第4話 強引で強気だけど安心な妹さん

 詳しい内容は分からないものの、親への伝達は無事に終えてくれた。

 親への連絡が一番不安で問題だっただけに、唯花の助っ人ぶりには感謝しかない。


 夕方に出会い、部屋に上がって落ち着くまで数時間しか経っていないのにだ。


 窓の外を見ると、すっかりと暗くなっている。実家に帰らずに済んだのはいいとして、このまま妹JKと一緒に暮らしていいものだろうか。


 俺と唯花は、二つくらいしか年が離れていない。

 だからといって全く意識しないわけでも無く、理性を保てるかが問題になる。


 ――とはいえ、どう見ても彼女の方が頼りがいがあって強そうなのは間違いない。

 そうなると今は、なるようになるしかなさそう。


「カズキー! ねえ、カズキってばー!! 聞こえてたらこっちに来る! 来てーー!」


 あれこれ悩んでいたらいつの間にか唯花の姿が無く、彼女の声がキッチンから聞こえて来た。手料理を作ってくれると言っていたから、多分そのことだろう。


 急いで向かってみると、さっきと違って唯花は不機嫌そうにしゃがんでいる。

 露わになった太ももが気になるのは別にして、何か問題があったのだろうか。


「どうかしたの? 唯花」

「――どうもこうもなーーい!! なんにもなーい! カズキ、本当にここに麗香と暮らしていたの?」


 少なくとも昼前までは一緒にいたし、数か月だけとはいえ生活はしていた。

 部屋に放置されている物の数々は、明らかにあいつの趣味ばかり。


 疑問に思われるはずはないのだが――


「もちろんそうに決まってるけど、何で?」

「じゃあ、冷蔵庫! これを見る!! そこからでも見えるから見て!」


 唯花の手が勢いよく、黒く光る冷蔵庫の扉に叩きつけられた。

 二人暮らし用としてはやや大きめの冷蔵庫ではあるが、俺が使えたスペースはドリンクのみだった。


「……うーん? 空っぽ……見事に何も入ってないね。それがどうかした?」

「一応聞くけど、麗香って料理は出来た? カズキは出来なくてもいいんだ。でも、問題は麗香! どうなの?」

「そういや、いつも外食ばっかりだった気が……。コンビニも近いし食べるのに苦労はしてないかな」

ヴァァァァァス何それーーー!? え、じゃあ……カズキって、麗香の料理を知らないの?」


 何やら相当驚いているらしいが、言われてみればあいつから何か作ってもらった覚えが無い。そういう意味でも、冷蔵庫の無駄遣いをしていたというのは事実である。


「全然知らないかな。さっきも言ったけど、下の階にコンビニがあるし繁華街も近――」

「ムカつく!! そんなのってヒドイよ! ヒドいって思わなかったの?」

「長い付き合いだったからね。細かいことは気にしてなかったっていうか……」


 ある意味、ドライな生活をして慣れていた。

 そういうものだと思っていたし、不思議でも無いだけに唯花のような感情になったことは無い。


 それなのにこの子は立ち上がったと思ったら、その場で悔しそうに地団駄を踏んでいる。


「決めた!! 決めたよ?」

「何を?」

「カズキ、わたしに手を出す。出して!」


 よく分からないまま、唯花に右手を差し出した。

 すると俺の手を握って、そのまま唯花の部屋まで引っ張られてしまった。


 唯花の荷物はまだそんなに多くないようで、麗香の本棚やら何やらが残されたままだ。もっとも今見ている光景も、すぐに様変わりしそうな気配ではある。


「え、えーと、唯花? ここで何かするの?」

「カズキ、お腹空いてるよね? わたし、我慢の限界だから行くことにしたよ!」

「どこに?」

「寿司! お寿司屋さんに行くよ!! カズキはその格好でいいよね。でもわたし、着替える。着替えるから待ってて」


 色々動いている分、唯花の方がかなりお腹を空かせているようだ。

 

 コンビニ飯でも十分な気もするが、海外帰りの彼女からしたら、やはり寿司を食べに行きたいらしい。 


 待っててと言われたので、とりあえずその場で立っていた。

 それなのに――


「――って、わーわーわー!? ちょっ! 唯花、待った!! その手を止めて!」

「んんー? どうかしたの? 着替えるのに何か問題があるの?」

「問題あり過ぎるって! 俺がここにいるんだよ? 何で目の前で着替えようとしてんの!? 俺、男! まずいって!!」


 着替えると言っていた唯花だったのに、何の迷いも無くミニスカートを脱ごうとしていたのには驚いた。


 もしかしなくても、彼女から見て俺は男として認められていないのでは。

 それとも身内扱いとして、カウントされているだけなのだろうか。


 普通は親にも着替えを見せたくないのに、いくら海外帰りでも大胆過ぎる。


「カズキが男の子なのは、知ってる! この部屋は今日からわたしのお部屋。だから、わたしがここで着替えるのに問題なんて無いよ。カズキがいても気にしてない」

「いや、俺が気にするから! だって高校生だし、麗香の妹だし……あり得ないって」

「麗香なんてもうどうでもいいよ! 麗香の名前出すの禁止。別に裸になるわけじゃないのに、恥ずかしがる意味なんて無いと思うんだ! それに、カズキって安心だから。安心してるから問題無し!」


 一体どういう理屈なのだろうか。しかし俺の心配をよそに、唯花の着替えが気付かぬうちに終わっていた。


 まじまじと眺めたわけでも無かったとはいえ、早すぎてちょっとだけ後悔する。

 

 唯花の言うとおり、着替えといっても黒のミニスカートからうって変わって、フリルやリボンのついたアイテムになっている。さすがに大きいバッグでは無く、ミニリュックといったものに変わった。


 大人っぽさを感じていた派手めな色ではなく、子供っぽさを残す白とかピンクが多い印象だ。 

 

「安心な色合い……な、なるほど」

「そうそう、安心安心! カズキの支払いも安心! だから、行こ?」


 何とも情けない話だが、残高も少ないのでチャージしないとほぼ無一文。

 留学帰りの妹さんにおごってもらうとか、本当に駄目な感じになりそうだ。


「よ、よろしくお願いします……」

「ヤー! お任せあれ!」

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