第23話 衝撃の廊下
まずは廊下に。なんてことを言われて意味不明に思いながら廊下に出ると、早速洗礼を浴びた。
唯花がいる教室の中で俺は特に注目を浴びることが無かった。それだけに数多の女子からの視線が突き刺さる上、本当は高校生でも無いし罪悪感が半端ない。
「カズキ、ずっと下向いてどうしたの?」
「こんな注目を浴びるなんて聞いて無いぞ……男子がそんな珍しいわけが――」
「あ! 言うの忘れてたんだけどさー」
「……何だ?」
何となく勘づいていたし、薄々分かってはいた。執事を受け入れるなんて言ってはいたものの、圧倒的に女子ばかりで男の姿などほぼ無いに等しいという現実を。
つまり、女子高の中に男子生徒が一人だけ放り込まれたようなものと言っていい。教室ではかろうじて数人の男子の姿を確認出来たとはいえ、肩身が狭いのは明らか。
「ご明察のとおりなんだけどー……この学校って――」
――などと唯花が言いかけたところで、唯花のスマホに着信の振動が響いた。衝撃的な答えを聞かされるとばかり思っていたが、衝撃的なのは電話の向こう側だった。
「【――はい、はい。そうですけど、あぁ……はい。でも鍵は変えてるので、放課後に駅前のカフェで話しますけどいいですよね? それじゃ……】」
何やら他人行儀な話し方をしている。唯花にしては珍しいことだ。鍵とか言ってたということは、マンションの管理的なものだろうか。
しかし――
「唯花? 部屋のことで何か問題でもあった?」
「カズキ。落ち着いて聞いて欲しいんだけど、落ち着ける?」
「何が? 現時点で落ち着いてるけど、慌てふためく話?」
「……カズキの元カノが帰って来てるんだって。それで――」
は? 元カノ……俺の元カノというと、俺を部屋から追い出したあの彼女のことだろうか。確か海外に留学に行ったはずでは。
唯花のからかいかと思われたが、表情がもの凄く暗いし感情を全て無くしたような状態に見える。まさかこんな早くに帰国して来たっていうのか。
「そ、それでなんだって?」
決して聞きたくは無いが、恐らくマンションのことを言われたに違いない。
「部屋に行ったのに鍵が合わなくて入れなかったから、どうにかして欲しい。だって」
「それは……」
「どうする? カズキと半同棲してるってことバレるよ? 部屋に入れるのはわたしが決めることだけど……」
「俺がどうこう言える立場じゃないけど、でも、唯花が嫌なら断るべきだと思う」
そう言いつつも、もし佐倉家の親が出現して来たらどうにもならなくなる。元々あの部屋は彼女に与えられた部屋だったわけで。
もちろん現在は唯花が住んでいるが。
「ふーん……カズキはあの人よりも、わたしなんだ?」
「そりゃあまぁ、世話になってるし行くとこないし、唯花の方がいいに決まってるし……」
「カズキはわたしがいいんだ? 本当に?」
「お、おぅ。唯花だけが頼りだ」
俺の言葉を聞いて、唯花は途端に表情を明るくさせた。そして何度か小刻みに頷いたかと思えば、どこかに電話をかけ始めた。
さすがに彼女にでは無いと思われるが……。
さっきまで女子からの視線を感じていたのに、廊下はすっかり静寂に包まれている。取り乱しこそ無いが、唯花のただならぬ気配を察して引っ込んだらしい。
数分経って、
「オーケー。カズキ、放課後に戦うって決めたから。だから駅前の……バイト先のカフェに一緒に行くからね?」
バイト先に行くのはいいとして、何と戦うつもりがあるのか。
まさか――
「た、戦うって、相手はもしかしなくても?」
「カズキの元カノ。それとパパ」
「パ、パパパパパ……佐倉家の!?」
「ヤー! カズキがいるし大丈夫。ママはもう知ってるんだ。だから敵はあの人とパパだけ。だから頑張ろうね!」
廊下に出ただけなのにあまりに衝撃的過ぎる。そもそも帰国して来るのが早すぎるし、何で今さら……。
あぁ、放課後になって欲しくなさすぎる。
「は、はい」
「放課後までに色々案内するからね! それと昼休みはケイトたちと一緒だから期待してていいよ!」
「……ははは」
もはや放課後のことしか頭に入って来ない。いきなり戦いが始まるなんて、本当に勘弁してくれ。
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