第2話 吸血神

 人通りの少ない路地裏にある建物のロウソクで灯された薄暗くだだっ広い一室。

 床には六畳の部屋を丸々覆える程の大きさの禍々しい布に複雑怪奇な魔法陣が描かれていて、素人の僕には何か分からないような文字の羅列に変な色をした小石や、小瓶に入った怪しげな液体、謎の金属片が不規則にたくさん並べられていた。

 そのミステリーゾーンを囲むように、周りにはぶかぶかの魔術師が着るようなローブを身に纏った人が男女を問わず数人。

 事実全員が魔術師だろう。

 それぞれがブツブツ何かを唱えたり、魔法陣に更に何かを書き足したりしていた。

 僕はというと『ベネフィット・スターズ』第一の能力を使い、部屋の隅っこでその様子を眺めていた。

 『アイズ・オブ・ヘブン』の能力では光景は覗けても声や音までは聴こえないからだ。


「苦節する事十年……。皆の衆、いよいよ召喚陣の完成が間近だ。我らの悲願……神をこの世に召喚する時がきた」


 一人だけ色違いのローブを着たおそらくリーダーであろう男がそんな事を呟いた。

 どうやらこの怪しげな儀式も大詰めらしい。


「そして召喚に成功したあかつきには、神の力を利用し、存分に破壊を尽くしたあと世界を我々の手中に収めるのだ! フハハハハハハハハハ!」


 なるほど、つまり世界征服のために神を召喚するというわけか。

 なんという悪党。

 これは見逃せないナ。

 というわけで僕は決意した。


「そうはさせるか! 世界は僕が守る!」


 カッコつけて叫ぶのだった。

 もちろん自宅で、満面の笑みを浮かべながら。


 まずは軽いジャブだ。

 手始めに僕は、こんな事もあろうかと大事に飼っていたコオロギくんを掴みその場に放った!

 不思議とこの世界の人々の九割は昆虫を忌み嫌う。

 コオロギ、ゴキブリ、ムカデにミミズ、エトセトラエトセトラ……。

 故にそれは最高の武器になることを僕は知っている。

 コオロギは『ベネフィット・スターズ』第二の能力で僕の手の中に収まってる間は鳴き声や羽音で存在がバレることは皆無。

 しかし手を離れた瞬間……!


「そら! 行って来い!」


 ブーン! パタパタパタパタ!

 重厚な羽音をたて飛び回る突如現れた虫に儀式場、大パニック……!

 虫が苦手な人が多かったのが功を奏したようだ。

 女性の魔術師は甲高い悲鳴をあげていた。


 やったことと言えば、その場にコオロギを放っただけ。

 しかし効果はてきめん……!

 その結果に大満足した僕はしっかりとコオロギくんを回収したのだった。

 また他の機会に使おうと……!



 コンコンコン。

 次に僕は普通に扉をノックする。

 ちゃんと外側からだ。


「……? 誰だ、こんな所に……?」


「まさか、奴らの犬にこの場所を嗅ぎつけられたのか?」


 ざわめく魔術師達。

 それもそのはず、こんな怪しげな儀式をしているのを目撃されたくないし、邪魔されたくもないだろう。

 誰か来るのに過敏になるのも頷ける。

 一人が恐る恐るドアを開く。

 だが僕が空のノックをしただけなので誰もいるはずもない。


「……誰も居ません」


「気のせい……ではないな。するとただのイタズラか……?」


 扉を確認させたリーダーの男や他の魔術師達は何事もなかったかのように作業に戻る。

 

 コンコンコンコンコンコンコン!


「ちぃーーー! やかましいぞ! とっ捕まえて締め上げこい!」


 沸点の低いリーダーの男はそう指示をだす、が……!


「誰も居ません!」


「何ぃ!?」


 自らも外に出て見渡すが確かに誰もいないし、隠れられるような所もなかった。

 悪態をつき乱暴にドアを閉めていた。


「全く、醜く狼狽えてるぜ。ガハハハハ!」

 

 僕の素直な感想だった。

 そして続行。


 コンコンコンコンコンコンコンコンコン!


「くっ……。無視だ! 無視!」


 リーダーの男はそう言う。

 かなりピリピリしているようで、声からイラつき具合がうかがえる。

 ここで追い討ちを仕掛ける……!


 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!


「ぬがぁぁぁぁ!! ライトニングライボルーー!」


「うわぁぁぁ! リーダーやめてください!!」


 ドアに向かって魔法を放とうとするリーダーの男を他の魔術師達で取り押さえる!

 いくら人通りの少ない場所と言えど、街中で魔法を使い破壊騒動を起こせば騒ぎになるのは必然だ。


「うがぁ!! 離せぇぇぇ!!」


 取り乱す魔術師達を見て僕は爆笑してしまった。

 短気な野郎には効果抜群だったようだ。

 笑わせてくれるぜ。

 もっとも腹筋を鍛えるには丁度いいがな。


「おっといかんいかん。お遊びはここまでだ」


 早いとこ召喚を妨害する嫌がらせをせねば……!

 という訳で、手っ取り早い行動にでることにした。


 『アイズ・オブ・ヘブン』発動!

 禍々しい布に誰も触れていない時を見計らいそして……!

 『オーバー・ザ・ワールド』発動!

 転移し、すかさず布の端を掴みとり……。


「オラァァァ!!」


 ちゃぶ台返しの要領でおもいっきりめくりあげた!

 すると当然、宙を舞う小石、小瓶、金属片……!

 重力に従い落下する……!

 カツーン、カツーン、パリーン!

 せっかく規則正しく並べられていた物はバラバラになり、落ちた小瓶は割れて中身が飛び散り、布にシミを作った!

 同時に得体の知れない力を放っていた魔法陣は枯れた葉っぱのようにしんなりとしてしまった。

 僕は魔法陣については全くの素人だが、魔法陣は一度設置した場所から動かすとそれまで蓄積された効果や力を全て失うという知識はある。

 こんなこともあろうかとそれだけは覚えておいたのだ!

 これで奴らの十年の苦労は台無し……!

 全てが水の泡……!

 無に回帰する努力……!


「こりゃひでぇ! メチャクチャだぁ! 目も当てられない……! ダァハハハ!!」


 大笑いする僕。

 そこに悪びれた様子は全くないのだった。

 直後、その光景を目の当たりにしたリーダー格の男、一瞬何が起こったか分からず、フリーズ。

 そして数秒たって惨劇を理解した後、発狂……!

 思いもかけず、発狂……!

 この世の終わりが来たかのごとく、耳を覆いたくなるようなデカイ声で叫びだした。

 思った以上のリアクション。

 これには僕、ガッツポーズ。

 明後日の方向を向き、にやけた顔で僕も叫んだ。


「正義は勝つ!」


 歓喜の咆哮である。


 その後数分に渡って阿鼻叫喚し泡を吹いて力尽きて倒れたリーダー格の男は他の魔術師達によって運ばれていった。

 魔術師の一人が儀式の惨状を見て「この儀式に全て捧げたのに何故こんな事に……」と泣き言を言っていたが、それを聞いた僕。


「そりゃあ悪い事をしたぁ! ははははは!」


 下衆な笑い声をあげながら口にする。

 当然そんな事、毛一本思っている訳がなし。

 残った連中もいたが、このざまじゃ修復する気にもならなかったようで、何もせずロウソクの火だけ消して去って行く。

 僕はそれを子どもの成長を見守る親のような微笑ましい顔で見送ったのだった。


 時に、不幸には二種類ある。

 自分に降りかかる不幸と他人の得る幸運だ。

 その逆もまた然り。

 魔術師達は今回のことを何者かに妨害されたとは思わない。

 多分、謎の怪奇現象が発生する不運、不幸だと思うだろう。

 何が言いたいかというとだな。

 奴らに最大級の不幸をくれてやったおかげで、僕が凄く得をした気になれて嬉しいってことだ。

 他人の不幸は蜜の味とはよく言ったもの。

 今日も誰かの不幸で飯がうまいぜ……!

 

 


 この時、僕は不覚にも油断して世界征服の野望を阻止したという達成感と充実感で、まだ現場にいるのにもかかわらず『ベネフィット・スターズ』第一の能力を解除してしまっていた。

 その事を後々後悔することはめになるとは喜びの小躍りを踊らざるを得なかった僕には気付く余地も無かったのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ああ楽しかった。さて、帰るとするか」


 それは魔術師達を見送り、転移して帰宅しようと思った刹那のことだった。

 僕の視界と真っ暗だった部屋が真っ白な光につつまれた。

 さっき僕がひっくり返した、布に描かれた魔法陣から突如強烈な閃光が放たれ、薄暗かった部屋全体を眩く照らしたのだ!


「うわっ!? な、なんだこりゃあぁ!」


 自分が感知したことのない現象に直面した時の人間に出来ることといえば、硬直して驚愕して、今みたいなことを叫ぶぐらいだろうと、僕は思う。

 というか今まさに僕がそうだったからだ。

 それにその光はどこか何と無くだけど不思議だった。

 人工的な明かりでもなく、太陽や月の光といった自然のものとも違う未知の領域にあるような。

 神秘のベールに包まれた存在というか。

 僕の語彙力では上手く例えられないけれど、あえて言うならそんな感じだ。

 ひょっとしてこれが召喚術というやつなのだろうか。

 噂で聞いたり本で読んだりしたことがあるけど、実際に目の当たりにする日が来ようとは夢にも思わなかった。

 となると魔術師達が行っていた儀式が大成功だった、ということなのか。

 おいおい、なんてことだ。

 全然妨害出来てないじゃないか。

 世界を救った! なんてかってに自己満足していた自分が馬鹿らしくなる。

 まぁ気にしたりはしないけど。


「……! 光が弱くなって来た」


 強烈なまでに輝いていた光は段々と弱く小さくなっていく。

 召喚の完了が近いのかもしれない。

 何が召喚されるんだ……ってそういえば神を召喚するって魔術師が言っていたっけ。

 僕が想像する神様は、身長の高い筋肉質なジジイで、立派な髭をこさえて杖をついている仙人みたいのだが、まさかまるっきしそれが現れるのではなかろうか。

 あるいは蛇の如く体の長い巨大なドラゴンの姿の神様が出て来て、願いを叶えてくれるなんてのも聞いたことがあるが……いや、それは流石にないか。

 もしそんなのが現れて暴れだしたら知らんぷりしてとんずらしよう。


「召喚の妨害……まだ間に合うかな……」


 もう手遅れな気もしないこともないが、やるだけやってみよう。

 僕が魔法陣が描かれた布をびくびくしながら掴もうと近づいたまさにその刹那。


「っ!」


 光の輝きが衝撃と共に爆弾が爆発したかのように、弾け飛んで散り去りその風圧を受け、僕は背後に三メートルくらい転がるように吹き飛ばされ尻もちをつかされた。

 寸前で『ベネフィット・スターズ』第三の能力を発動させたので怪我や痛みはない。

 最初っから発動しておけばいいと思うかもしれないが、これは常に発動しておけるようなものではないのだ。

 それよりもだ。

 眼前にはさっきまで居なかった人影が立っていた。

 正直驚いた。

 立っていたのは美的感覚に乏しいと評判ある僕でさえ美しいと思うほどに可憐な少女だったからだ。

 すらっとした身体からは考えられない程のオーラを放ち、優雅に佇むその姿は立っているだけで絵になる。

 題名は女神とか天使とかが似合うだろう。

 黒紫色の髪と瞳は見ているだけで飲み込まれるような深淵の魅惑がありながらも、顔立ちはずっと幼く感じられる。

 身長も年齢も僕と同じ位だろうか。

 それでも何かこの少女に普通と違った偉大さを印象づけられた。

 少女は唖然としている僕の顔を見つめ、凛とした声で言い放つ。


「ーー貴方が、私のマスター?」


 僕は射抜くように話しかけられて、一瞬ドキッとした。

 思わずゴクリと唾をのむ。

 意識が僕に向けられ、心臓を握られたのではないかと錯覚してしまう程にそのたった一言には威圧感と重圧があったのだと理解する。


 だが僕は直ぐにスクッと立ち上がり、服の埃を払って、少女の瞳を見て答えた。


「いえ違います」


 これがこの少女との邂逅だった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「私の名はアティナ。森羅万象の全吸血族を統べる存在にして究極として崇めまつられる吸血神とは私の事よ」


 再び凛とした声で自信気に自己紹介をするアティナという少女。

 吸血神ってなんだろ。


「えーと……クズゴミ・スターレットだ」


 僕も負けじと精一杯のイケボで名乗り返す。

 するとこの少女は、


「クズゴミ? 何それ変な名前ね。クズでゴミって救いようがないわねアハハハハハ」


 ぐっ……こいつ、初対面の相手に対して、いきなり名前を小馬鹿にしやがって……!


「まあ聞いてくれよ。クズゴミのクズは星屑のクズで、ゴミはスターダストのダストから」


「それよりマスターじゃないなんてどう言うこと!」


 台詞を遮られた。

 もういいや。

 あとでこいつには虫カゴから厳選された活きのいいやつをプレゼントするとして、先にこの状況をなんとかしたい。


「マスターってのは召喚術を施した術士のことだろ。だから僕じゃないんだよ」


 本当の術士は発狂してぶっ倒れて運ばれていったから今頃病院のベットの上かもしれない。

 わざわざ言わないけど。


「嘘おっしゃい。その手の甲に浮かんでる紋章がマスターである証拠じゃない」


 そう言ってアティナは僕の手を指差した。

 紋章だって?

 そんなものあるわけが、ある!?

 

「え、え、何これ?」


 よくわからない図形が組み合わさったものが右手の甲に浮き出ていた。

 ぼんやりと赤く光っているそれはどんなに擦ったり拭いたりしても皮膚と一体化して取れないようになっている。

 そんな慌てふためく僕を尻目に、アティナは自分が召喚された魔法陣を調べていた。


「ふむふむえーと、この羅列に魔石には見覚えが……え、これってまさか『クエストサモン』!? ちょっとマスター! 一体どんな条件指定して召喚したのよ! 無茶苦茶な条件じゃないでしょうね!?」


 急に必至な感じというか、焦ったように声を荒げて聞いてきた。

 ちなみにもう最初に少女に印象もった威厳や偉大さは、すでに僕の中から消え失せている。

 

「『クエストサモン』……条件……」


 本で読んだことがある。

 確か召喚術の一種で、条件を決めてそれが達成されるまでの期間限定で契約する召喚方法、だったような気がする。

 逆に言えばその条件が達成されない限りは召喚された方としては帰れないのでアティナからしたら死活問題である。

 しかしだ。


「確かにそのマスターには何故だかなってしまったみたいだけど、召喚したのは僕じゃないからどんな条件かなんて分からなーー」


 あ、ん?

 いや待てよ、と言って僕は思う。

 そうだ、ついさっきまで世界を救うとか考えてたじゃないか。

 魔術師も世界を手中に収めるとかなんとか言ってたし。

 つまり条件は……。


「多分、世界征服だと思う」


 僕は笑顔でさらりと告げた。

 するとどうしたことか。

 それを聞いたアティナの顔色がだんだんと真っ青になっていった。

 わなわなと震え、汗もダラダラだ。


「え、え、え、嘘でしょ? 冗談よね? 本気で言ってる訳じゃないでしょ? まさか本当にそんな馬鹿な条件指定してないわよね?」


 涙目になりながら、体をさらに震えさせ聞いてきた。


「そう言われてもそれ以外に心当たりなんてない……ぎゃぁぁあ!? な、何を……!」

 

 急に泣き叫びながらアティナが胸ぐらを掴みかかってきた!


「うわぁぁぁぁぁ! 馬鹿! あんた馬鹿! なんでそんな滅茶苦茶なことするの!? それじゃあ私、下手したらまたずっと帰れないじゃないの! 名前のクズとゴミに馬鹿も追加しなさいよ、うわぁぁぁぁ!」

 

 散々な言われようだが、この泣き喚く様子を見てると言い返す気にもなれない。

 悪いのは魔術師達なのに。

 というか泣かないでくれよ。

 僕も何だか泣きたくなってきた。

 

「ま、まあとりあえず落ち着けよ。涙を拭いてさ。マスター権限で、世界征服したことにしてもう帰っていいからさ」


 僕はアティナの手を振り払い、帰ってくれと言わんばかりに魔法陣の方を指さす。

 しかしアティナは、


「そんなので帰れる訳ないでしょ!? あんたの手に紋章がでた地点で契約が成立してるから実際に条件を達成しないと駄目なの! しかも世界征服なんて曖昧なこと言うから具体的に何すればいいか分からないからもう絶望的なの! 私どうすればいいのよぉぉぉぉ!」


 もう情緒不安定といった感じで取り乱している様は、正直見てられない。

 実際に目の前で半狂乱をやられると全然笑えないもんだ。

 なんか僕、最近ずっと発狂してる人を見ているような気がする。

 

「いいから落ち着けって。そう悲観して泣いてばっかりじゃ折角の美貌も形無しだぜ。僕も帰れるいい方法考えるから元気だせよ」


 僕なりに気の効いた事を言ってやったつもりだが。


「あなたって名前だけじゃなくて脳みそまでお粗末なのね。そんな安っぽい心のこもってない言葉かけて貰ってもちっとも励ましにならないわよ」


「……っ!」


 アティナはめそめそしながらもそんな心無い言葉を返してきた。

 我慢しろ。

 忍耐だ。

 歯をくいしばれ。

 今すぐその綺麗な髪の毛を剃りあげてやってもいいが、それでまたぎゃあぎゃあ泣かれてはたまったもんじゃない。

 大丈夫、怒りの衝動を抑えるのは笑いを堪えるよりも簡単だ。


「そうかそうか。暇な時にでも良いアイデアが浮かんだら教えてやるよ。それじゃ」


 逃げるようにその場を立ち去ろうとするとアティナが僕の服を掴んでそれを阻止した。


「……なんだよ。まだ何か言いたいことがあるのか」


 多分、心境とは裏腹な笑顔で僕に言う。


「……マスター、そりゃ無責任ってもんでしょう。勝手に人を呼び出しておいて、行く宛の無いこんなか弱い乙女をほっぽり出すというの? せめて神界に帰れる目処がつくまでの宿の一つでも提供してくれるのが筋というもの」


「いやいや、さっきも言ったけど呼び出したのは僕じゃ無いし、たまたまこの場に居合わせただけだし、あまり巻き込まれたくないというか、そもそも僕に召喚術を使う魔力も技術もないし」


 僕はすぐ逃げれるように掴んでいる手を取り払おうとしたが、アティナは絶対離さないと言わんばかりに掴む力を強くする。


「た、確かにマスターの魔力の感じを見れば召喚術するにはゴミ魔力だから別の人なんだと思うけど、ここはひとつ乗り掛かった船として私を助けるというのが漢気というか任侠というもの……!」


「誰がゴミ魔力だ……! それに漢気や任侠なんて言葉は僕の辞書にはない……! わかったら離せぇ!」


 そう切り捨てるように言うと、今度は泣き叫んで飛びついてきた。


「わぁぁぁぁ! お願いよぉぉ! 見捨てないでよぉぉ! お手伝いでも何でもするからぁぁぁ!」


「あぁぁぁもう! 分かった分かった! 分かったから泣くな! くっ付くな!」


 こうして家に居候が来ることになった。


 あぁ、どうしてこんなことになったんだ。

 僕、何も悪いことしてないのに。

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