大人の甘え

二十組あった養親希望者だったが、その素行故に次々と申請を却下される様子に、千堂京香せんどうきょうかは何とも言えない表情をしていた。『いくら厳しくしても厳しすぎることはない』と言われても、


『これじゃ養親なんて見付けられないんじゃないの…?』


などと考えてしまっていた。


そんなことを考えながら自分を見る彼女に、宿角蓮華すくすみれんげは「ふふん」と鼻を鳴らす。


「少しくらい見逃してくれてもいいんじゃないの?って表情かおね」


図星を突かれて京香がギョッとした顔になると、蓮華は改めて説明を始めた。


「大人って奴はどうしてこう自分には甘く子供には厳しいのかしらね。


自分がルールを無視したり道理に外れたことをしていても『些細なことだから大目に見てほしい』とか言いながら、子供がやらかす些細な失敗や悪ふざけは許さない。


たまにさ、『スーパーとかで子供が騒いでるのが許せない』とか言っちゃう奴いるでしょ? そういう奴って自分はどれほど完璧にマナーを守ってるっていうのかしらね。そういうことを言っててネットで他人を口汚く罵ったり歩きスマホしたりエスカレーターを駆け上がっちゃったりしてたら、それこそ『お前が言うな』って思わない?


あ、ちなみにエスカレーターは、メーカーが正式に『あれは立ち止まって乗ることを前提に設計していますので、歩いたり走ったりしないでください』と言ってるのよ? メーカーが『こういう使い方はしないでください』と言ってるのに、『急いでる人間を優先するのが心遣い』とか平気で言っちゃうような奴は論外よ。そんなの、『メーカーが危険な使い方として禁止してる使い方をする奴こそ優遇しろ』って言ってるのと同じ。


恥ずかしいわよねえ? 自分にこそ甘い大人って。『急いでる』とか、そんなに急がなきゃいけない程の窮屈なスケジュールしか組めない人間の戯言よ。十分早く家を出たらいいだけなのにね。


でもね京香。あんたの養親もこうやって選ばれたのよ? 今はそれこそパソコンで簡単に動画見られるけど、昔はいちいちビデオでチェックしてたから大変だったみたいだけどね。それでも、歴代の園長はそうやってきたの。


つまるところ、<試し行動とかを取らずにいられない訳ありの子供>を受け止められる程、自分自身にこそ厳しい養親を選ぶためにね」


蓮華の言ってることは分かる。確かに自分の養親は素晴らしい人達だった。自分が両親の実の子ではないと知ったことで精神的に不安定になった頃にも、そんな自分を辛抱強く待って信じてくれた。


それでもやはり、厳し過ぎではないのかと心のどこかでは思ってしまうのだった。


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