馬鹿騒ぎ
奈良ひかる
第1話
「マンガの見過ぎじゃねえの? 」
「はあ? 死ね! 」
それが最後の会話だったと思う。
◆◆◆◆◆◆
「おい、今日行く? 」
「行くに決まってんだろうが! 行かねえと逆にこっちがヤベえんだよ! 」
「まあそうだけどよ」
キラリはあまり気が進まなかった。
そもそもそんなマンガみたいな事を本当にするつもりなのかと思ってしまって
いたからだが、そんな事は口が裂けても言えなかった。
「大体、総長が招集してるのに行かないとかありえねえだろうが! 総長も流石に
今回はブチギレって話らしいぜ、あんだけコケにされたんだから当然だろうけど
な! 」
今夜、俺達プリンアラモードとチョコレートパフェの抗争がある。
きっかけはネットに上がった一本の動画である。
俺達の旗を燃やして遊んでいる動画が拡散された。
一体どこの馬鹿がそんな事をしたのかと思ったら、犯人はチョコレートパフェの
奴だという事がわかった。
そこからは早かった。
お互い目に入った瞬間に喧嘩が始まる。
火種はどんどん大きくなっていき、今夜決着をつけるべく招集がかかったのだ。
「ヤベえな。俺、今日で幹部になれるかもしんねえ」
キラリにしてみれば幹部とかそんなものになど興味はなかった。
ただ、社会のはみ出し者の自分が居ても許される場所がここで、それが無くなら
ないようにする事が彼の望みだ。
◆◆◆◆◆◆
ぞろぞろ人が集まる。
見た目からしそれである事は明らかで、今すぐにでも始まってしまいそうな
雰囲気の中で、総長がゆっくりとやって来た。
そしてそれは始まった。
とある廃屋に集まった100人程度のろくでなしどもが殴り合いを始める。
当然のように刃物を持ち出す者もいる、ここにルールなんてものは無い。
どういう形で決着が着くかなんて誰も知らない。
当然だろう、そんなものに興味がないのだ。
この抗争を仕掛けた当人が望んでいるのは虚無感を埋める事だけだ。
◆◆◆◆◆◆
俺の友達は結構有名人である。
ネット上に動画が拡散されているからだ。
それはまあ、アダルティな動画な訳ではあるけど、友達が望んだモノでは
無かったという事だけは知っていて欲しい。
だから僕は言ったんだ。
「マンガの見過ぎじゃねえの? 」
マンガの様なヤンキーなんて存在する訳が無い事を教えてあげたのに
「はあ? 死ね! 」
友達は信じてくれなかった。
結果、友達はもうこの世にはいない。
友達に落ち度が無かった訳ではない事は分かっている。
でも何だか変なんだよね、友達が居なくなってしまってからおかしいんだ。
この気持ちは何なんだろうか?
◆◆◆◆◆◆
虚しいこの気持ちを俺はどうするべきかを考えた結果、
友達の弔いをしてあげる事にした。
そして始めたこの馬鹿騒ぎ。
動画を一本作って上げるだけの簡単な作業。
後は少しの誘導で簡単に盛り上がって行った。
廃屋の周りをフラフラ歩く。
イヤホンからは友達の声が聞こえてくる。
「さあ仕上げだ」
火をつけたライターを投げ入れれば一気に広がって行く炎。
廃屋の周りはすぐに炎に包まれた。
これで一層中は盛り上がるだろう。
我ながら素晴らしい演出だと思うが、少し幼稚だっただろうか?
『何人生き残るかな? 』
なんて考えながら帰り道に
「何か召喚出来たかもしれないな」
そんなマンガチックな言葉が出たのはきっと夜空に赤が綺麗だったからか?
遠くからサイレンの音が響いて来た。
馬鹿騒ぎ 奈良ひかる @nrhkr278
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