裏社会で生きる少年
ゆずか
第一章
プロローグ〜ヤクザの家に生まれた少年〜
平日の朝、少年が鏡の前で何やら思考錯誤していた。
「うーん……髪型こんな感じにしたら、カタギっぽく見えるかな。ちょっとオタクっぽい?」
伊達メガネをかけてもう一度鏡を見てみる。
「目が吊り上がっているから、どうしても目つきが悪く見えるんだよな。これでカバーできてるかな」
部屋の外から少年を呼ぶ声が聞こえてきた。
「
「はーい。今行く!!」
鞄を持って一階の玄関へと向かう。そこにはマコトの他に黒スーツを着た男たちとグレーの着物に黒い半纏を纏った男がいた。
「親父!!起きてて大丈夫なのか?」
「おう。今日からお前の新生活が始まるからな。見送りぐれぇはしたいからよ」
「ありがとな」
「しかし何だ。お前のその見た目!!笑えるんだけど」
彼は腹を抱えて笑う。獅恩は頬を膨らませて言った。
「うるせーな。そんなに可笑しいかよ?!」
「アキバにいるようなオタクみたいだなと思ってよ」
舎弟たちも口に手を当てて笑っている。
「カタギっぽく見せたつもりなんだけどなー。もっと研究しておけばよかった……」
「アタシは別に隠さなくてもいいと思うけどな」
「やだよ!!それで今まで嫌な思いしてきたんだけど?!だから中学生になったらバレないように三年間過ごすんだい!!」
「ボロを出さないように頑張れよ」
「獅恩様。本当に遅刻しますよ。入学式初日から違う意味で目立ってしまいます」
腕時計を見ながら彼に告げた。
「ヤバっ!!分かった。じゃあ行ってきます」
獅恩は走って家を出た。
「送迎しなくて大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だろ。アタシが生きている限りは。それに防犯ブザーやスマホにGPSも付いているし。何かあっても大丈夫だ。それに家のせいで肩身の狭い思いをさせているのも事実だ。学校にいる間は家のことを忘れさせてやりたいんだよ」
「……かしこまりました」
※※
家を出ると、近くに交番があって外で見張りをしている姿が見えた。
「おはよう!!高木さん」
「ん?おはよう……」
彼は獅恩をまじまじと見つめた。
「あれ?お前獅恩か?」
「そうだよ」
「いつもと見た目が違うから驚いたよ。一体どうしたんだい?」
「今日から中学生だからさ。カタギっぽく見える?」
「オタクに見えるんだよなー。獅恩の中で一般人ってどういうふうに見えてんだ?」
「ははは、やっぱりかー。親父や舎弟たちにも笑われたんだよな」
「いいんじゃないか?漫画アニメ好きってことにしておけば」
「まあ、実際好きだし。いっそのこと、あっしオタクキャラでいこうかな。地味で目立たなくて済む」
「あっしという一人称はやめた方がいいよ。ヤクザっぽいし。外では俺か僕にしたら?」
「確かにそうだね。じゃあ俺で。言い慣れないなー……」
「言い続けたらそのうち慣れてくるよ」
「うん。頑張る。じゃあそろそろ行かないと。またね!!」
「おう、気をつけてな」
※※
学校は隣の地区にある為、徒歩で四十分くらいかかる。近場の中学校に通えないのには理由がある。それは小学生の頃、家のことがクラスのみんなにバレて通いづらくなったからだ。彼の家は歴史ある
※※
中学校に着くと正門でクラス分け表が掲示されていた。人だかりをぬって見える位置に入れた。クラスは全部で五つ。名前は全員知らない人だ。
「俺はどこだろ……」
三組の欄で名前を見つけて教室へ向かう。中に入ると、既に何組かグループができていた。
「みんな同じ小学校だったんだな」
一人は慣れている為、漫画を読み始めた。内容は最近映画化が決定した鬼丸の刀だ。家が和風な為、和風な漫画が好きなのだ。漫画を読んでいると、「あっ!!」と誰かが声を上げた。
「ねえねえ、それ鬼丸の刀でしょ?」
顔を上げるとオタクっぽい雰囲気を放っている男子生徒がいた。彼は獅恩の前の席らしく、自分の席に座って獅恩の方を向いている。
「うん……」
話しかけられたことに緊張して
「俺、田中
「お、俺は百鬼獅恩。よろしくな」
玲央は笑顔でたくさん話しかけてきた。
「なあなあ、映画始まったら一緒に観に行かないか?」
「うん!!行きたい」
「決まり。漫画全部持ってるから、良かったら貸そうか?」
「いいの?」
「ああ」
「ありがとう」
「何巻から貸してほしい?」
「じゃあこの続きからで」
「分かった。明日持って行くよ」
入学式初日から話せる人ができて獅恩はとても嬉しかった。
※※
放課後になり、帰ろうとしたとき、玲央に呼び止められた。
「待ってよ。百鬼くん、一緒に帰ろうぜ!!」
「うん」
獅恩は笑顔で頷いた。二人で帰路につきながら話をした。
「百鬼くんってどこ小?」
「○✖️小……」
「えっ!?めっちゃ遠くない?何で近くの学校にしなかったの?」
本当のことを話したら彼も離れてしまうのではないかと思い、遠回しに嘘をついた。
「実はさ、前の学校でいろいろあってさ。居づらくなったから、誰も俺のことを知らない学校にしようって親と相談して決めたんだ」
「そうだったのか……まあ、理由は聞かないけどさ」
「でも、そのおかげで田中くんと知り合えたから良かった」
「俺も!!」
他愛ない話で盛り上がり、十字路に差し掛かったところで別れた。
「じゃあまた明日」
「うん」
玲央と別れてしばらく歩いていると、マコトから電話がきた。
「もしもし、どうしたの?」
「獅恩様、今帰りですか?」
「うん」
「仕事で近くにいたので、良かったら一緒に帰りませんか?」
「分かった。ちなみに今、十字路にいる」
「じゃあ……その近くにあるコンビニで待っていてくれませんか?五分ほどで向かいます」
「分かった」
そのまま直進してコンビニの前で待っていると、一台の車にクラクションを鳴らされた。
そばに行くと運転席からマコトが降りてきた。彼の名前は加藤マコト。三十代前半で百鬼家の用心棒を務めている。彼はあらゆる格闘技に精通していて、中でもブラジリアン柔術が得意である。そのため体格も良い。獅恩が生まれたときからずっと一緒にいるので強い絆で結ばれているのだ。
「獅恩様、お帰りなさい。学校はどうでしたか?」
「楽しかった!!話せる人もできたんだよ」
「そうなんですね。良かったです。楽しい学校生活が送れそうですね」
「うん」
会話しながら助手席の扉を開けて彼を中へ誘導する。彼も乗り込んでスマホを渡す。
「獅恩様、シェフの斉田に夕飯いらないことを連絡してもらえますか?」
「外食するの?」
「はい。新生活が始まった記念に。何か食べたいものはありますか?」
「やった!!焼肉行きたい。叙苑」
「いいですねー」
「親父も行けるかな」
「家を出るときは体調良さそうでした。一旦帰るので様子を見に行きましょうか」
※※
「親父ただいま」
「獅恩お帰り」
父親の百鬼
「ねえねえ、マコトがさ入学祝いに焼肉連れて行ってくれるって!!親父も行ける?」
彼は少し考えて返事をする。
「お、いいじゃん。行ってこいよ」
「親父行かないの?」
「アタシは辞めとく。脂っこいのは苦手なんだ」
獅恩は肩を落とした。
「そっかぁ……」
「寿司行くときはまた誘ってくれや」
「寿司ね!!了解」
「獅恩。学校は楽しめそうか?」
「うん。話せる人ができた」
「良かったな。お前ならすぐに友達つくれるさ」
「ありがとな」
「獅斗様。本日行った調査のご報告です」
「マコト、仕事の話は帰ってからでいいぞ。獅恩が腹を空かしてるだろうから」
「かしこまりました。戻り次第、ご報告に上がります」
マコトは一礼して部屋から出た。そして獅恩に言った。
「獅恩様。準備が済んだら玄関にいらしてください。あっしも着替えてまいります」
「分かった」
マコトは上着を脱いでネクタイを緩めながら部屋へ向かった。獅恩も私服に着替えて、メガネを外して髪もワックスで整える。
「やっぱりこっちの方がしっくりくるな」
準備を終えて部屋を出ると、ちょうどマコトと鉢合わせた。
「車とってきますので交番の前にいてください」
「分かった」
※※
交番前に行くと、高木が警棒を持って立っていた。
「高木さん!!」
「獅恩。やっぱりそっちのほうが俺は好きだな」
「オタクっぽい見た目も受け入れてくださいよ」
二人で笑い合っている。
「獅恩様お待たせ致しました。行きましょう」
「どこかお出かけ?」
「これから焼肉叙苑に行くんです♪」
「いいなぁ、俺も高い肉食いてえ。たくさん食ってこいよ」
「はーい」
※※
「ああ、焼肉美味しかった♪ありがとうマコト」
「いえいえ。喜んでいただけて嬉しいです。学校生活頑張ってくださいね」
「うん」
※※
「親父ただいま!!」
「お帰り。たくさん食ってきたか?」
「うん」
「獅斗様ただいま戻りました。それで仕事のご報告ですが……」
「おう。聞かせてくれ」
「○△地区の巡回に行ってきました。そこでは悪質な取り立てをしている様子は見られませんでしたし、ヤクザがうろついているとの目撃情報もありませんでした」
「なるほど了解。家にはまだ行ってないのかもしれないな」
「カタギが狙われているのか?」
獅恩が二人の会話に入ってきた。
「ああ。獅恩と同じくらいの息子がいる家庭がな」
「そうなんだ。助けてやりたいな」
「明日は刑事とターゲットの会社に行ってきます」
「頼んだぞ」
※※
夜遅く、都内のオフィス街を一人のサラリーマンが暗い表情で歩いていた。すると、前から黒服の連中が男の前に現れた。
「田中
〜プロローグ終わり〜
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