人虫

雑多な人混みの中に生気のない一人の男がいた


男は葛藤していた


己が誠実でないこと、誠実になりきれないこと、誠実になろうともしてないこと


あてのない思想の旅を続けているが、終わりはなかった


男は己のみに降ってきた運命だと思い込んでいるが、実際誰しもが考え、結論を出せずにいる事実が冷酷に存在していた


お前ごときに出せるわけがなかった


男の葛藤は止まらなかった


風船のように膨張した思想が頭を締め付けていた


とうとう自分では止められなくなった


痛い


痛い



痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い



そうして男の思想は脳みそもろとも弾け飛んだ


飛び散った血の匂いにつられて一匹の虫が男の頭の中に入り込んだ


頭に残った神経を繋げて体が動き出した


そこに男の思想も、意識もない



雑多な人混みの中に生気のない一人の虫がいた





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