第21話 魔法使い その③
クレーターの場所にまで到着した。
ここまで来るまでにもやはり魔獣とのエンカウントはなく、不安に満ち溢れている僕を余所にアティナとカオリンはエーテルに自分の武器自慢しながら談笑している。
あの三人には引き返そうと提案したのだが、全然聞いてもらえなかった。
まあ、僕の能力で見ました、とは言いたくはないから確証もない曖昧なことでしか話せないから相手にされないのも無理はないが。
「ねぇクズゴミ、今カオリンの剣の名前何が良いって話してるんだけど、クズゴミはなんかいい案ない? 私はカオリンスペシャルが良いと思うの」
さっきから三人で何盛り上がってるのかと思ったら、そんな話か。
確か付けた名前によってその力を発揮するとか何とかってやつだろ。
正直なところ、クッソどうでもいい。
今のままでも強いんだからそれで充分じゃないか。
「あー、そうだな。無難にエクスカリバーとかでいいんじゃないかな」
僕はやる気もひねりも何もなく、ただなんとなく思いついたことを適当に口にした。
少なくともカオリンスペシャルよりはマシだろう。
「えくす、かりばあ……? とはどういった意味なのですか?」
そうカオリンは首を傾けた。
いくら横文字が苦手でもエクスカリバーぐらいは知っててもよさそうだけどな。
「聖剣『エクスカリバー』。世界最強の刀剣にして、聖王様の武具の一つだ。あたしはいいと思うぜ? 版権があるわけでもないからな、誰に申し立てるまでもなし。カオリンだけのエクスカリバーだ」
「世界最強、ですか……それは頼もしいですね」
エーテルの最強という単語を聞いて興味を持ったのか、何やら考え込んでるカオリン。
横でアティナがまだカオリンスペシャルを推してるが、僕がそのアホっぽい名前にするならつまようじの方がまだ羞恥も少ないと言ってやった。
膝蹴りを喰らうことになった。
実際に近づくとその巨大さが実感出来るが、クレーターの大きさに比べると隕石自体は随分小さく見えるもんだ。
本来ならここには魔獣の巣になってた岩場があったはずだが、物の見事にまっさらに消え去ってる。
あれぐらいの大きさでもこれだけの範囲をクレーターに変えてしまうほどの衝撃と破壊力があるのだから、つくづく街に落っこちてこなくて良かったと思う。
隕石なんてものが何の前触れもなく突然に空から降って来ても対処のしようがないからな。
それとどうせ隕石が降ってくるなら魔王城にでも直撃すれば面白かったのに、惜しかった。
……とまあ、さっきから隕石隕石と言っているが、あれは本当に隕石なのだろうか?
クレーターを作ったことから空から降ってきたのは間違いないと思うけど、そうなるとさっきのあの魔獣を屠りまくった触手が謎すぎる。
隕石ってのはとどのつまり石とか鉄だったはず。
あんな魔獣のように気味の悪い触手なんて生えてこないだろう。
まさか中に魔獣が潜んでいる、あるいはあの隕石そのものが魔獣という可能性も……。
「ちょっとクズゴミ。さっきからどうしたの、ぼうっとしちゃって。塩分の過剰摂取で脳みそが溶けて、お粗末な思考ごとお釈迦になっちゃったの? ご臨終なの?」
僕が色々考えてると、アティナが小馬鹿にしたように舐めたことを抜かしながら僕の頭をポンポンと叩いてきた。
塩水の残りを無理矢理に口に流し込んでやろうかと思ったけど、そんな場合でもない。
今は隕石からは触手は引っ込んでいて見た目の変化はないが、下手したらこの距離でも触手が伸びて攻撃してくるかもしれないと思うと直ぐにでも逃げたいところだ。
「ナメクジじゃないんだから……。それよりもさ、やっぱりもう帰ろう。あの隕石は絶対なんかやばいって。僕の第六感が危険信号を感じている」
そう僕は何回目になること言うと、アティナはやれやれといった感じで答える。
「しつこいわね、魔獣が潜んでるかもっていうんでしょ。もう何回も聞いたわよ。それに心配し過ぎよクズゴミ、何がでたってこの吸血神様のパワーの前には無力だと理解しなさい」
アティナの自信満々の発言に、僕の不安は加速した。
クレーターの傾斜をざぁーっと滑って隕石に向かっていく姿を見て、転んで泣きださないか心配だ。
猛烈な帰宅願望と戦うのにも疲れてきたし、もうひとりで帰ってしまおうか。
そう思っていると今度はカオリンが。
「鬼が出るか蛇が出るか……ですね。特に鬼だった時は私に任せて下さい。ですがクズゴミ、身の危険を感じたら構うことはありません。万が一の時は自分の安全を優先に行動して下さい」
そんな逆に逃げずらくなるようなことを言い始めた。
多分、僕に気遣っての発言だと思うが一人での逃亡をしにくくするように釘を刺しにきたと考えるのは僕の心が捻くれてるからだろうか。
「確かに天から降ってきた未知数の物体だからな。神はどういう思し召しであんなのひねり出したんだか。まあ心配になるのは分かるが、そればっかりじゃあ始まらねぇ。男は度胸だぜ? クズゴミ」
何言ってるかよく分からんエーテルにいたっては僕の尻のあたりをばんと平手し、はっぱをかけてくる。
そうしてカオリンとエーテルも傾斜を滑って隕石に向かっていった。
なんというか。
実に頼りになる女性陣で、僕は嬉しいです、はい。
にしても参ったな。
本当は近寄りたくないけど、ここで行かないとなんかすごく格好悪い気がしてならない。
見栄や格好を気にするようなプライドも精神も持ち合わせていなかったはずなのに、最近毒されてしまったのか無様を晒すのが嫌と感じている自分に驚きだ。
それも時と場合によりけりだろうけど。
まあそんなわけで、僕はいつでも『ベネフィット・スターズ』を発動出来るように身構えて三人の後を追いかけていった。
隕石の間近まで来てみて。
見た目は高さ二メートル以上はある巨大な岩石だ。
魔獣には見えないが……。
「……クズゴミの心配もあながち杞憂じゃあないかもな。見ろよ、そこら一帯に血溜まりが出来上がってやがる。血の雨が降るなんて聞いてねぇ」
エーテルが言った通り、隕石の周りはさっき見た皆殺しにされた魔獣の血で地面を赤く染めていた。
肉眼で実際に目の当たりにすると目を背けたくなるとほどの惨状に眉を顰めてしまう。
ちなみに魔獣は通常生き絶えると塵になるので死骸は残らないが、血や生きてる時に取れた身体の一部は塵になるないでそのまま残る。
それの性質を利用して討伐した証拠などにするのだが、今回に限ってはその性質はいらなかった。
「大丈夫かカオリン? 気を確かに保つんだ」
「あ……あ……ああ、うううううううう……」
おかげで僕は、そんな血濡れた惨状の現場を見てぶっ倒れたカオリンの介抱をしていた。
その場にヘタレ込み、かたかたと小動物のように震えている。
しまったな。
こうなってるって分かってたんだからカオリンを近付けないようにしてやればよかった。
あとあまり寄りかからないでほしいな、重いから。
「頑張ってカオリン。今こそ特訓の成果を出す時よ!」
アティナが励ますように応援していた。
なんだ、特訓って?
いやまあ流れからして血嫌いを克服する特訓なんだろうけど、いつのまにそんなことやってたんだ。
「は、はは、はい…………血は、お友達、怖くない……怖くない…………く……う……」
そう謎の呪文を唱え涙目になりながらもなんとか立ち上がろうとするが……駄目……!
身体に力が入らないのか、やっぱりヘタレ込んでしまう。
「うーん、やっぱりまだまだ克服は難しそうね。これは引き続き特訓あるのみね、カオリン」
腕を組んでそう偉そうにアティナが宣言するとどうしたことか、血の気が引いて真っ青になってたカオリンが頬を赤らめてコクリと頷いて……。
マジでなにやってるんだこの二人?
興味はないけど、ここは家主として今度確認する必要がありそうだな、うん。
「とりあえずどうすんだ? こいつを適当に発破して、破片を持って帰ればいいのか?」
エーテルがコンコンと表面を叩いてみせる。
見た目通り硬そうだ。
それに隕石は近づいてみると結構サイズがでかい。
なので当初の予定通り、隕石の一部を採取するのはいいとしても簡単に採れるものなのかな。
試しがないけど、このサイズなら死を覚悟すれば『オーバー・ザ・ワールド』と『ベネフィット・スターズ』第二の能力のコンボで街まで転移して運べるかもしれない。
まあ、やるわけないけど。
「それなら任せて頂戴。こんな岩くらい、私が一撃で粉砕して粉々にしてあげるわ!」
グングニルを構え、今にも攻撃せんと素振りをし始めたアティナ。
「待て待て待て、なるべく標本に傷をつけないようにしてほしいって言われてるんだよ。採取セット借りてきたからそれで……と……る……」
それを止めようとして刹那。
隕石から再び生えてきた大量の触手を見て心臓が跳ね起きたようにびびった僕は、考えを百八十度変えた。
「ア、アティナ、やっぱりぶっ飛ば」
「ちぇすとー!」
瞬間。
ナイスなことに、僕が言い終わる前にアティナは行動に移していた。
それは触手の軍勢が襲いかかるよりも速く。
アティナのグングニルによる強力なスイングが、鈍い撃鉄の音を鳴らし隕石をクレーターの端まで軽々と弾き飛ばした。
「あ、ごめんなさい。なるべく傷つけないよう、だったかしら」
「……いや、ナイスショット」
思わず軽く引くぐらいの一撃。
でも、中々やりやがる。
あのサイズの岩石を簡単にホームランするとは。
流石は吸血神だ。
戦闘力だけが取り柄なだけはある。
「カマしてやったなアティナ、大した剛力だ。流石にグングニルを扱うだけはある……が、まだまだピンピンしてるようだぜ?」
地面にめり込んだ隕石は砕けてひびが入ったものの、そこから生える触手は激しく揺れ動いている。
もし仕留めたのなら魔獣の性質上、塵になって消失するはずだ。
それが無いということは断末魔にはまだ早いということ。
その辺りの魔獣なら今ので終わってるところだが……。
「ひぇ……」
僕は思わず情けない悲鳴を漏らしてしまう。
ただの岩石だった隕石は、岩と岩が擦れる音を立ててその姿を変えていく。
それはまさに異形の怪物。
この間出会った鬼に黒光りする虫の甲殻を装備させたようなボディに顔面はまるでクワガタだ。
あの木の枝のような触手は髪の部分にあたる部位だったらしい。
一本一本がミミズのように蠢き、密集している様はもはや吐き気を催す。
非常にグロテスクなモンスターの風貌は正視するのもためらわれるレベルだ。
そしてそのモンスターに完全に敵対視されたようだ。
「ッッッーーーーーーーーーーォォォオオオオ!!」
全身の肌を震わす振動、針で突かれたようなピリピリとした感覚、腹の底に響く太鼓のような重音が、僕らに向けて放たれた。
それは威嚇か、開戦の狼煙代わりか。
こりゃ誰がどう考えてもノープロブレムじゃない相手だ。
そんな臨戦態勢がととのったキチキチと蠢くモンスターを見たアティナが、白い顔で何か言い始めた。
「……みんな聞いて欲しいの。いくら相手がグロくて虫みたいで気持ちが悪い魔獣だとしても限りある命。無駄な殺生は避けるべきだわ。だからここはひとつ、当初の目的通り破片を持って帰るということで」
「要は怖いから逃げようってことだ、痛たたたた」
アティナの考えてることは手に取るように分かるから代弁してやったというのに、手をつねられるとはどういことか。
ああいうグロ系に耐性がないからこうなるともう逃げの一択だからな、アティナは。
だけど僕はともかくカオリンとエーテルの手前、敵前逃亡は格好がつかないと思ったのだろう。
その結果が今の台詞だ。
いつもは魔獣皆殺しの精神のくせに何が限りある命だ、笑わせやがる。
そもそも魔獣は塵になったあとは何年か後に復活するんだから実質、不死身みたいなもんだろうに。
「何にせよ残念だが簡単には逃がして貰えそうにないな、奴さん沸騰したヤカンみたいにキレてやがる」
そう言うとエーテルは持ってる箒を構えて臨戦態勢をとった。
というか、ずっと思ってたんだがその箒は何に使うんだろう。
またがって空でも飛ぶのかな。
絵本に出てくる魔法使いみたいに。
そう僕が現実相手に日和っているうちにモンスターは僕らを包み込むように無数の触手を伸ばし展開してきた。
冗談じゃない物量に息が詰まりそうになる。
数が数だけに迎撃は間に合わなそうだし、何気にスピードがある触手の動き相手では回避も無理くさい。
巨大な波に襲われているようなものだ。
そしてあの触手群に捕縛されたら最後、さっきの魔獣たちと同じ末路を辿ることなるのは明白。
洒落にならないこの状況に、僕は『オーバー・ザ・ワールド』と『ベネフィット・スターズ』第二の能力のコラボ、人生初の四人同時チャレンジを試みようする。
が、その寸前。
「へっ、しゃらくせぇ。まとめて喰ってやる」
それはエーテルの声だった。
この危機的状況にエーテルはこんなピンチは慣れてると言った余裕な顔で魔法を発動させる。
「『グリード・エル・コフィン』!」
言い終わる直後、エーテルの前になんとも禍々しい真っ黒な棺桶が具現化し、蓋が開かれると同時にブラックホールさながら触手の波を無理やり吸引し始めた……!
人ひとり分のスペースの空間に、力ずくに潰し、圧迫し、ギチギチに一本残らず引きずり込もうと不快な音を立てて吸引する光景は恐怖すら感じる。
しかし次の瞬間、吸引されていた触手の動きが停止した。
吸引の力以上の力でモンスター自身まで引きずられないように抵抗しているのだ。
棺桶とモンスターの綱引きは拮抗し、触手は少しずつブチブチと嫌な音を出し青い血を吹き出す。
そんな動けないモンスターの隙を見逃さず追撃を仕掛けに飛び出したのはアティナだった。
しっかりと『グリード・エル・コフィン』の射程距離の外から引っ張られ身動き出来ないモンスターの側面を狙い撃つ。
「グングニル・ブラッドーーっ!?」
アティナがグングニルによるいつもの技を放つ寸前、動けなかったはずのモンスターは動いた。
モンスターはその場で張り付けになっているぐらいならと、触手が引っ張られる力に抵抗をやめて、逆にその力に自分の力を上乗せしてエーテルの方向へ跳ぶため急速に大地を蹴ったのだ。
しかしそのままでは当然『グリード・エル・コフィン』の餌食になりぐちゃぐちゃのミンチになる。
ではモンスターはどうしたかというと。
「な!?」
僕は予想外の展開に思わず声を上げた。
モンスターは吸い込まれる前に自らの手で自分の触手の束を切断し、吸引の射程範囲から逃れるべく跳躍して棺桶の裏側、つまりエーテルの後ろに跳んだのだ。
そしてその跳んだ先には、ちょうどエーテルの魔法を盾にするように陣取り隠れていた僕がいた訳で、モンスターが着地地点に敵がいれば攻撃するのも、なんら不自然が無い訳で……。
エーテルは『グリード・エル・コフィン』を発動中で咄嗟に動けず、アティナはあの距離では間に合わず、カオリンは未だダウン中。
助けには期待出来ない。
自分でなんとかするしかない状況。
しかし僕には迎撃も回避も難しい。
このままでは跳んできたモンスターと直撃してぐちゃってなる。
モンスターの攻撃着弾まであと三秒。
見上げると、意外とつぶらな瞳のモンスターと目があった。
と、ここで走馬灯だ。
本格的にやばい。
もう駄目だ、おしまいだ。
父さん、母さん、僕も今そっちに逝きま……す……。
…………。
いや待てよ?
なんで僕は今死ぬつもりでいるんだ?
どうかしてた。
やっぱり塩分の過剰摂取で脳が鈍くなっているのかもしれん。
ちなみに、ここまでの思考、約一秒。
モンスターの攻撃着弾まで二秒前、僕はもはや反射的に発動させた。
『ベネフィット・スターズ』第三の能力……!
僕の身体に恒星レベルのエネルギーが宿った。
これで隕石の直撃でもない限り僕にダメージはない!
あれ、でも相手さっきまで隕石だったじゃん。
しまった……!
そう思った矢先。
「『《魔鏖斬・鬼哭刃》』……!」
静かだが、強く呼ばれた、剣技の名。
流動する突風を身に感じた直後、翡翠色の魔力により刀身を伸ばしたカオリンが、モンスターに振り上げた刃を叩き込む瞬間を目の当たりにした。
助かった。
なんとか復活出来たのか。
ナイス過ぎるだろ、カオリン。
普通の刀剣なら真っ二つだったかも分からないが、カオリンの技はモンスターを傷つけることなくその衝撃と剣の能力をもってダメージを与え、上空高くへ打ち上げる。
「ッッッガァァァァ!」
間違いなく痛烈な一撃ではあったがモンスターのタフネスの方が一枚上手だったのか、弱った様子は見せずに反撃の気配を醸し出す、が。
「グッジョブだぜ、カオリン……!」
それを許さず、エーテルが追撃の魔法を発動させる。
「ファイアーフラワーだ! 『エクスプロージョン』!」
暗い灯りが辺りを照らす。
箒の先に出現させた魔法陣から打ち出した火球はモンスターを目掛けて昇り、その黒光りする肉体をさらに上空へ押しやった瞬間、大爆発を引き起こした。
轟音と熱風と衝撃波の嵐が渦巻く参事が地上まで襲い来るほどの破壊力。
地上にいるこっちまで気を抜けば吹き飛ばされそうだ。
まともに直撃を喰らったのではひとたまりもないだろう。
気の毒に。
あれじゃあ木っ端微塵だ。
死んだナ、こりゃ。
しかし。
事態は僕が思うほどそう簡単では無かったということを直ぐに理解させられる。
「……チッ、クソったれ。野郎、ドラゴン並みの耐久力ときてやがるか。どうもしんどくなりそうだぜ」
どういう仕組みかは知らないが、なんとモンスターの奴は空を飛んでいた。
いや、飛ぶというよりも滞空しているだけか、今のところは。
そんな爆流の渦から生還したモンスターを見上げ、エーテルにも予想外の結果だったのか顔をしかめている。
硬い甲殻に阻まれてダメージが薄かったのかもしれない。
大爆発がクリーンヒットしたはずなのに、爆煙から現れたモンスターが軽傷であった日にはエーテルが悪態を吐くのもしょうがないだろう。
そして前に出たアティナが戻ってきたと思ったら間髪入れず。
「エーテル! エーテル! こうなったら連続攻撃よ、一気に畳み掛けましょう!」
「……ああ。だけど悪い、しくじっちまった。あの高さじゃ狙いが合わせずらい……それでもとりあえずやるか?」
「やる!」
グングニルをモンスターに構えたアティナはそれに頷きエーテルも再び攻撃態勢にはいった。
おそらく相手もさっきの爆発で死に体のはず。
二人の同時攻撃ならトドメにもっていけるか……?
「『グングニル・ブラッド・クロス』ーー!」
「『エクスプロージョン』っ!」
アティナとエーテルはほぼ同時に魔法を放つ。
投擲されたグングニルと爆発する火球がそこそこ上空にいるというのに、全く狂いなく穿とうとモンスターに襲いかかる。
高さの距離の割には中々正確な射撃だな。
今度、ゴミ捨て場に群がるカラスを撃ち落としてもらおう。
しかし空中に滞空していたモンスター、流石に黙ってやられてくれる訳もなかった。
その動きは巨体には似合わない俊敏さで、まるで蝿や蜻蛉などの昆虫並みの機動力。
二人の魔法も充分な速度だったと思うが、直線的な軌道ではいとも簡単に回避される。
「先程の手応えから言ってあの甲殻かなりの重量の筈。だと言うのにあの俊敏な動き……敵ながら大した者です」
遠回しに自画自賛してやがるカオリンも攻撃に参加したいようだが、流石に空をあの速さで移動されては手が出せないようだ。
アティナの広範囲に届く魔法ならもしかしてとも思うが、もっと高く飛ばれたら当たらないかもしれないし僕たちにも被害が及ぶ。
現状マズイことに、こっちからの攻撃が完封されたようなものだ。
「……何か来そうね」
何か攻撃の気配を感じ取ったアティナが呟いた。
そして今度こそモンスターの反撃が降りてくる。
息を吸うような動作を見せた次の瞬間、連続で超大玉の白く発光する塊を豪雨のように吐き出してきた……!
「ちょ……!」
クレーター全体を覆うようにほぼ隙間なく降り注ぐの光の球体が否応無く僕らを襲う。
回避困難な真っ白な光の爆撃に僕が頭が真っ白になっていると、もういっちょエーテルが活躍してくれた。
「『カレイド・スタック』!」
その魔法はエーテルの周りからクレーター全域に花の模様が入った巨大な円柱を地面から生えるように大量に出現させ、柱の森を形成した……!
降り注ぐ光の球体群は、柱の森に遮られ空中で次々と破裂し霧散する。
ピリピリと地上まで伝わる衝撃から察するに、硬い地面をえぐり取るぐらいの破壊力はあったんだろうと身震いしてしまう。
こりゃあいよいよもって逃げるしかないナ。
「もう駄目だ、詰んだ。おしまいだ。万事休すにもほどがある。土下座が通じる相手でもないし、急いで逃げよう」
僕の主張は今も昔も相変わらず逃げの一択、そこに揺るぎはこれっぽっちもないのだ。
「でもあんなブンブン飛ぶやつを振り切るのは疲れそうね。クズゴミ、ちょっと囮になってよ。逃げ足の速さには自信があるって前に言ってたじゃないの」
何と驚きだ。
僕が言い出そうと思ってたことをアティナが先に提案してくれた。
前の時はカオリンがしゃしゃり出たせいで結局逃げずじまいで終わった手だが、今回のこの状況なら流石に残って戦う選択肢は選ばれないだろう。
あと、逃げ足が速いって言ったんじゃなくて、逃げる決断が早いって言ったんだぞ、それは。
「仕方ねーな、ならここは一つ漢を見せて……」
「待ちなよ、尻尾を巻くにはまだ早いぜ」
するとエーテルが僕の逃亡の邪魔をするように口を挟んできた。
なんかここ最近、命の危機に晒されてる時の逃亡を待ったされることが多いのは何故だろう。
運命は僕は殺したがっているのか。
ただお家に帰りたいだけなのに。
「えぇ、もういいじゃんエーテル。無理だって。こっちの攻撃は当たらないし、かと言ってこのまま守備しててもじり貧だ。チャンスを粘るほどみんな我慢強くもないだろ。まあ、空でも飛べるなら話は別だけど」
エーテルの魔法や、アティナの『アイギス』で耐久してモンスターが消耗してどっかに行ってくれるか、接近戦に切り替えてくるかしない限りこの場は打破出来ないだろう。
それも確証の無い話だ。
それなら僕がモンスターを引きつけて離したところで転移すればみんな無事逃げ切れる可能性がある。
そっちの方がいいに決まってる。
「分かってんじゃねぇかクズゴミ、あたしは我慢ってもんが嫌いでね。あのゲテモノ野郎に見下されたままってのは我慢出来ないんだ。だからちょっくら行ってくる」
……?
行くって、どこへ?
「なあ、行くってどういう……?」
「んー? クズゴミが今言ったヤツさ」
エーテルは何をするつもりか、自分の箒に跨り始めて……。
「空だよ、空。あの蚊トンボを叩き落としてくる」
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