第26話 異星人

 ギリギリ殴られずに済んだ僕は今、エーテルとお揃いのマジシャンハットを被ってたブレイブを軽い感動を覚えながら見据えていた。

 黒いローブをマントのように羽織り、どんな疎い奴でも分かるほど醸し出す強者の風格。

 包帯が巻かれている両腕は多くの魔獣を屠ってきたのであろう。

 

 ブレイブにはランクが設けられていて、最高位のSランクに位置づけられるのは数いるブレイブの中でも僅か七人しかいない。


 その一角を飾る彼の名はオウレン・ピャウオリー。


 一応ブレイブなら知らない人はいないぐらいの実力者であり、憧れを抱かれるようなお方だ。

 僕も名前はもちろん知っていたが、実際に見るのは初めてだった。


「……エーテルの兄貴さん、まさかあのオウレンさんだったとは……今度サインもらってくれよ」


 まさかの兄妹だと今さっきエーテルから聞いたのだ。

 Sランクブレイブ、それもオウレン・ピャウオリーのサインともなればファンに高値で取り引き出来るからナ。


「そういうのが嫌だからわざわざ言わなかったんだがな……」

 

 僕の横で一緒に後ろ遠くからオウレンを見るエーテルが確かに嫌そうにそう言った。

 多分いろんな人に同じことをねだられているのだろう。

 強いし人気あるからなあ。

 まあ僕自身はそんなにだけど。

 

 そしてそのオウレンと向き合い対峙する相手がいた。

 歴戦の猛者であろうオウレンにはやはり只者ならぬオーラがあるが、それに引けを取らないほどのプレッシャーを放つ存在。

 姿形は人とほぼ同じ。

 違うのは皮膚の色がやや赤く、モンスターのような黒光する甲殻が服がわりのようにまとわっていることだ。

 全くの正体は不明。

 だが明らかにブレイブではない故に、味方ではないのは間違いない。

 むしろモンスターの親玉といった感じだ。

 オウレンと互いを牽制するように睨み合っている……というより相手に関しては牽制ではなく、こちらを値踏みするようにじろじろ観察しているように思えた。

 もう一人その後ろに待機している奴もいるが、何をするわけでも無く沈黙している。

 だが警戒は必要だろう。


 そしてちなみに僕の命の恩人でもある。

 あの人達が突然、空から降ってきてエーテルの気を引いてくれなかったら今頃エーテルの拳が僕の顔面を捉えていたかもしれない。

 誰だか知らないけどマジで助かりました。


 そんな一触即発の空気に、オウレンの後ろで控えるエーテルも瞬時に動けるよう箒を構えて臨戦態勢でいた。

 僕もSランクのオウレンがいるから大丈夫だとは思いつつ、いつでも逃亡を図れるよう気構える。


「……あーー、この個体か。腹立たしいことに、送り込んだ我が蟲の大半を死滅させてくれたのは……なるほど。確かに、強大且つ密度の高いエネルギー反応を感知出来る。収集用の蟲では歯が立たぬ訳だ」

 

 その親玉といった感じの奴はこのジリジリとした空気の中、周りのモンスターの黒焦げた死骸を見ながらそんなことを口にする。

 そしてそれは酷く不快感を覚える声音だった。

 まるで家畜かドブネズミにでも声をかけているかのような相手を明確に下と思っているようなものだったからだ。

 同じことを思ったらしいエーテルは舌打ちしていた。

 まあ僕はよく聞くから大して何も感じないが。


「ああ、こいつらあんたらのペットだったのか。そいつは悪いことしたな。まあ正当防衛だったんだ、勘弁してくれや」


 しかしオウレンは気にも留めて無い様子だ。

 逆に何故か相手の方が苛立ちの雰囲気を見せる。


「……おい貴様、何を気安く話しかけている。自分が我と同等だとでも思っているのか? 我にとって貴様はただの家畜同然の存在、家畜に同じ扱いをされるのは気分が悪かろう」

 

 ゴミでも見るような目でそんな台詞を吐き捨てる。

 何様だと言いたくなるような口ぶりだ。

 それには言われたオウレンよりも後ろで聞いてたエーテルの方がブチ切れて、魔法を撃ち込もうとするのを僕は必死なだめた。


「止めんなよクズゴミ……! 野郎、あの舐めた口ごと吹っ飛ばしてやる……!」


「まあまあまあ、少し落ち着けってば。ここはオウレンさんに任せようって」


 兄にあんなこと言われて黙っていられないのだろう。

 自分のこと以上に怒っているエーテル。

 正直、めちゃくちゃ怖い。

 とくに目つきがおっかなすぎる。

 僕はよく恨みを買った相手に似たような態度取られるから特段どうということはないけどな。

 

「……はぁ、つれねえな。俺はオウレン・ピャウオリーというもんだ。せっかくその蟲と違ってお喋り出来るんだ、あんたらの名前とか目的ぐらい教えてくれたっていいじゃねぇか」


 ヒートアップするエーテルに比べ、オウレンは冷静というかクールだ。

 落ち着いて冷めてると言った感じか。

 まあ少なくとも表面上は。


「……はっ。この星では狩る獣を相手にわざわざ名を名乗るのか? これから仕留める獲物の名をいちいち知る必要もないだろう。故に貴様の名なぞどうでもいい」


「あ? この星……?」


 オウレンは狩りの獲物扱いされたことなどはスルーし、この星という発言に疑問を抱いたようだ。

 確かに僕も気になった。

 まるで自分はこの星の生き物では無いかのような言い方だ。

 

「ふん……まあいい。おい」

 

 そう奴が言うと、奴の後ろに待機して沈黙していたもう一人が呼ばれたことで反応し、うつむいていた顔を上げた。

 身体はこじんまりとしていて同じように地肌に服のように黒光する甲殻を身に纏っている。

 あと髪が地面に着きそうなぐらい長い。

 するとその姿を見たオウレンは。


「……あり、だな」


 そんなこと呟いた。

 何がありなんだろう。

 

 そんな僕の疑問を他所に、彼女は片言で事務的な感情の無い声で説明を始めた。


「そちらの立場で言い表すのなら、我々ハ異星人だ」


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 簡潔な説明だったが、はっきり言って突拍子の無い荒唐無稽な話すぎた。


 簡単に言うと、自分達は異星人でこの星には主に宇宙船に使用するエネルギーの奪取を目的に降り立ったとのことだ。

 聞いた感じだとこのエネルギーというのはどうやら魔力のことらしく、異星人は殺した相手の魔力を自分の体内に貯蔵出来るらしい。

 そんでその貯蔵した魔力を宇宙船の燃料にすると言っていた。

 ちなみに宇宙船とは街の上空高くに浮いてるあの超巨大物体のことだろう。

 あのモンスターは身体の一部から培養した生物で、何でも獣を引き寄せるフェロモンを出して寄ってきたのを殺して魔力を集める予定だったんだと。

 あとこれは別にどうでもいいけど、あの異星人二人は兄妹らしい。


 とまあ、僕はそこまで聞いて色々分かった。

 荒野地帯でアティナ達が戦った隕石だと思ったモンスターはあの宇宙船から落とされた物だったのだろう。

 そしてモンスターの性質上、魔獣を引き寄せて触手で一気に殺戮と言った訳か。

 そしてもちろん魔獣とかではないから息絶えても塵になる事は無いと……。

 

 なるほどな。

 ふざけすぎだ。

 なんて迷惑なことなんだ。

 どうせならこの星のもっと別な場所を狙ってくれればよかったのに。

 おかげ家を失う羽目になってしまった。

 ていうか、あいつら随分と親切に色々と説明してくれるな。

 意外と根はいい奴なのかもしれない。

 

「元々この星、強いエネルギー反応が多く目をつけていた。更にこの星の時間計算で、約五百時間前のこと。星全体よりもっと、星の外にまで響くほど膨大なエネルギーを感知した。我々ハそのエネルギーの源に狙いをつけた。ついては捜索にあたる拠点としてまずこの集落を襲った……以上」


 と、一頻り説明し終えると、妹の方の異星人は再びうつむき沈黙し始めたのだった。


 ……五百時間ったら、三週間くらいか。

 三週間前にそんな膨大な魔力が響くなんてことあったっけ……。


「……魔王、か……」


 そうボソリと、思い出したかのようにエーテルが呟いた。

 そのワードを聞いた瞬間、僕は理解する。


 そうだ。

 その日、魔王が癇癪を起こして憤怒の波動だか言う迷惑極まりない魔力を世界に撒き散らすなんて大事件があったじゃないか。

 つまり、また魔王のせいという訳か。

 またもや奴が元凶……!

 ほんと、いい加減にしてもらいたいもんだ。

 許せねぇ。

 奴のせいで僕は酷い目に遭いまくりだ。

 それに何に怒ったのか知らないが、魔王を怒らせる奴も大概の馬鹿野郎だナ、全くよ。


「……まあ、お宅らの事情は大体分かったけどよ、流石に俺らが黙っていいようにされるとは思ってないだろ。あの蟲共を戦力に数えているなら、はっきり言ってお話にならないぜ?」


 オウレンも多分同じことを思い出しただろうが、どこ吹く風、そんなことはどうでもいいといった具合で挑発とも取れることを口にする。

 それに異星人は、明らかに機嫌を損ねたような表情だ。

 

「粋がるなよ獣風情が。貴様が仕留めた蟲なぞ、幾らでも生産出来るただのエネルギー収集用の雑兵に過ぎん。戦闘用の強化兵を相手にすれば、貴様なぞ一分も待たずに肉塊へと変わることだろう……!」


 異星人はその強化兵とやらを呼びつけようと上空の宇宙船に何かの合図を送ろうとしたのか。

 宇宙船に向けて手をかかげた、その刹那。



「『ライトニング・ライボルト』っ!」

 

 

 どこからともなく聞こえる魔法名と雷光。

 同時にまるで避雷針にでもなったのかと一瞬見間違うほど綺麗にすぅと、落雷のような電撃が手をかかげた異星人に鮮やかに直撃した。

 

「ぐぬあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「あ、兄様ぁぁぁ!?」


 沈黙していた妹の異星人も、思わず悲鳴をあげるほど突然起こった不慮の襲撃。

 十秒くらい雷撃を浴びた異星人は、口から黒い煙りを吐きながら力尽きるようにその場にどさっと倒れた。

 妹の異星人が駆け寄るがあれは手遅れな気がする。

 そして、してやったといった態度でVピースをしなから現れたのはこの事態の主犯。


「親玉、討ち取ったりぃぃ!」


 もちろん、アティナである。


 少し忘れかけていたが、アティナとカオリンが絡まれていたモンスターを退けて追いついて来たようだ。

 どうやらアティナは異星人の話を聞いた訳ではないが、もう見た目がモンスターのボスっぽいという理由だけで攻撃を仕掛けたと思われる。

 結果的にはよかったが、違ったどうするつもりだったんだ。


「あ、エーテル! よかった、やっと会えたわね! ずっと探してたのよ」


 アティナとカオリンは時間にしてみれば大して経ってないが、すごく久しぶりに再開したかのようにエーテルに駆け寄って来た。


「エーテル、無事で良かったです。一人で行ってしまうので心配しましたよ」


「ああ、アティナ、カオリン……二人ともあたしの為に来てくれのか。悪かったな……ありがとう」

 

 エーテルは嬉しそうな、照れくさそうな仕草を見せていた。

 にしても温度差激しいな。

 僕がエーテルを見つけたときは殺されたかけたっていうのに。

 タイミングが悪かったというのもあるだろうが。


「それにしてもまさかクズゴミが先に来てるとは思いませんでした。よく一人で大丈夫でしたね」


「え。あ、うん、まあね……」


 もしかしてここまでの道にまだモンスターがいたのだろうか。

 転移して来ましたとは言えないし。


「どうせ無様に逃げまくった先がたまたまエーテルの居る場所だったとかなんでしょ。手に取るように分かるわ」

 

 いや、違うから。 

 違うけど……まあ今そういうことでよしとするしかないか。

 あと、アティナにはいつか接着剤と水をブレンドしたものを髪にスプレーしてあげよう。


「しかしなんだあいつは。口ほどにもなさすぎるだろ。一撃で終っちまったじゃないか。見掛け倒しにもほどがある。身の程をわきまえて宇宙の塵でも啜ってりゃ死なずに済んだのによぉ」


「あんたはまたそういうことを言う……」


 アティナが呆れたように言ってくるが、やったのはお前だぞツッコミたい。


「う、ぬあぁぁぁ、おのれ……! よくも……!」


「お、あれでよく生きてたな……何よりだ」

 

 しかしオウレンが言うように、どうやらしぶとく生きていたようだ。

 雷撃を喰らった異星人はガクガク震えながらも立ち上がる。

 なんかもう無理しないで帰ったほうがいいんじゃないかと思わず言ってやりたくなる有様だ。


「いぃ気になるなよ!? 腐れ畜生共がぁ! 貴様ら全部、醜くグロテスクに引き千切って皆殺しにしてくれるぅ!」


 怒号を飛ばす異星人。

 その身体は怒りのせいか高熱を帯び、皮膚がマグマのような色を見せ始めた……!

 あれが異星人の戦闘モードなのだろうか。


「……何も飼い主まで殺すことはねえなと思ってたんだが……仕方ないよな。おい異星人、殺すと吠えた以上、殺されても文句吐かすなよ……?」

  

 言いながらオウレンは指を鳴らす。

 怒り心頭の異星人の圧に臆することなくオウレンも殺気立たせ戦闘態勢にはいったようだ。


 こりゃもう激突は免れないナ。

 その莫大な魔力の大元である魔王の居場所を教えれば大人しく帰るかもと思ってたのに……!

 だけど、それももう駄目……!

 穏便には解決しなくなってしまった。

 くそ、アティナのせいだ。

 せめてこっちに、火の粉が飛んできませんように。


「すぐにそのデカい口をたたけないようにしてやるぞ貴様……! だが先ずは……!」


 直後、僕にぞくりとした悪寒が走る。

 かなりの確率でやばいことが起こるような嫌な予感がした。

 そして案の定。 

 ギロリと異星人の血走った目がこちらを覗く……!


「先ずはそこの不意打ち仕掛けてきた紫毛のメスと、ついでに黒毛のカスからだぁ! 八つ裂きにしてばら撒いて蟲共の餌にしてくれる!」

 

 は?


「あらまあ、吸血神であるこの私をご指名で殺害予告とはいい度胸じゃないの。上等よ、返り討ちにしてあげるわ! 八つ裂きになるのはどちらかしらね!」


 アティナはいつもの感じでそんなこと言っている。

 その調子で頑張って貰いたいところ。


 しかし何故僕にまで異星人の怒りの矛先が……?

 不意打ちかましたアティナに殺意が湧くのなら理解出来なくもないが、この場において人畜無害且つ魔力、つまりエネルギーがほぼない存在である僕に牙を向ける道理は皆無だろうに……!

 今日何度目のめちゃくちゃな理不尽だ。

 いやまさか、さっき僕が見掛け倒しとかなんとか色々と悪口を言ったのに耳を傾けていて、それに対して腹を立てているというのか。

 とどのつまり、報復……意趣返しということ。

 だとしたら、なんという小物……!

 たったそれだけのことで殺すとか、なんて器が小さい……!

 デカいのは態度と宇宙船だけだナ。


「アティナ、あたしにもやらせてくれよ……! 奴の舐め腐った口にファイアーボールぶち込んでやりたいと思ってたところなんだぜ……!」


「エーテル、私も助太刀に入ります。あの様な危険な輩を街から出す訳にはいきません。これ以上被害がでる前にこの場で倒しましょう」


 三人は肩を並べて今度は怒りで身体が変形し始めた異星人を相手に立ち向かう。

 なんと勇ましいことか。

 見習うつもりは微塵もないけど、凄いなぁと思う。


「兄貴! その死に損ない野郎はあたしらでやる! 兄貴はもう一人の方を頼む!」

 

「お、おう……気をつけてな」


 頷きながらもやや戸惑いを見せるオウレン。

 そりゃそうだ。

 エーテルの人格の変貌ぶりが半端じゃない。

 オウレンからしたら相変わらずといった感じなんだろうか。

 

「妹よ、あの四匹は我が仕留める。お前は残りを殺せ」


「承知しました、兄様」


 妹の方の異星人も言うと同時に、身体が高熱に満ちたのか蒸気の煙を出し皮膚は更に赤くなっていった。

 もう見るからにやばそうな相手だ。

 戦闘力の方もモンスターより強いのは間違いないだろう。

 でも、初見ではてこずったモンスターも今ではアティナとカオリンでなんとか倒せてる現状を考えればエーテルも加わっての三人がかりなら、その親玉の異星人とも渡り合えるような気はする。

 オウレンはランク的に考えてもこの中では一番の実力者だからもう一人の異星人とはタイマンでも多分遅れを取るようなことはないと思うし。


 うん、充分勝率がある戦いと見た。


 でも僕は念のため隠れていつでも逃亡出来る様に身構えておく。

 万が一にも僕が捕まって足手まといになるようなことがあっては申し訳ないからな。

 ていうか異星人のあれは怒ったからあんな風になった訳じゃなかったのか。

 

「……ねえエーテル。あれ、エーテルのお兄さんなんでしょう? 戦って大丈夫? お兄さんの身体からもの凄い血の気配がするの。多分、身体中大怪我してると思うのだけど……」


 アティナはオウレンの方をチラリと見るとそんな不安になることをエーテルに口にする。

 アティナが血に関することを言うのならおそらくそうなんだろうけど……。

 だとしたら、かなりまずいのでは。


「……確かに、呼吸も少し乱れていたように見えました。エーテル、深傷を負っているのならこのまま戦うのは……!」


 カオリンはオウレンに下がってもらうつもりでエーテルに声をかけた。

 アティナも同じつもりで言ったのだろう。

 しかしエーテルは、そんなことは言われなくてもといった様子で……。


「いや、必要ねえよ。あたしのお兄……兄貴なら絶対に大丈夫だって信じられる。心配するだけ気の無駄遣いだぜ。だから……」


 エーテルの言葉は最後絞り出すように掠れていた。 

 よく見ると堪えるように握ってる拳は辛そうに震えている。

 本当はエーテルもオウレンに下がってもらいたいのが丸分かりだ。

 しかしそこは二人の仲なのだろう。

 そしてこれ以上言うのは無粋と思ったのかアティナとカオリンは。


「じゃあ私はエーテルを信じるわ」


「私もです。エーテルが言うのならそれを信じます」


 笑顔でそう返してみせた。

 



 

 美しきかな兄妹愛。

 まあ本当に下がられたらそれはそれで困るし。


 素晴らしきかな仲間の絆。

 昨日知り合ったばかりなのに。


 ちなみに僕は信じてないよ。

 もしもオウレンがやられたら、僕の逃亡率は五倍に膨れ上がるということだけ言っておこうかな。

 しかし、オウレンは深傷を負っているというのにそれを全く表に出さずに戦い、あの三人も連戦で消耗が激しい筈だというのに逃げずに立ち向かっていく……か。


 …………。

 

 なんか、僕だけ隠れて傍観者を決め込むことに、いささか罪悪感というか、僕はこんなところで何やってるんだ、みたいな感情が芽生えてきた。

 でもただでさえ能力の連続使用で消耗した僕が行ったところで何も出来ないと思う。

 ロクな攻撃手段もないし。

 いや、あるにはあるけど、あれをやると下手したら自滅してしまうし。


 …………。


 くっ、危険だ。

 こういう一時の感情でヒロイズムに酔って身の程を鑑みずしゃしゃり出た真似をすると大抵の場合は身を滅ぼす結果になるのは漫画で勉強したじゃないか。

 落ちつけ、冷静になれ。

 戦況をよく観察するんだ。

 そうか。

 僕の戦うべき相手は自分自身だったんだ……!

 

 みんな、頑張れ……!

 僕も頑張るから……!





 ちなみに、この時の感情が後に僕を大変な選択へと導くのは、もう少しあとの話である。


 

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