あっしの家と萩組

〜家のこととそれから〜

 夜中になると俺の家の周りが賑やかになる。部屋の窓から外を見下ろすと、今日もヤクザたちが騒いでる。外では父さんが奴らに頭を下げているのが見えた。

「またか……」

 今日も眠れないことが確定し、掛け布団を頭から被った。できるだけ外の音が聞こえてこないように……。この状況いつまで続くんだろう。誰か助けてくれないかな……。

 


※※



 土曜日の昼、リビングで親父がパソコン越しに仕事をしている。話している相手は誰だろう。背景がどこかのオフィスっぽいけど。

「獅斗さん、先日はありがとうございました。獅龍組からのタレコミと皆さんのおかげで、ヤクザの取引現場を押さえることができました。報酬も振り込みましたので、ご確認をお願いいたします」

「アタシの部下が優秀だからですよ。また戦力が必要なときは、おっしゃってくださいね」

「ありがとうございます。またお互いに助け合いましょう。何卒よろしくお願いいたします」

 soomズームを切ったのを見届けてから親父に話しかけた。

「土曜日なのに仕事?」

「もう済んだけどな」

 この機会にみんなに、家のことを紹介しようかな。あっしの家は獅龍組しりゅうぐみという一応ヤクザの家だ。何で一応って言ったかというと、あっしが住んでいる◯✖️町カタギ一般人と溶け込んでいる上、獅龍組が縄張りとして町を守っているのでカタギも安心して暮らしている。親父の部下も1000人近くいるから、マンション一棟の敷地に、みんなで住んでいる。全部で14階で1階が食堂で、2階から居住地。ランクが高い人ほど上の階に住んでいる。ちなみに最上階は幹部しかいない。あと、温泉施設が屋上にある。うちはヤクザだけど、お天道様に顔向けできないような悪いことはやっていない。歴代の組長が毛嫌いしていて、逆に悪いヤクザやカタギでも悪いことをした者を成敗している、警察的な立ち位置にいる。ただ……。


 いくら悪いことをしていないからとはいえ、ヤクザを怖がってしまうカタギも中にはいる。小学生の頃がそうだった。あの事件が起きてから、あっしに近づいてきてくれる人はいなかったから……。今思い出すだけでも悲しくなる。だから、中学では目立たないように頑張るんだ。



※※



「獅斗様、獅恩様。今大丈夫ですか?」

「ああ。どうした?」

「お二人に紹介したい人がいまして。連れてきていいですか?」

「もちろん。じゃあ茶でも用意するか。獅恩頼むわ」

「うん」

 ケトルでお湯を沸かしているとき、マコトと一緒に若そうな男の人がやってきた。マコトと同じくらいの身長で、鍛えているのか体格もガッシリしている。近くで見ると迫力あるなぁ……。お茶の準備を終えてテーブルに並べていった。

「それじゃあ紹介しますね。こちらは警視庁の舘川敦たてかわあつしです」

 警視庁?何で刑事さんがここに?頭の中で疑問が浮かんでいた。舘川さんはスーツのふところから名刺入れを取り出して、あっしと親父に渡した。

「初めましてこの度、獅龍組専属チームに配属されました舘川と申します。何卒よろしくお願いいたします」

「獅龍組専属チーム?」

 あっしは初めて聞いた言葉だった。警察とは協力関係にあるって昔聞いたことがあったけど……。

「獅恩大丈夫か?話についてこれてるか?」

 親父に心の中を読まれた気分……。あっしは無言で頭を横に振った。

「獅龍組専属チームってどんなチームなの?」

 舘川さんが紙袋を取り出して包装をベリベリ剥がした。

「長くなるので、お菓子でもつまんで聞いてください」

 あっしは出されたお菓子に手を伸ばして食べながら話を聞いた。



続く。







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