖斬・二重葬まおうざんにじゅうそう……!」


 『天魔舞動』で飛躍した速度で持ってしてカオリンは異星人の懐へ潜り込み、魔力で翡翠に輝く両の手の剣による突き二撃を、一点に叩き込む。

 道中、モンスターを相手に使っていたアティナとカオリンの連携攻撃だ。

 普通のモンスターを相手なら倒すまではいかなくても致命傷を与えるに至ったが……。


「畜生にしては上出来。しかし我には効かな……効かな、効かない……効かないっていっておるだろうがヤメロッ!」


「くっ……!」


 とにかくゴリ押しで技をぶつけまくるカオリンに異星人がキレて蹴りを繰り出すが、そんなのに当たるカオリンではない。

 しかしモロにカオリンが技を肉体へ当てまくった筈なのに流石に親玉だけあって他のモンスターとよりも生命力が強いのか、あの剣撃が通じていない様子。

 自分の技が通じてないと告げられ、カオリンは軽く動揺しているようだ。

 しかもせっかく凍らせた触手群も、触手を強引に動かすことで氷を引き剥がしている。

 再び触手が展開され始めた。


「カオリン、離れてっ! 『ライトニング・ライボルト』ッ!」


 アティナの声が響き、カオリンが瞬時に距離を取ったと同時に、轟音と共に現れた落雷が異星人を直撃。

 アティナはさっきも喰らわせた雷の魔法で攻撃する。

 確かにあれは受けた異星人が悲鳴をあげてぶっ倒れた効果があることが実証済みの攻撃だ。

 これならいけるか……!


 しかし。


「……はっ。同じ攻撃は我には無意味だ……無意味……無意味だと言っているのが聞こえんかっ!」


 アティナは知ったことかとひたすら『ライトニング・ライボルト』を撃ちまくる。

 が、連続で雷を浴びまくる異星人がまた苛つきを見せてるがどうやら本当にダメージは無い様子だ。

 見ると触手を数本操り、地面に突き刺し電撃を地面に流している。

 触手をアース代わりにして本体に電流が届かないようにした訳か。

 あれではダメージは期待出来ないだろう。


「……ちっ、他の蟲に比べておつむの出来がいい分、ちょこざいな真似をする野郎だ。だったらゼロ距離で打ちかましてやる」


 エーテルは自分も接近戦を仕掛けようと飛び出そうとする。

 それを僕は考え直してもらおうと思い。


「で、でもエーテル。クレーターのところで使ってた魔法はどうさ? あれなら倒せるんじゃないか」


 エーテルまで行ってしまったら僕は誰の後ろに隠れたらいいんだ。


「阿保、お前は街を火の海にしたいのか? あんなの街中で使ったらえらいことになるだろうが。それに万が一逃げ遅れた住人でもいたら事だぜ」


 もっともなことを言うエーテル。

 でも僕としては他の建物が壊れるのは一向に構わない。

 損するのは僕以外にも多い方がいいからな。

 ただ住人に関してはどう説明したものか。

 僕は能力で絶対に居ないって分かってるが、エーテルからしたら迂闊には飛び火するような魔法が打てないのはまあ確かにそうだろう。

 アティナは普通に使ってたけどな。

 だけど周りに気を遣って全力を出せずに負けましたじゃ意味ないだろうに。


 ………………。


「……エーテル、実は僕には不思議な力があってな。その力でもうこの一帯には僕らぐらいしか人はいないってことが分かるんだよ」


「あ? こんな時にいきなり何言ってんだ? 訳分からないこと吐かしてるとお前の顔から焼くぞ」


 酷いことを。

 せっかく状況が状況だから、後のことを顧みず勇気を出して産まれて初めて他人に秘密を打ち明けたというのに。

 信じてもらえないんじゃしょうがないな、うん。


「とにかくクズゴミ、死にたく無ければ何処かに隠れてろ。お前もブレイブなら自分の身ぐらい自分で守れよ?」


「は、はい」


 どうやら、お恥ずかしいことに後ろに隠れていたことはバレていたようだ。

 しょうがないからここは大人しく言われた通りにするとしよう。

 にしても、エーテルも大分しんどそうに見えるが大丈夫なのか。


「あ、飛んだ!」


 僕が心配を思っていると、アティナが叫んだ。

 見ると、アティナとカオリンの猛攻から逃げるように異星人が空中高くへ浮遊したところだった。

 相変わらず羽もないのにどうやって飛んでるんだろうか。


 そしてそこへ『スカイ・ドライブ』を使って箒で飛行したエーテルが接近して奇襲をかける。


「顔面に! シュート・ザ・フラーー」


「鬱陶しい! 集合フェロモン!」


「っ!」


 異星人が言うと同時に、その身体中からピンク色の霧のようなものが吹き出した。

 それにはエーテル、警戒して魔法の発動を中断して回避が効くよう一旦身を引く。

 そしてその直後。


「う……マジか……!」


 それは身の毛のよだつ光景だった。

 そのフェロモンに誘われたか、無数のモンスターが雪崩れ込むように集まってきた……!


「『リストリクション・タイフーン』を展開せよ! こいつらを嬲り殺しにするのだっ!」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あれ? もしかしてこれ、本格的にやばい状況なんじゃ……」


 戦況を影から『アイズ・オブ・ヘブン』で観察した僕は、結論を思わず口にする。


 正直、見通しというか考えが甘かった。

 いくら連戦で消耗しているとはいえ、あのアティナとカオリンとエーテルが三人がかりでリンチにかかれば充分に勝てると踏んでいたのだが、現実はそう上手くいかず。


 現在、その三人は異星人が呼び寄せた大量のモンスターで形成された『リストリクション・タイフーン』なる黒い竜巻の中に囚われ苦戦を強いられていた。

 四方八方からくるモンスターの攻撃を何とか魔法で迎撃している状況。

 あれでは戦線離脱を封じられたも同じだ。

 もちろん逆に外から中に入ったり様子を伺うことも不可能に近い。


 僕でなければな。


 まあ考えようによっては異星人だって逃げずらくなった訳だから逆にチャンスではないかと思ったのだが、それは全く無かった。

 竜巻の中はまさに異星人の奴の領域だ。

 まず中では異星人に接近することすらがかなり難しい。

 周りのモンスターが触手や光弾で絶えず妨害を飛ばしてくることに加え、異星人自体はモンスターを身の回りに固めて配置して守らせているため奴に攻撃が届かない。

 かと言って先に守りのモンスターを処理しても、処理したさきから竜巻の方から補充されていくタチの悪さだ。

 ずっとモンスターを倒し続ければ打開出来そうな気もするが、流石にその前にアティナ達が力尽きてしまうだろう。

 つまり現状、ジリ貧の形だ。

 実際、アティナ達はモンスターの攻撃を捌きながら少しずつ反撃しているようだが、異星人にまでは手が回らないらしい。

 今までで一番の大群を相手に勝機を見いだせないという未曾有の危機。


 そこで僕はオウレンに助けを頼もうと考えたが、それも期待出来そうにない。

 『アイズ・オブ・ヘブン』でオウレンの状況を見てみたところ、どうやらかなり苦戦しているようだったからだ。

 相手の攻撃を喰らうばかりで、防戦一方といった具合で逆に助けが必要な様子だった。

 やはりアティナが言ってたように身体中に傷を負っている状態では流石のSランクでも満足に戦えないのだろうか。

 とはいえ外部から助けを呼んだとして、仮に他のAランクのブレイブに来てもらっても焼石に水な感じが否めない。

 アティナとカオリンはAランクでも割と強い方らしくエーテルも同等の力を持ってるとして、その三人が苦戦する奴が相手では善戦することも厳しいだろう。


 ……と、色々な状況を踏まえると戦況は極めて劣勢と言わざるを得なく、本格的にやばいのは間違いない……という訳だ。


 どうしよう。


 流石にこれは呑気していられない展開だ。

 まず何とかしてアティナ達を救援したいところだが、あまり上手い方法を思い付かない。


 ちっ、せめてあの異星人に何とか攻撃が届けばこの状況を打開することが出来るかもしれないのに。

 例えば親玉が死んだら自動的に他の兵も消滅する的なやつを希望する。

 いや、消滅まではいかなくても急に動かなくなったり逃げ去ったりのアクションはあるかもしれない。

 漫画とかでもありがちな話だし。

 あれ、なんか本当にそんな気がしてきたぞ。

 これは……いける……?



 この時の僕、もちろんそんなことある訳ないと頭のどこかでは分かっていたものの、あまりにも連続で不幸が重なったため自暴自棄気味になっていて、なんの根拠もない希望的観測にすがるという、いわば現実逃避を起こしたのである。



「よし、そうと決まればあのくそったれの異星人に攻撃開始だ」


 ……でもどうやって?

 僕には方法はあっても手段が不足している。

 そう、近づくのに関しては問題無いのだが、近づいてもダメージを与える力がないのだ。

 それかあるいは僕が倒さなくても、攻撃出来る隙を作り出せれば誰かがやってくれるかもしれない。

 ならばここは僕のやり方で僕に出来ることをするまでのこと。


 と言っても、今の僕の手持ちにはろくなものがない。


 僕の現在の武装は……落書き用のマジックペン一本、イタズラ用の爆竹が一房、嫌がらせ用の虫の死骸一匹、さっき救出する時につけてた仮面、あとは自分で飲んで自爆した例の特濃塩水入りのボトルだ。


 ……マジでろくなものがない。


 なんでナイフの一本でも持ってないんだ僕は。

 体力もキツいけど仕方ないから家に一度転移して武装を整えて……いやダメだ、家はもう無いんだった。


 ちくしょう、泣きたくなる。

 家の中の家財や備蓄も全部お釈迦かよ。

 それもこれも全部異星人のせいだ。

 それに今の体調で体力回復のポーションを失ったのは痛い。

 くそっ、こうなったら爆竹でも口に捻じ込んでやるか。

 ちょっとは隙を作れるかもしれないし。

 あ、でも火がないな、これじゃ使えない。



 ……………………。



 そこまでの思考をわずか三秒で済ましたあと、いつものような冷静な判断が出来ず、僕としたことがもう半ば面倒になり、やけくそに突撃をかましたのだった……!


 『ベネフィット・スターズ』第一、第二、第三の能力を同時に発動!

 そして『オーバー・ザ・ワールド』だ!

 モンスターの竜巻内の異星人のすぐ隣に転移した僕の姿は誰にも認識される事はない!


「喰らいやがれこの野郎! 人間の怒りを思い知れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぁぁ!」


 そう気合を入れて、僕は塩水を異星人の頭にぶっかけた。

 チョロチョロと飲み口から出た塩水は異星人の頭に滴る結果となる。

 非常に地味な絵面だ。


 そして中身を全部かけ終わった直後。


「……はぁ、何をやっているんだ……? 僕は……?」


 僕、唐突に賢者タイムにでもはいったかのごとく冷静さを取り戻す。

 今の今までマックスだったテンションのボルテージも一気に急降下した。

 戦場となっている現場に足を踏み入れたことによって逆に頭が冷えたらしい。


 刹那、僕の脳裏に走馬灯のように浮かびまくったのは後悔の念。

 考えれば他にも色々と手はあっただろうに、何故こんな馬鹿な真似を……!

 どうかしてた……!

 無駄な体力を使ってしまった……!


 しかし次の瞬間、その一見無意味な僕の勇気ある行動は、その意味を持ち始める。


「ギ、ギャァァァアアアアア!? なんだぁ!? か、か、か、顔がぁ! 顔が焼けるぅぅぅ!? ぐあぁぁぁぁぁぁああああ!!」


「え」


 いきなり異星人が発狂したように顔を抑え悲鳴をあげ始めた。

 見ると、僕が塩水をかけたところから煙をたて、硫酸でもかかったかのような状態になっている。

 じゅうと焼ける音を立てて、異星人の顔面の肉が次第に溶け落ちていき、非常にグロテスクな有様に……。


 こりゃ酷い、見てられん。

 思わず目を逸らしてしまうほどだ。


「おおおおああああっ! おのれぇ! 一体何をしたぁ!? うぐぅ、この痛み! まさか、我が唯一の弱点である塩水をかけられたというのか!? い、いつの間に……ぐおおおおおおお!!」


 悶えて苦しみながら暴れる異星人がなんか言ってる。

 よく分からんけど、どうやら僕は偶然こいつの弱点をついてしまったらしい。

 それに見ると同調したように周りのモンスターの動きが鈍くなっていき、攻撃や妨害の手も止まり、飛行していたのは地面に落っこちた。

 アティナ達も何が起きたのか分からずポカンとしている。

 やはり司令塔の異星人を止めればモンスターも止めれるという仮説は正解だったようだ。


 やったぜ。


 たまたまとはいえ、何というファインプレイ。

 やはり、僕は神に愛されているようだ。


「ブハハハハハハハハハ! ザマァ見やがれこのアホが! 調子に乗るからこうなるんだよ馬鹿め! ガハハハハハハハハ、ごふっ!?」


 僕が認識されないのをいいことに調子に乗って高笑いしていると、身体の右側から強い衝撃を受け吹っ飛ばされた。

 どうやら痛みで暴れ狂う異星人の触手が一本ぶつかってきたらしい。

 『ベネフィット・スターズ』第三の能力のおかげで怪我は無いが、めまいがするほど転がされ地面の味を味わうことになった。


「う……ぐ……ふ……あの顔面崩壊やろー、次は直接海水ダイブの刑に、あぐっ!?」


「きゃあ!? びっくりした!? え、何? 今なんか踏んだ……?」


 今度は起き上がろうとしたところを後頭部を踏まれた。

 まさに踏んだり蹴ったりだ。


「この野郎やりやがったな! 虫の死骸でも喰らえ!」


 起き上がった僕はすかさずポケットに潜ませておいた羽虫的なカラカラになった虫の死骸をアティナに投擲する。


「嫌っ! ちょっと! そんなの投げないでよ! ていうかクズゴミ、なんであんたこんなところにいるの? 早く逃げなさいよ」


「えっ。いや、これは、その……」


 しまった。

 いくら『ベネフィット・スターズ』第一の能力で認識され難くなっていても、自分から騒ぐような真似をすれば流石に存在がバレるというもの。

 どう誤魔化そうと思った矢先、ちょうど異星人が騒ぎ始めた。


「くぅうううあああ貴様らぁぁぁ! 許さん! 許さんぞ!! どいつだぁ!? 一体どいつが我に海水なんぞ、をぶ!?」


 大気が震えるほどの怒号に意を介さず。

 怒りに拍車をかけ怒鳴りまくる声は異星人の隙を刺すように、豪速球の火球が溶けた顔面に炸裂して遮られた。

 火球の威力に異星人は顔を炎上させてぶっ倒れる。

 ダメ押しの炎で奴の顔はめちゃくちゃだろう。


「やっと狙えたな。そいつが返事だ。釣りはいらねぇぜ、虫野郎」


 マジシャンハットのツバで片目を隠し、箒の柄を異星人の顔面目掛けて火球をスナイプさせたのはもちろんエーテルだ。


「カッコつけてやんの」


「こ、これは狙いを定めるのに片目を隠すためだぜ……」


 そうなんだ。

 まあそれはいいとして、果たしてこれで倒せたのだろうか。

 異星人の奴はぶっ倒れたまま起き上がってこないが。

 念のためアティナにでも断首させた方がいいか。


「止どめよ! 完全なる止どめを刺しましょう! 親玉もどうせ他の虫と同じようにしぶといに決まってるわ。もう二度と起き上がってこないよう五体バラバラに吹っ飛ばしてやるのよ」


 酷いこと言いやがる。

 今更だけどこいつは吸血神で血を司る女神だったよな。

 僕の女神のイメージはもっと慈悲深い清楚な感じの人柄だったのにアティナにはそれが微塵も見受けられない。

 やっぱり血が好きなだけあって性格も血生臭いやり方が好きなんだろうな。


「……蟲兵! 攻撃フェロモンだ! 刺し違えてでも奴らを殺せっ!」


「げぇ、あいつまだ生きて……!?」


 アティナが言った通りしぶといくまだ息のあった異星人の命令が響く。

 それを受け取った停止していたモンスター共が再起動を始め、すぐにも襲ってくるような殺気を持った。

 動きの悪くなった歯車のようにガクガクと身体を動かすモンスターの大群。

 再び攻撃してくるのは時間の問題だ。

 まだ囲まれている状況は変わらないというのに。

 なんてこったい。


「アティナ、もう一回あれやってよ。ほら、さっきのアイギスから弾丸をたくさん飛ばすやつ。あれならまとめて倒せる」


 今思い出したことだ。

 考えてみればあれをやってくれれば別にこの場を凌ぐことは簡単ではないだろうか。

 その時に比べてモンスターの数はだいぶ多いけど何発も撃てばいけるだろう。


「でも近くでエーテルのお兄さんがもう一人の奴と戦ってるでしょう。あれは加減の調整が利かないから下手したら巻き込んでしまうかも……」


「う、まあ……確かに」


 構わんからやれと言いたいところだが、エーテルの逆鱗に触れそうだしな。

 当てが外れた。

 それに流石のアティナも魔法の連発でかなり魔力を使ったからか、肩が上がり息をきらしている。

 消耗は激しそうだ。


「エーテル、こうなったらもう遠慮しないで思うがままに奴らを根絶やしに……!」


「……クズゴミに言われるまでもないぜ……最初からそのつもりだ、あたしがまとめて面倒みてやるよ」


 と、口では強がってはいるが、見た感じではだいぶしんどいようにみえる。

 変な汗だらだらかいてるし、顔色だって優れない。

 魔法の使い過ぎだろうか。

 僕たちと合流するまでにどれだけ戦ってたかしらないが、正直当てに出来なさそうだ。


「カオリン……じゃどうしようもないか」


「!?」


 カオリンがショックを受けたような感じだが、流石に魔法なしで剣だけではこの量を倒すのは無理だろう。


「くそぉ……キツイな……三人かかえていけるかな……」


 僕はもう『オーバー・ザ・ワールド』でこの場を離脱することだけ考えることにした。

 怪我こそないものの、スタミナも魔力も大幅に削れた状態では、仮にこのまま三人で戦っても相手の数が数だけに押し切られるのは目に見えている。

 本当に多すぎるんだよな、モンスターが。

 殲滅するのは厳しい話。

 走って逃げ切るのも無理だろうし。

 正直今の体調でやれるか不安だが、やらなきゃやられるのだからやるしかない……か。


 そう僕が決心を固めていると、


「あの、クズゴミ」


 ずっと無言で自分の剣を見ていたカオリンが声をかけてきた。

 ぶっちゃけカオリンは派手に広範囲を攻撃する魔法や技を持ってないから、最悪その速さを活かして囮にでもなってもらおうと思ってたのだが。


「どしたの、毒ならいらないからな」


「違います! ……確認したいのですが、荒野地帯で話した最強の剣の名はえくすかりばーで間違ってないですか。その剣にはこの危機を乗り越える力があると思いますか」


「え?」


 神妙な面持ちでそう問いかけてくるカオリン。

 急に何言ってんだと思ったが、手に握られている剣を見てすぐにその意図を理解する。

 確かカオリンの剣、『名無』と『無名』は、命名した名前が意味を反映し力を発揮する能力だと、聞いてもないのに色々説明していたっけ。

 つまりエクスカリバーと名付ければ、エクスカリバー並の力になると言うことだろうか。

 まあ本当かどうか正直眉唾物だけど、もうこの際、使えるものは全部使うべきと思った僕はそれ以上はもう何も考えずに。


「余裕だと思うよ」


 実際のところどうか分からないけど、カオリンに自信たっぷりにそう返事した。

 そんななんの根拠もない僕の言葉を信じたのか、カオリンは何も言わず、ただこの状況でも頷き笑みを見せる。


「……いきます」


 二刀流に抜刀していた剣を一本鞘に納めると残ったもう片方の剣を柄を両手で握りこみ、目を閉じ、念じ、祈るように詠唱を口ずさみ始めた。


「〈名も無き其よ、愛おしき我が御剣よ……八武衆カオリナイトがここに詠う〉ーー」


 静かに強く、そして大人しく響くカオリンの声。

 瞬間、その言葉に呼応した剣が、淡く翡翠色の光の輝きで当たりを染める。


「〈其の大いなる栄光と祝福を願い、其の終わりなき勝利と気丈を祈り、我が揺るがぬ愛心と誇りを籠め〉」


 詠唱を続けるに連れ、更に光が強くなる。

 しかしそれは目を背けたくなるような刺激ではなく、むしろ眺めていたくなるような優しい光。

 今この時だけ、そこが世界の中心になったかなような存在感を醸し出す。


「〈其が我らの未来を、道を、世界を照らす、希望と開拓の星とならんことを想いて、この名を贈る。其の名は〉……」


 次の刹那には辺りを翡翠に染めていた光は刀身に収縮され、凝縮した光は真っ白な色彩に変化し、新たに輝く剣を造る。

 それは誰もが知り、誰もが尊ぶ、神々しいまでの神聖なオーラを持つ伝説の聖剣。



「『エクスカリバー』……ッ!!」



 そう呼ばれたカオリンの剣は、答えるよう更に、更に、更に深く輝いた……!

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