第24話 修羅の再会 1

 トントントン……心地よさげな音が空間を和ませている。程よい力加減には定評があるので、早速本領発揮した感じだ。


「……和希君。次は揉んでくれ」

「はい~」


 握りこぶしから形を変え、今度は肩をゆっくりと揉みながら相手を気持ち良くさせる……正直言って終わりが見えない。


 俺と唯花は何故かの彼女たちを引き連れ、バイト先であるカフェにいる。二人はお互いに顔を見合わせながら、所在ない感じだ。


 ――遡ること昼休み。


 ――――――――――――――――――――――――――


「は? 付き添いに来て欲しい? 何でお前に?」

「そんなのウチも聞いて無いけど? 唯花だけなら良かったけど、和希の為にとかあり得ないんだけど」


 昼休み。久しぶりに再会した景都という男子と、唯花好きの佐山とで一緒に学食に来ていた。


 俺は特に何も言うことが無かったが、そんな二人に対し唯花は、真剣に頭を下げて頼みごとを始めた。


 頼みごとの中身は、修羅場になるであろう場にいてもらうこと。何だかんだで俺だけでは頼りにならないという気持ちがあるようで……。


 何より、唯花自身が本来姉である麗香と目も合わせたくないかららしい。無関係な彼女たちがそばにいるだけで心強いのだとか。


 ――で。


「唯花。その子たち、誰? 唯花の友達? 何で同席させてるわけ?」

「友達。麗香が気にする必要無い。カズキの友達でもあるし、同席させるくらいよくない?」

「……生意気。友達って、どう見ても高校生にしか見えないけど。和希と何を企んでるんだか」


 唯花と麗香。正真正銘の姉妹……のはずなのに、こんなにもギスギスした空間はいつ以来なんだろうか。


 そして俺は唯花のパパさんの肩に対し、永遠に奉仕している状態。機嫌を取るつもりなんて無かったのに、どうしてこうなった。


 さらには佐山と景都からの視線と重圧があって、カフェの空気がよろしくない。

 それにしても麗香の姿は驚きだ。


 たった数ヶ月の間。国外に行っただけなのにスラリとした細身では無く、鍛えることに目覚めたらしき全身。


 そもそも一体どんな留学だったのかさえ不明だ。筋トレ目的というのはそれこそ意味不明だろうし、自分磨きにしても気合い入れすぎだろう。


「和希君。麗香の気持ちはすでに聞いている。後は自分たちで話し合うことだ。マンションでの暮らしについてもだ。君の誠心誠意な肩たたきと肩もみで気持ちは受け取った。私はこれで失礼するよ」


 おぉ? パパさんが先に折れた。すでに両手の感覚や握力は失われているが、満足して頂けたようだ。


 ――というより、唯花率いる彼女たちに見られて居づらくなったらしい。唯花はパパは敵側と言っていたが、肩もみで撃退出来たので良かったといえる。


「和希。私の隣に座ってもらえる? 話し合い始めるから」

「え、えーと……」

「カズキはわたしの隣に座るんだよね! だってわたしがいいって言ってたし」

「唯花がいいって何? 数か月しか経ってないのに、どういうこと?」

「あなたに関係無いです。そうだよね、カズキ!」


 くそう、この状況を予想してパパさんはこの場から逃げたんだな。


 麗香の隣には、さっきまでパパさんが座っていた。肩もみをしていた関係で麗香の近くにいたとはいえ――正直言って話すことが何も無い。


 追い出したくせに何を今さらだよって話になる。


「そ、そうですね」


 ちらりと友達二人組を見たものの、いつの間にか彼女たちの姿が消えていた。パパさんに便乗して帰ってしまったようだ。


 つまり、この場には元カノ麗香と半同棲でお世話になっている唯花の三人だけ。どっちつかずの俺なのに、カフェを修羅場にするつもりなのか。


 そんなことになったら、あまりシフトにも入っていないバイトも危うくなる。


「和希のこと追い出したけど、別れたなんて思って無いよね?」

「へ?」

「留学っていうか、遊びに行っただけだし。和希一人のまま部屋に置いても生活出来そうに無いから出してあげたんだけど、勘違いしてない?」


 ――何だそれ。明らかに追い出したくせに、どういう言い訳なんだそれは。

 生活力が無かったのは事実としても。


「カズキ、わたしの隣に座る。座って」

「そ、そうする」


 何となく腹が立ったことで、俺は素直に唯花の隣に座った。

 ここからが始まりだ。

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