第4話 吸血城の使用人 その①
翌日。
色々と思うところはあったが、結局依頼を受注した僕とアティナは現在、木々が生い茂る森林地帯を闊歩していた。
アティナが選んだ依頼の内容は、とある廃城を調査して欲しいというもの。
なんでも最近、その廃城に頻繁に出入りする影が目撃されているらしく、廃城が魔獣の巣窟になっている恐れがあるため危険因子の早期撲滅を目的としたもの、とのことだ。
要するに魔獣が群れると脅威なので本当に巣食っているのか見てこい、ということらしい。
その結果によっては後日に討伐隊が結成され廃城に突撃することになるらしいが、調査する方は魔獣と戦う必要はないという条件だ。
故に、この依頼の難易度はBランクと、討伐依頼に比べたら低めのランク設定になっていたため、僕とアティナでも受注することが出来たのだ。
ちなみに僕もアティナもブレイブのランクはB。
Cランクから始めて苦労してBランクに昇格した僕としては、いきなりアティナがBランクからスタートするのは不満を覚えたものだが、魔力差があるからということで無理矢理納得した。
ともかく戦わなくて良いのなら、せめて目的地の廃城に着くまででも、魔獣との遭遇は極力避けたいところだ。
それにしても……。
僕一人なら能力を使って家から一歩も出なくても依頼を達成することが出来るのに、アティナがいたらそうもいかないよな。
アティナには僕の能力の事は秘密にしている。
というより、僕が異能力者だということは誰に対しても内緒で知る者はいない。
そっちの方がいろいろと都合がいいからと考えるからだ。
例えば僕が転移能力を持ってると知れ渡ってると仮定して密室殺人でも勃発した際、真っ先に疑われるかもしれない。
他の能力にしても同様に、僕にしか出来ないとか言う理由で有らぬ容疑をかけられるなんて理不尽だ。
前に人の通行量が多い場所の突然何もないところからいきなり大量の爆竹が鳴らされ軽いパニックが起こった事件が発生して一番に僕が疑われたが、その時僕にはアリバイがあったから助かったことがあった。
転移能力があればアリバイもクソもないのが道理だ。
まあ、それは僕の仕事だったのだが。
そんなことを思いながら歩いていると。
ぷ〜〜〜〜〜〜〜ん。
耳障りなモスキート音が聞こえる。
森林地帯だからそりゃ蚊の一匹や二匹出るものだろう。
虫除けスプレーでも持ってくれば良かったと思いつつも、なるべく気にしないように努力するが、
ぷ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。
バチッ!
「ちっ! 逃したか!」
苛ついた僕の脳内は、蚊を殺害しようとすることで完全に支配されて満たされた。
「だが次は無いぜ……。再び視界に入ったその瞬間、僕の耳元でうるさく飛び回ったことを後悔する暇も与えず容赦なくぶち殺して、痛いっ!!」
蚊を仕留めようと両手を構えて臨戦態勢にはいっていると、アティナに後ろからどつかれ地面を転がった。
「この、腐れ外道がぁぁぁ! なんの罪もない私の眷属にいきなりなんてことをするの!? さぁ、早くお逃げなさい。あの馬鹿には後で私が天罰を与えておくから」
そう言って蚊を遠くへパタパタと逃すアティナ。
そしてむくりと立ち上がった僕の怒りの矛先は、すでにターゲットを変えていた。
「……なんだなんだ。どうやら吸血神ってのは蚊の神様だったようだ。そうかなるほど、どうりで小うるさくピーピー騒ぎ立てるところとか蚊に似てると思ったよ。今度殺虫剤をプレゼントしてやる」
「あらあらまあまあ、中々どうして面白いことを口にするわね。笑わせるのは名前だけにして頂戴な。あと次に蚊の神様呼ばわりしたらもっと手痛いのをお見舞いして二度とその減らず口をたたけなくしてやるから」
僕の挑発の言葉に腹を立てたアティナの眉が吊り上がっていく。
しかしそれでも収まらず。
「けっ! 犬に簡単に槍を持っていかれて、半べそかいてた間抜けがよくいうぜ」
「……っ! 今すぐこの場で吸血神の実力をあんたの身体に刻み込んでやっても良いのよ、クズ野郎」
怒りを通り越して軽い殺意を抱かせている身体は既にグングニルを手に握らせている。
「お? やる気か? おもしれー。だが覚悟が要るぜ。 例えこの場でボコボコにやられたとしても、後で必ず僕を敵に回した事を後悔させてやるからな」
「いい度胸ね。丁度、血に飢えていたところだったの……!」
もはや戦いは避けられぬ。
そんな緊迫と殺戮とした空気を醸し出す空間を見つめていた、観客が居たことに気が付いたのは僕とアティナ同時だった。
びっくりしすぎて心臓が跳ね起きたかのようだ。
そこには人が一人。
一歩近づけは手が届く距離までに接近したことをまるで悟らせなかったのは、給仕服を着用している女の子だ。
しかし人間ではない事に、頭から生えている獣耳を見てすぐに理解する。
この子は獣人というやつだ。
うつむいていて顔がよく見えなかったが、僕とアティナよりも頭二個分は小さい身長を考慮するに、まだ子どもではないかと思う。
それがどうしてこんな魔獣が出るような森林地帯に一人でいるんだ?
「あなた、一体どうしてこんなとこ……ろ……に」
アティナが声をかけた、その直後。
まさに悪夢。
女の子は、血走った眼球で食事を目の前にした肉食獣のようによだれをすすう非常にグロテスクな化け物に、メキメキと姿を変貌させていった。
そんなホラー映画のワンシーンのような光景を目の当たりにした僕は、全身から冷や汗が止めどなく流れるの感じ、とにかく逃げだすことで頭がいっぱいになった。
こりゃいかん。
「ア、アティナさん? さっきの事は全面的に僕が悪かったと謝りますので、どうか吸血神様のお力で囮にでもなって逃亡の手助けをしては頂けませんでしょうか……?」
完全にビビり上がった声でそんな調子のいいことを話す僕に対してアティナは、
「痛たたたた、急に古傷が……! 残念ながら私はこの場でお役に立ちそうにないわ。それにクズゴミさんのマスターとしてのかっこいい活躍を見てみたいなぁ、なんて……。例えばピンチに陥ってる少女を助けるとか」
僕と同じ、逃げることしか考えてない発言をする。
お互いに自分のことしか考えてない相手を非難していると、化け物の首が伸びて眼前にまで迫って来ていた。
「ギャアアアアァァ………………」
アティナと二人、悲鳴を叫んで逃げ去るのだった。
どうしてこんなことに。
ああ、もう家に帰りたい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
息も絶え絶え化け物から逃げ切ったときには、いつの間にか森林地帯を抜けていて、巨大な川が流れる場所にでていた。
普段『オーバー・ザ・ワールド』の能力で転移ばかりして運動不足の僕にはちょいと過度な疾走だったと後悔する。
足よりも精神的なダメージの方がでかかったが。
「はぁ……。めちゃ疲れた……」
「ううう……うええぇ、何なのよ、あいつ」
よっぽど怖かったのか、ぐすぐす泣いてるアティナはへこたれている。
うん、まあ確かにあれは怖かった。
なんとか紙一重で失禁するのは耐えることが出来たが。
あんなのと嬉々として戦いを挑むようなブレイブがいると聞くが、僕には到底理解出来ん。
とりあえずは『アイズ・オブ・ヘブン』で見る限り、あの化け物は獣人の姿に戻ってどっかに去って行ったの確認出来たらから一安心だ。
「なぁ、どうしよ? このまま廃城を目指して進むか、それとも今回は依頼を諦めて街に帰るか……。僕としてはもうおっかないからお家に帰りたい」
そんな後ろ向きでチキンな事を言うと、くいかかるようにアティナが抗議してきた。
「何言ってるのよ! いま帰ろうと森林に入ったらあの化け物と鉢合わせするかもしれないじゃない! ここは前進あるのみ! 城まで行って時間を稼いでから戻るのよ」
意見は違えど、根本的なとこは僕と一緒じゃねえか。
私にかかればとか、相手は瞬殺だとかほざいてた態度はもはやかけらも見受けられない。
それはまあ置いておくとして。
僕は能力であの獣人の子がどっかに去って行ったのを知ってるけど、知らない方からしたらまだ化け物が森林をうろついていると思うだろう。
そうなると僕がアティナの意見を蹴って、もう大丈夫だからと無理に戻るのはいささか不自然か。
ならここはアティナの言う通り先に進むべきかな。
なに、いざとなったらアティナを置いて『オーバー・ザ・ワールド』の能力で一人で帰ってしまおう。
「よし分かった。そこまで言うなら依頼を続行しよう。確か廃城は方角的にこの川を渡った先にあるはずだ。渡れる場所を探して川沿いに歩いて行こう」
その巨大に広がる川は、向こう岸まで目算でも五十メートル程あり濁っているのでよく見えないが、結構深そうなので泳いでいくのは難しいだろう。
どこかに都合よく橋でも掛かってたりしないものか。
「あ、あれ? 予想外に意外と素直ね? もっとこう反対されると思ってたのだけど。……あっ! ちょっとクズゴミ、あれ見てあれ!」
何か慌ててアティナが指差す方に振り返ってみるとそこには、
「……魚、だな」
かなりでかい魚が川から上がってきている光景だった。
全長二十メートルはありそうだ。
しかもただの魚ではない。
足が生えてる。
その足で歩いてる。
いわゆる水陸両用というやつか。
おそらくあれも魔獣の一種なのだろう。
なんとも珍妙な魔獣だが、青と緑の魚鱗に覆われた巨体には恐ろしいほどの力が秘められているのが感じ取れる。
見つかると非常にまずいと直感した僕は、アティナにゆっくりこの場を離れようと声をかけようとしたその寸前。
「名案を閃いたわ。あの魚類をうまいこと手なづけて向こう岸にまで運んでもらえばいいのよ。そうすればわざわざ歩き回る手間が省けるってもの。私ちょっと行ってくるからクズゴミは精々そこで控えて吸血神のみ技をながめてなさい」
「あ! ちょっと待て……!」
僕が止める間もなく、アティナは巨大魚に向かってグングニルを手に突撃して行った。
あの魔獣相手にひるむ様子もなく駆けてゆく。
大口たたいていたのは良いが、今までの傾向を見るにあっさりとやられて、泣いて逃げ帰ってくるのではないかと心配だ。
お願いだからその心配は杞憂だった思わせてくれ。
「!」
巨大魚が自分に向かって駆けてくるアティナに気付き、口や尾びれを広げて構え威嚇行動をとる。
その口は鮫のように、鋭利な刃物を思わせる歯がびっしりと生え並んでいて、あれに噛み付かれたら間違いなく致命傷を負うと考えるとそれだけで身体が畏縮してしまう。
あんなのを相手にどう立ち回るのか。
僕が不安げに見ていると、距離をある程度詰めて巨大魚と相対したアティナは、不敵な笑みを浮かべグングニルの穂先を天に掲げ高らかに唱えた。
「喰らいなさい! 『ライジングムーン』!」
次の瞬間、目を覆いたくなるような膨大な光が当たり一面を照らした。
光があたっている周りの物は、フライパンで肉を焼くような音をあげて煙をたてている。
あの攻撃魔法は、穂先から放たれた魔力がまさに光の爆弾となって空中で弾け飛び、広範囲の敵の身体を蝕むように徐々に焼いていく代物のようだ。
てか、あいつふざけんな。
僕にも魔法の光があたって巻き添え食らってるんだよ。
『ベネフィット・スターズ』の能力がなかったら魚と一緒に焼け焦げてたところだ。
あとで川に突き落としてやるから覚えてろよ。
しかし巨大魚もただその場で突っ立って焼かれるだけではなかった。
驚いたことに巨大魚は、口から突如として大量の泡を吐き出しその巨体を完全に隠しきれるほどほサイズの壁を作った。
僕はあの現象を知っている。
あれは防衛魔法『バブルシールド』だ。
泡と言うよりはどちらかというとシャボン玉に近いが、シャボン玉の集合体で形成された盾は『ライジングムーン』の光から巨大魚の身体を遮った。
するとシャボン玉がレンズの役割を果たし光を乱反射させたため、身体を焼くほどの光は巨大魚に届かない。
本来は炎などから身を守る為に用いる魔法だが、結果的にはアティナの攻撃を無効化していたのだ。
狙ってやったか否かは分からないけど。
「アティナぁぁ! お前のその魔法、あの魚に完全に防がれてるぞ! 反撃される前に早いとこずらかろう! 別に無理して戦う必要ないだろ!」
念のため離れた岩陰に隠れながら僕は檄をとばすが、いつでも逃げる準備完了の僕に比べてアティナはグングニルをその場で構えたまま動こうとしない。
「ぐぅぅ……! 嫌よ! 魚類相手なんかに逃げたとあっては、吸血神の名が廃るってものよ! 逃げたければ一人で逃げればいいでしょ!」
そう言い悔しかったのか、なおも魔法攻撃を続ける手は気の所為か少し震えているように見える。
さっき一緒に泣き叫んで逃げ回ったっていうのに今更何だという。
意地っ張りというか強情な奴だ。
「気は進まないがこうなったら仕方がない」
巨大魚が光から身を守るべく今も口から吐き出してる泡で『バブルシールド』を展開し続けているところ狙って発動する。
『オーバー・ザ・ワールド』+『ベネフィット・スターズ』第一の能力。
これで巨大魚はもちろんのこと、アティナも僕の動きを認識することは出来ない。
そしてすかさず、その辺で適当に見繕って拾った木の枝を手に、全く悟られることなく巨大魚に接近した僕はそのぎょろぎょろとうごめく巨大魚の眼球めがけて木の枝を振り下ろした!
「オラァァ!」
ぐちょ、といういい音がした。
手応えあり……!
瞬間、無防備な目に不意打ちの一撃をもらった巨大魚は、悲痛な雄叫びを上げ身悶えし巨大を揺らしながら暴れ出した!
「おっしゃあ!」
僕も雄叫びを上げる。
ただし、勝利のな。
あの魚、もはや泡吹いてる場合じゃないナ。
言わずもがなだが、既に僕は元いた岩陰に撤退した後。
いつでも忘れないヒットアンドアウェイの精神。
最後に僕は、何が起きたか分からずポカンとしてるアティナに指示をだす。
「アティナ! 神のくれたチャンスだ! 今のうちに強烈なのをくれてやろう! 急げ!」
「えっ? あ、うん」
頭の思考が追いついていない様子ではあったが、隙をつき巨大魚の懐に飛び込んだアティナのグングニルによる強力な一突が直撃する。
グングニルによる一撃は白い閃光の直線となりその巨大を貫き、天まで昇って行くほどのものだった。
「ぎょょょょょょょ!?」
死角からもろにダメージを喰らった巨大魚は断末魔の悲鳴とともに地鳴りをたて地に倒れ伏せ、黒い塵となって消えていった。
魔獣は息絶えると、その身体は塵や灰となって消えてしまうのだ。
その塵や灰が更に空気中で細かく分解されたものをマナと呼び、魔法を使うのに必要なエネルギーになるらしいが僕にはよく分からん。
それに塵と化すためせっかく魔獣を討伐しても得られるものが何もないのだ。
素材を入手できるものでもないため、依頼で討伐の報酬を貰う以外は戦うことにメリットがないのである。
なので普通目的がない限りは魔獣に喧嘩売ったりはしない。
「ああぁ、殺しやがった。なんて酷いことしやがる。血も涙も無い野郎だ。それに手なづけるって言ってなかったっけ?」
勝利の余韻に浸っているアティナを責め立てる。
「えぇぇ!? だってクズゴミがチャンスだから今のうちにやっちまえって言ったじゃないの! 大体どうやってあんなのを手なづけるっていうのよ」
「知らない知らない知らない。ていうか、手なづけるって言ったのはアティナじゃないか」
手なづけると言っておいて巨大魚にとどめを刺したことへの非難や、やっちまえと言ったのは僕だとか責任転嫁の一悶着あったことは置いておくとして、どうやって川を渡るか考えねば。
「そういえばアティナ。昨日確か使えない攻撃魔法は無いって言ってだろ? なんかこう、氷系の魔法とかで川の水一面を凍らせることとか出来ないか」
「ああなるほど、氷の橋を作って渡るというわけね。ナイスアイデアよ、それ。それじゃあ早速やりましょう。それと使えない攻撃魔法は無いじゃなくて、使えない攻撃魔法は少ないと言ったの。流石の私でも苦手な魔法がある訳よ」
アティナは僕の言葉を訂正し腰掛けていた大岩からピョンと飛び降りると、グングニルを現界させ川の方へ構えた。
「『シルバースプレッド』」
そう唱えられた魔法は冷たい白銀の風を生み出し、それは見る見るうちに川の水面に氷の床を広げていき向こう岸までの道を作った。
「おお〜」
思わず賞賛の拍手を送る。
向こう岸までの距離を考えると途中で何回も魔法を使いたしながら移動することをイメージしてただけに、魔法一息で事足りるとは思わなかった。
散々でかい口をたたくだけはある訳だ。
魔法は詠唱有り、魔法名のみ、無発声の三種類に区別され魔法の威力と発動の速さが反比例する形になる。
例えば今アティナがやったのが魔法名のみで、さっき巨大魚がやったのがいきなり魔法を発動させた無発声だ。
魔獣は言葉を話せないから自ずと無発声の発動になるが。
僕が使える数少ない魔法で『アイスブロック』という氷系のものがあるが仮に詠唱有りで発動させてもアティナと同じ芸当は無理だ。
ちなみに『アイスブロック』とは文字通りブロック状の氷を生み出す魔法で、僕の魔力じゃどう頑張っても一口サイズの氷が限界。
しかしそれでいい。
いや、それがいい。
誰かの背中の服の裾に入れたりするにはちょうどいいサイズだからナ。
「ま、ざっとこんなものよ。これくらいの芸当なら余裕で朝飯前といった感じね。さぁ、溶けちゃう前に早く渡りましょ」
「いやーお見事ですなー。なかなか鮮やかなお手並み。口先だけじゃなかったんだな、まったくよ」
「……? 私褒められたのよね? なんでイライラしたんだろ」
ともかく、これで一件落着とまとまれば吸血神の威厳が保てただろう。
しかし事件は起きた。
あと少しで川を渡りきる距離まで来た時のこと。
「さっき見せた『シルバースプレッド』はね、私の力が減退してなければそのへんの山一つ氷山に変えるだけの強力な魔法なんだからね。本来なら川に橋をかけるためには使わないの。でもいい機会だからここはひとつこの吸血神様の実力をクズでもゴミでも分かるように披露してあげたという次第であって分かったら態度や言動のひとつでもわきまえなさいと言いたい訳よ」
ちっ、さっきからうるせーな。
ちょっと褒めたらすぐこれかい。
確かにさっきのは凄かったと思うけど調子に乗りすぎだ。
「ちょっとクズゴミ! 聞いてるの!」
……ピシッ。
「ハイハイ、聞いてる聞いてる……今なんかピシッてヒビ割れたような音しなかった?」
足元から聞こえたような気がするが。
「……別に聞こえなかったけど。頭が呆けてるから幻聴が聞こえたのよ、きっと」
くっ、いちいち人を小馬鹿にしないと気が済まないのかコイツは。
でもやっぱり気のせいだったような気もしてきた。
しかしアティナが止めていた足を一歩踏み出したその直後。
「まったく。前に私を召喚したマスターは、キャッ!」
ザッブンッ……!!
……アティナが消えた。
一秒前まで目の前に居たのに。
多分、端の方は氷が薄かったんだな。
可哀想に。
最後にオチをつけてくれたな。
落ちただけに。
ザマァみやがれ。
そういえば後で川に突き落としやろうと思ってたっけ。
突き落とす手間が省けたな。
よかったよかった。
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