第25話 修羅の再会 2
それにしても麗香は、どうして帰国して来たのだろうか。筋肉質な体つきになっている点は気にしないとして。
好きか嫌いかのどちらでも無いと言い放って部屋から追い出したくせに、こうもあっさり帰って来てよりを戻そうとするなんて、何かあるはず。
「和希、もしかしてだけど勘違いしてない?」
「勘違い? どういう意味の?」
「和希ってあれじゃん。私しか知らないわけじゃん? だから部屋を追い出されたことで、別れたって勝手に思ってるんじゃないの?」
今まで付き合ったことがある女性は佐倉麗香ただ一人。同棲を決めた彼女に追い出された俺は彼女にフラれ、フラれた時点で交際は終了……。
――というのが今までの状態。
「俺を部屋から追い出した時点で関係は消滅してるし、麗香もそう言ってた」
何があって帰国して来たのかはどうでもいいとして、何を今さらなことを言い出しているのか。部屋も唯花の名義に変わってるし、麗香の居場所はすでに無い……。
「そこが和希の早とちりってやつなわけ。部屋を追い出すのは仕方なくない? だって海外に行くわけだしさ。部屋はうちが借りてて和希はお金無いじゃん?」
勝手に遊びに行って追い出して、そのうえ俺の弱いところを突いて来るとか。何で麗香と一緒にいたんだろう。こんな性格だと知っていたら――
「……お金は無い。けど、麗香がそれでいいって言ってただろ」
それにしても隣に座っている唯花の沈黙が不気味過ぎる。麗香がまくし立てているというのもあるけど、全く間に入って来ないのが怖い。
「まぁね。でもさ、私がいないまま和希ひとり住まわせたら問題になるってのは理解してる? してたか知らないけど。だからこれって私なりの愛情だったし親切心だったわけ」
「……つまり俺の為に部屋を追い出して、自分の為に海外へ行った。そういうこと?」
「賢くなったね! 和希の為にしたことであって、私の勝手で追い出したわけじゃないの。好きでも嫌いでも無いのは変わりないけど、別れたつもりは無いよ?」
結局自分勝手でわがままな彼女だったということか。当時はそんな彼女に頼りっぱなしで弱すぎたわけだが。今となってはどうでもいいけど。
「いや、俺は麗香とは別れたと思ってるし、あの時の言葉に納得してる。今さらそんなこと言われても遅いし。今の俺の気持ちはもう麗香には無い」
とはいうものの、特定の彼女がいるわけでも無い。いなくても麗香とまた一緒にいようなんて考えにはならないな。
「へぇー? たった数ヶ月なのに新しく彼女を見つけて、その彼女の部屋にでもお世話になってるってこと? それって相手の同情みたいなものでしょ」
何をどう言っても無駄のようだ。性格がここまで悪いなんて、付き合っていた時は思うことも無かった。立場的にも弱すぎたとはいえ。
「同情でも何でも、とにかく俺は麗香とは付き合えない。だからもういいだろ?」
「……お預けしてた"キス"含めて、全部やり直してあげる! それなら許すでしょ?」
もはや俺だけの言葉じゃ麗香を打ち負かすことが難しい。
どうすれば納得するのか。
強情な麗香に頭を抱えていたその時――
沈黙の"妹"が動き出した。
「お預けのキス……? やり直し?」
「んー? 妹によく似た置物かと思ってたのに、そこにいたんだ? 何か文句でも?」
急に鳥肌が出て来たのは気のせいだろうか。
そもそもここはカフェ店内の一角、それも他のテーブル席とは離れた所にあるのに、スタッフが全く近付きもしない。顔見知りなんだからせめて注文くらい取りに来てくれてもいいのに。
張り詰めた空気が関係しているせいか、他に客がいるようには見えない。
そんな状況の中、
「アハハッ! お預けがキスとか! わたしより無駄に姉なのに、面白すぎ!」
唯花の笑い声から修羅が"開幕"した。
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