第13話 八武衆 その③

 その後、無事に転移して目的地の村から一番近いテレポステーションのある街に到着した僕達は、さらに村まで移動する馬車を確保するべく街の中を散策していたのだがその道中のこと。


「ちょっとちょっと、そこの嬢ちゃん方。俺ら暇してんだわ、一緒に遊びに行こうや。なんでもご馳走してやるぜ」


「この辺じゃ見ねえ面だな。おっ、しかも結構上ダマじゃねーか。テメェみたいなしみったれた野郎にはもったいねえな」


「テメェは帰っていいぜ坊主。女の子達は俺たちで可愛がってやるからよ」


 よろしくお願いします。

 

 と、言いたかったのをグッと飲み込む。

 めんどくさいことにって感じの柄の悪い三人に絡まれてしまったのだ。

 余所者だと見られて舐められてるのだろうか。

 冷静な判断で即座にアティナとカオリンの後ろに逃げ込めたはいいが、なんとか穏便に事を済ましこの場を切り抜けるアイデアはないものか。

 依頼の最中に街の関係ない一般人と喧嘩して揉め事を起こしたなんてギルドにバレたらシャレにならん。

 幸い奴らの興味はアティナとカオリンに向いている。

 僕はただの金を持った袋程度にしか思われてなさそうだ。

 小銭を置いてけば僕だけなら離脱出来るか……?

 僕がいない状態でなら主にアティナがやると思うが仮に暴力事件をやらかしても僕は関係ないと言い訳がたつ。

 いや、でも待てよ。

 いつもならこういう時、一人なら全力疾走して物陰にでも隠れたところで『オーバー・ザ・ワールド』を発動し逃げ帰るところだが……やはり今はそうもいかない。

 アティナに後で何言われるか分かったもんじゃないし、下手したら半殺しにされるかもしれないからな。

 あと、何故だかアティナとカオリンから冷えた視線を向けられている上に、このチンピラ三人にすらなんだコイツみたいな目で見られているが、別に気にしないでおく。


「そ、そんな女の子を盾にするような外道よりか、俺たちの方がよっぽど上等だぜ。なあそうだろ、嬢ちゃんたちよ」


「まあ、クズゴミに比べたらこの世の男の人全員マシに見えるだろうけど。それよりあなた、何でもご馳走してくれると言ったわよね」


 僕の行動を理由に下心丸見えの顔で近寄るチンピラの一人に、アティナは何か思いついたのか期待を込めた笑顔で尋ねた。


「おうよ。嬢ちゃんさえ良ければすぐにでも俺の特大のをご馳走してーー」


「私さっきから血が飲みたいと思っていたの。あなたの血を吸わせて貰えるかしら」


 普通なら出ないであろう狂気じみた要求。

 言葉を遮ってそんなことを言い出したアティナに、ニヤついてたチンピラたちも困惑の色を隠せないようだ。

 

「……え、え? 何言ってんだお前? あ、あー、あれか。なんかそういう名前の酒か何かのことか? 俺は聞いたことねぇが……」


「はぁ? 何言ってんだはそっちの方よ。あなたの血にはアルコールが混ざってるの? だからそんな酔っ払いみたいなボケをかますの?」


「なんだと……」


 そんな小馬鹿にした発言に機嫌を悪くしたチンピラ。

 アティナは本当に血を吸わせて欲しいのだと僕には分かるが、アティナのことを知らないチンピラからしたら意味不明だろう。


「このガキがぁ! テメェおちょくってんのかコラァ! 調子乗って舐めてんとぶっ殺すぞ!」


 その激昂を皮切りに、やばいことにチンピラ三人は光り物にナイフを取り出して牽制をしてきた。

 しかしアティナとカオリンには動じた様子はなく、アティナなぞ逆に待ってましたと言わんばかりに返り討ちにする気満々だ。


「気は進みませんが、かかってくると言うのなら仕方がありません。相手をしてあげましょう。クズゴミは下がっていて下さい」


「これは正当防衛よ。正当防衛だからね」


「ちょちょちょ、二人ともよせって……!」


 すぐにでも剣を抜刀しようとするカオリンとグングニルを出そうとするアティナを見て、僕はさすがにそこまでやると収拾がつかなくなると思い、今度は二人の前に出て止めに入る。

 

 くそ、どうしてこんなことに。

 どいつもこいつも気が短すぎるぞ。

 やはり事態を収めるためにここは、土下座して有り金を全部差し出すしかないか……?


「ん? ちょっと待てよ? クズゴミだって? なんかどっかでその呼ばれ方を聞いたような気が……」


 煮え切ったこの場を凌ぎきる算段をしていると、チンピラの一人が僕のことを見て何かを思い出したように声をあげた。


「あ、ああっ! そうだ思い出したっ! クズゴミ・スターレットだ!  クズゴミ・スターレットだよコイツ! ほら! 例の街の……!」


「何ぃ!? コイツがあの悪名高いクズゴミ・スターレットだってぇ!? 敵に回すと必ず大変なことになると言われている!? まさかっ! そんな……!」


  え。

  おい、急に何を言い出すんだ。

  なんでこんな離れた街にまでそんな噂が広がってるんだよ。


「やばいって! コイツの恨みを買った奴は漏れなく不幸になるんだ! 俺、家中を少し留守にした隙に泥水まみれにされて本や家具をダメにされたり、一晩にして髪と眉毛を全部剃り上げられた奴の話を聞いたことがある!」


「う、嘘だろっ!? う、うわぁぁぁぁ……! 俺はそんな男の連れの方になんて失礼なことを……!」


 大声でそんなことを騒ぎ立てたせいで、野次馬が沢山集まってきて今チンピラが喚いたこと全部聞かれる始末だ。

 マジでふざけるなよ。

 そんなんで噂が流れて街の人に悪党のレッテルを貼られた日には、もうこの街をまともに歩けないじゃないか。

 それに気が付けば、さっきまで味方だったはずのアティナとカオリンまで僕とは無関係ですと言いたいのか、ジリジリと距離を置いている。

 何故かいつのまにかに五対一の状況。

 あまりにも酷すぎる。


「ま、待ってくれよ。て、適当な言うなって。その話しをどこで聞いたか知らないけど鵜呑みにしちゃいけない。両方とも僕がやったって証拠は残ってないはずだ。それにそれはやられた方にだって原因があって、僕に悪口言ったりふざけたことをしたりするからだ。きっと神の裁きが降ったに違いないんだ。それなのに僕を犯人扱いしてまくし立てるなんて酷いと思わないか」


 僕はチンピラ三人とアティナとカオリンに向かって、必死になって弁解する。

 が、逆効果だったようでその必死さが益々僕の犯行の余地に拍車をかけたようだ。

 確かに両方とも実際に僕がやったことだけど。


「やっぱりそうなんだぁ……! ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ! す、すいませんでしたぁ! 許してくださいぃぃぃ!」


「助け、助けてくれぇぇぇ! あああぁ! 嫌だぁぁぁ! 俺禿げたくねぇよぉぉぉ! 逃げろ! 逃げろぉぉ!」


「家だけは! 家だけは勘弁してくれぇ! まだリフォームしたばかりなんだぁ! 見逃しくれぇ! 頼む! 頼むぅぅ!」


 なんということだ。

 悲しいことに半狂乱に陥ったチンピラたちはそんな悲鳴を残して慌てて逃げ去って行った。

 僕は何もまだ悪いことしてないのに。

 そして残された僕たちは野次馬連中から奇怪な目で見られる形に……。


 ………………。

 どうしようか悩んだが。

 いや、どうするもこうするも出来ることはひとつ。

 やりたいことと同じこと。


「……ずらかれ!」


 周囲の目線に耐えきれなくなっていたたまれなくなった僕は、そう一言アティナとカオリンに叫ぶと同時にその場を逃げ出した。

 三十六計逃げるに如かずだ。

 と、アティナがしかめっ面で走りながら聞いてくる。


「クズゴミ、さっきの事って実際のところどうなの? まさか本当にやったこと?」

 

「本当だよ。あのババア、僕の仕事にクレームつけやがって。ムカついたから無駄に手入れしてた髪の毛、バリカンの餌食にしてやっただけのこと」


 どうせ疑われるのならもういっそ包み隠さずぶちまけることにした。


「っ!? バ、ババアって、女性にやったのですか!? なんて悪列非道な! 最低、最低ですよ! クズゴミ!」


「クズなのは知ってたけど、まさかそこまで筋金入りとはね。本当に一回深く反省した方がいいわよ、あんた」

 

 くっ、辛らつな言われようだ。

 やはり真実を伝えるのさすがに勇み足だったか。

 二人して僕を非難して悪者扱いしてきやがる。

 誰が反省なんてするか、くそ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「カオリンはよくそんな百キロ以上ある鎧を着てあんなに速く走れるわね。重くないの? ものすごい力持ちなの?」

 

 アティナがそんな疑問を問いかけていた。

 僕も丁度同じことを思っていたところだ。

 それだけの重量になると走る以前にまず、普通に活動出来てるところが驚きだ。

 着るにしたってもっと軽量なやつだってあるだろうに。

 その重さじゃ常に大人二人背負っているようなものだ。

 能力無しの僕なら着たところで一歩も動けないことは間違いないナ。


 あの逃げ去った後、なんとか馬車を確保するまでにこぎつけた僕たちは馬車の中で一息ついていた。

 無駄に走ってかなり体力を消耗した僕に比べ、アティナとカオリンは汗ひとつかかずに涼しい顔をしている。

 本当にどんな体力してやがるんだ。


「確かに重さの割には一番逃げ足が速かったな。一体どんなカラクリなんだ?」

 

「俊足を自負してはいますが、逃げ足とは比喩されるのはいささか心外ですね」


 カオリンが怒った素ぶりで拳を振り上げたので謝りまくると、「まあいいです」と言って引いてくれた、助かり。


「私は今こうしてる間にも『天魔舞動てんまぶどう』という魔法を無詠唱で使用しています。その魔法の、込める魔力に応じて身を軽くする効力のおかげで、この重鎧を着ていてもそれほど重量の枷にとらわれず身軽に活動することが可能なのです」


 そう説明するカオリン。

 それだと鎧を着ている間は常に魔力を消費していることになるが、いざという時は大丈夫なのだろうか。

 まあ大丈夫じゃなかったらそんなことしないよな。

 問題ないのだろうと思っておこう。

 しかし『天魔舞動てんまぶどう』か。

 初耳の魔法だ。

 似たような効力で使用すると身体が軽くなって素早く動けるようになる『ソニックムーブ』という魔法は知っているが、それとは違うのだろうか。

 あるいは、もしかすると地方によっての呼び方の違いであって同じ魔法のことを指すのかもしれない。

 

「なるほど。魔法の発動の維持し続けるとは、やるわねカオリン。この私でもずっと同じ魔法を使い続けるのは難しい業。それをいとも簡単にやってのけるなんて……!」


 アティナの場合は飽きっぽいし集中力がないから同じことをやり続けるってことが難しいのは魔法に限ったことじゃない気がするが。

 僕の場合は単純に魔法を連続で使用する魔力が無いし。

 能力にしても体力が続かない。

 だから瞬間的にであればカオリンと同じ重量の鎧を着ても動けるが、持続させるのは無理だ。

 それを考えるとカオリンはサラッと言うが結構凄いことやってるんだと理解出来る。

 でもぶっちゃけそんなクソ重いの着なければ魔法の発動を維持し続ける必要も無いような気もするが。


「簡単なんてことありませんよ。少しでも魔法に必要な魔力の制御を誤れば効力が消えて鎧の重さで動けなくなってしまいます。ただ幼い頃から欠かさずやるように叩き込まれて育ったもので、毎日鎧を着るようにしているから慣れているのです。日常の生活ですら修行の一環として過ごすよう教わりましたから」


 なるほど。

 どうやらカオリンは相当なスパルタ教育を受けていたようだ。

 魔法の発動を維持するなんて芸当もその賜物って訳か。

 日常すら修行だなんて、努力が嫌いな僕には考えられん。

 訓練とか鍛錬とか修行とかとは無縁の生活を送ってきたからな。

 感心なことだ。

 同じことをやれと言われても僕には無理なだけにその凄さが余計分かる。

 だからといってカオリンを見習おうとはこれっぽっちも思わないがな。


「いやー、意識高いなぁカオリンは。そりゃ、僕やアティナには出来ないはずだ」


「何ですって」

 

 僕が何気にアティナの名前も出すと、それに反応したアティナが異議を唱えてきた。


「勘違いして貰っちゃ困るわね。私は難しいとは言ったけど、出来ないなんて言ってないわよ。それに難しいのは私の使う魔法のほとんどが魔力を多く消費するから今の本来の力を失った状態ではほんの少し手こずるという意味であって……あ、今無理すんなって言ったわね!? だったら見せてあげるわ! 吸血神の本気を!」


 しまった。

 余計な茶々入れたせいでアティナの変なスイッチをいれてしまった。

 仕方がない。

 こうなったら参事を起こされる前にタバスコでも顔面に吹きかけてやって行動不能にしてやるしかないか?


「でもそれには血が足りないわね。クズゴミ、ちょっと血を飲ませて頂戴よ。お望み通りのものを見せてあげるから」


 差し出せと言わんばかりに手を向けてくるアティナ。

 何をふざけたことを。

 いつ僕がアティナに本気だせと望んだんだ。


「全然そんなこと望んでないから。別にムキになってカオリンの真似しようとしなくていいから。出来るってことにしておくから」


「あらクズゴミ、血を流したいの? タイミングばっちりね。全部飲んであげるからたくさん出してね」


 僕の言い草に腹を立てたのか、いい笑顔でそんなことを言ってきやがる。

 前々から思ってたんだがアティナは僕に死んで欲しいのだろうか。

 やばいな。

 アティナからただならぬ殺気を感じる。

 恐らく次の瞬間あたりに手刀がとんできて僕の頸動脈を掻っ切るつもりだ。

 このままでは確実に

 ならば当然、ここは『ベネフィット・スターズ』でガードだ……!


 僕が脳内でアティナの威嚇に対する防御策を講じ臨戦態勢を構える寸前。

 カオリンの顔色が優れない様子なのに気がついた。

 顔色だけでなく何かを怖がっているようにも見える。

 アティナの猟奇的な物言いに恐れを抱いたのだろうか。


「……どったのカオリン? 大丈夫? 馬車に酔った?」


「い、いえ! 別に、その……何でもありません……」


 そうは言うが、明らかに何でもありそうなカオリンに対してアティナも心配したのか声をかける。


「カオリン、もしかしてあなた……血は苦手?」


「うぅ……!」


 どうしてその発想が出たのかと思ったが、カオリンの反応を見るにどうやら図星みたいだ。

 そうだったのか。

 まあ、たまにいるな、血を怖がる人。

 血液恐怖症ってのを聞いたことがあるが、もしかしてそれか。

 にしても、実際に見た訳では無く血の話が出ただけで青ざめるほどとは、かなり重度だな。

 

「ち、血が苦手だなんて、そんなことはありません! ただほんの少し、ほんの少しだけですが血と聞いて色々想像してしまうと身体に力が入らなくなり、不安感に煽られるだけです」

 

 振り絞るように苦手ということを否定するカオリンだが、内容に全く説得力がない。


「そうだったの……。私は血が大好きだからカオリンの気持ちは共感出来ないけれど、難儀しているのね」

 

 血が大好きだなんて一歩間違えればクレイジーサイコパスとも取れる発言をするアティナ。

 何でか少し寂しげというか残念そうな感じだ。

 そういえば前に吸血神であると同時に血を司る神でもあると言ってたな。

 まあ自分が好きなものを苦手と思われてると知ってしょんぼりしたんだろ。

 この間、血で出来たプールに入ってみたいなどとおぞましいことをほざいてたくらいだ。

 地獄には血の池地獄ってのがあるらしいから一回行ってくればいいのに。

 飲み放題だぞ。


 そんなこと考えながらぼんやりと外の景色を眺めていると。


「ん、なんだ?」


 突然の激しい揺れが起こったと思うと馬車が停止した。

 トラブルでもあったのかと思い、御者に聞いてみる。

 

「どうしたんですか。なんかありました?」


「すいませんねお客さん。いやしかし、参っちゃいますよ、あれを見てください」

 

 馬車を降りて御者が指をさした方を見てみると、普通の倍くらいの大きさの巨体をほこる牛のような姿の魔獣が馬車道を塞ぐように横たわっている。

 しかしよく見るとその体のあちこちに刃物で切りつけられたような裂傷があり、痛々しく血液を流していてすでに虫の息といった感じだ。


「あの血まみれの魔獣を見た馬が怯えちゃって動かないんです。このルートには魔獣なんて出ないはずなのにおかしいんですよ」

 

「うーん、なるほど」


 魔獣は襲ってくる気配はないが、低く唸りながらこちらを威嚇するように目線を向けている。

 無理に突っ切ろうとすると攻撃される可能性が高いとみた。

 あの傷では多分、時機に生き絶えて塵になって消えるとは思うが、それを待つほど悠長にもしてられない。

 馬車馬が魔獣に怯えて動かない以上、来た道を戻るのも難しいし、別の道まで移動していると時間がかかる。

 となると選択肢はあの魔獣にとどめを刺して塵と化せるかあるいは追い払うのが吉か。


「任して下さいよ御者さん。僕らこう見えてもブレイブなんすよ。魔獣討伐なんてチョチョイのチョイですよ。というわけでアティナ、数少ないお前の出番だ。ささっと片付けてくれ」

 

 あんな死に損ないの魔獣くらい、アティナなら余裕だろうという目論見だ。


「血…………ごくり」


「血…………あっ……」

 

 なんだこいつら。

 血に染まった魔獣を見るやいなや、アティナはよっぽど血を欲してたのか血走った目で獲物を捕らえ生つばを飲み込み、カオリンは青ざめてその場にへなへなとへたり込んでしまった。

 隙が丸出しとは情けないやつらだ。

 正直僕も表には辛うじて出さなかったが、魔獣を見た瞬間にびびって腰を抜かすところだったからあまり人のことは言えないが。

 

「……え? なんか言った、クズゴミ? 私ちょっと急用ができたからカオリンを連れて馬車の中に戻ってて頂戴」


 どうやら魔獣の血に夢中になっていて僕の声なんか聞こえちゃいなかったらしい。

 なんかアティナがものすごく凶暴になっていっている気がする。

 あんまり血をお預けしすぎるとこうなるのだろうか。

 今度からは適度にトマトジュースでもあげることにしよう。

 無差別に人を襲い始めでもしたら大変だからな。

 色も似てるし大丈夫だろ。


 しかし血走っているアティナにはやたら迫力ある気がする。

 見た目は別に変わらないけどオーラというか気配に威圧感が増しているような。

 馬車馬も魔獣もアティナを見て怯えていると思うくらいだ。


「グルルル……グモォッ……!」


「あっ! 待って、どこ行くのよ!」


 見ろ。

 怖がって魔獣の方から逃げ去っていく始末だ。

 あの怪我の割にかなり速いスピードで逃げ去って行ったから流石に追いかけてまで行かなかったが惜しそうにしているアティナに、僕は言ってやる。


「そうガッカリするなって。ごめんなアティナ、まさかそんなになるまで血に飢えているとは知らなかったんだ。思う存分吸血させてあげるよ……カオリンのをな」


「ええっ!?」


 それを聞いてたカオリンが予想していなかったであろう一言に驚愕の悲鳴をあげる。

 このままアティナの奴を放置しておくと背後からさっくりやられそうだし、血を少しでも与えて落ち着かせた方がいいだろう。

 そういう訳だから可愛そうだけど、カオリンには生贄になって貰う他ない。

 僕の身の為、仕方がない犠牲なのだ。


 この後、事がそう上手く運ぶわけもなく、カオリンに裏切られアティナと二人がかりで僕を押さえつけ血を吸われたのは言うまでもない。


 奴らには血も涙もないのか。

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