第7話 ちほさんのライバル認定

 と呼ばれている二人の間に立っている唯花を見ると、自信に満ちた顔で力強く頷いてみせている。そんな顔をされたら何も文句が言えない。


 それにしたって、何で"佐倉和希"呼ばわりされているのか。

 それを聞く余裕を与えないくらいの笑顔を見せていて、かなりあざとい。


「……和希です。よろしく」

「うちは佐山さやま知歩ちほです! 唯花の友達なんですよ! 負けるつもり無いので、よろしくー!」

「ああ、どうも」


 感じのいい女子かと思ったら、勝手にライバル認定された。

 しかも何かを強調されたわけだが。 


 何の勝負をしているのかまでは今のところ分からないが、この女子の視線は俺では無く、唯花にばかり集中している。


「カズキ、カズキ! 聞いてる?」

「聞いてる。……何を?」

「このはオススメ! 優しいよー! ほらほら、積極的に話しかける!」


 紹介している男子の肩を抱きながら、ズイッと俺の正面に立たせようとしている唯花は、かなり楽しそうだ。


 そう言われても、ずっと睨んで来ている奴にどう話しかければいいのか。そもそも相手は高校生で年下だ。友達になるのはあまりにもハードルが高い。

 

「俺は和希だ。まぁ、よろしく」

「……福野ふくの景都けいと福野ふくのって呼べ。そうじゃないと困る……」


 何が困るのか不明だ。初対面で人見知りかもしれないとはいえ、全然友好的じゃない。本当に唯花の友達で合っているのか。


 人のことは言えないけど福野という男子はあまりに華奢だ。服を脱げばマッチョという可能性も捨てきれないので、体格のことは気にしないことにする。


 佐山は唯花よりも小柄で、ふわっとした茶髪がすごく目立つ。おまけに目力が強くて、声も甲高い。可愛いというよりは佳麗な女子といったところ。


「唯花、この後何するの?」

「んんーー? 案内的な何か」

「えーつまんないよ、そんなの」


 何故かは分からないが唯花にずっとくっついているし、密着度がとてつもなく高い気がする。もっとも、当の唯花は気にしてもいないようだ。


 俺のことを睨み続けている福野は男にしては色白で、ひょろっと男子といった感じ。背が高くて若干見下ろされてはいるものの、威圧的なものは感じられない。


 声変わりはまだなのか、福野の声は野太くなくて高めのハスキーボイスといった感じだ。私服の高校のようなので何とも言えないものの、自由な校風がうかがえそうな金髪をしている。


「何だよ? 何が気に入らないんだ? さっきから人のことじろじろと見て!」

「そんなつもりはなくて。悪いな、福野」

「佐倉と一緒で面倒くせー男だな、全く」

「そう怒らなくても……」


 ついつい観察のように眺めてしまった。そもそも唯花に出会わなければ、高校生と向き合って話をすることも無かったはず。


 しかし気を付けないと通報案件すぎる。ただでさえ高校二年生は思春期真っただ中にあるし、気を付けなければいけない。


「唯花。俺はどうすればいい?」

「うん、それじゃあ……ここから見えると思うけど、あそこの建物に一緒に行こー!」

「さっきも言ってたけど、何がある建物?」

「今教えたら面白くないよ。カズキは今からわたしと一緒に行く! 行くから安心していいよ」


 唯花たちが通っている虎山高校は目の前に見えている。それはいいとして、隣接している建物があって、その存在感が半端なく大きい気がしてならない。


 理事長クラスがそこにいるとしたら、それこそ俺が行くのはまずいのでは。


「ケイトとチホ、またね! チュースバイバイ!」


 ――嫌な予感がしたので帰りたかったが、唯花の行動は素早い。俺よりも先に、親しそうな友達二人を帰らせてしまった。


 福野は俺に気にすることなく校舎に戻り、佐山は最後まで唯花に手を振っていた。


 二人を帰すということは、高校生の二人は一緒に連れて行けないという意味のような気もするが、果たしてどうなのだろうか。


「むむむ……」

「それじゃ、行こ」


 隣接しているとはいえ、通路で繋がっているでも無い建物の中に進んだ。

 そこから予感が的中して、理事長室と書かれた部屋に入ることになってしまった。


「えぇ、理事長室って……!?」

「大丈夫。カズキは、同い年の弟ってことで話を通してるから!」


 ――なるほど。だから佐倉和希ってことで伝わっているのか。しかしいくら何でも弟ってのは無理がありすぎる。


 しかし理事長という人はあっさりと返事をして、見事に唯花付きの人間として認められてしまった。そんなに自覚は無かったが、顔に年上感が無かったようだ。


 話していた内容が全然頭に入って来ないまま、俺と唯花は外に出た。


「……要するに、俺って唯花の執事になるの? しかも見習いで」

「ヤー。これでカズキは高校に堂々と入れるよ! バトラー執事の見習いってことにしておけば入れるわけ。実際になろうと思ったら、カズキが社会人にならないと無理だし。だから実はあの子たちは、バトラーのことは何も知らないんだよ」

「あれ? さっきの福野って男子は執事じゃないの?」

「んん、違うよ。きっとカズキの友達になると思うコ。うん、きっとそう」


 理事長室の部屋に、【虎山プロフェッショナルバトラー養成スクール】と書かれていたプレートが存在感を示していた。素直に驚いてしまったが実は存在しないうえ、実体のないものに近かった。


「理事長って、もしかして唯花の?」

「ヤー! 叔父さん! 協力的で良かったね!」

「……佐倉家ってすごいな」

「じゃ、お家に帰ろ? あ、その途中でアルバイト先も見ておかないと!」

「あれ? 学校は?」


 友達として紹介された二人が、校舎に帰って行ったのを見ている。そうなると、今の時間は何だったのかって話になりそう。


「休み! 夏休み! あの子たちは部活だから。だからまだ大丈夫」

「はは……そうだったのか」

「カズキが通う時には、バトラーの動きに無駄が無いようにしないとね。厳しくするから頑張ってね!」

「え、うん(何が?)」

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