養親審査
「まあとにかく、この子は私達のところに来たんだ。この子が『生まれてきて良かった』と思えるようにしてあげるのが私達の役目だよ」
「はい! 養親希望者についてはまとめてあります」
そう応えながら京香はノートPCを広げ、蓮華の前に提示した。
「取り敢えず一通り見せてもらうわ」
と、石田葵(仮)にミルクを与えつつ器用にマウスを操作し、書類に目を通していった。
それぞれの書類には、本人が記入した申請内容だけでなく、動画や音声データを添付されていて、蓮華は、書類の内容にはほどほどしか目を通さず、動画の方を注視した。
最初の養親希望者は、動画を見始めて数秒で、
「却下」
と吐き棄てて<却下>のスタンプを押す。
「信号無視してるじゃない。論外」
などと忌々しげに口にした。
確かに動画には、小さな交差点で赤信号を無視して自転車で突っ切る女性の姿が映っていた。とは言え、本当に小さな交差点で自動車もまったく通っていないようなところである。だからか、
「え? いくらなんでも厳しすぎませんか?」
と京香が問うた。
そんな彼女に蓮華は言う。
「あのね。子供は親の振る舞いから人間としての振る舞いを学ぶの。親が信号すら守らないで子供が信号を守ってくれるとか思ってんの? 京香、あんたの養親はどうだったの? 信号も守らないような人間だった?」
「い、いえ、そんなことは……」
「でしょ? そんな奴は審査の段階で撥ねるの。
自分の子供を育ててるんなら私達は口出しできないけど、これは他人の子供を育てる人間を<選ぶ>作業なのよ。他人の子供の為に自分の人生さえ投げ出す覚悟がある人間を選ばなきゃいけないの。この子達が『生まれてきて良かった』って思える為にね。
いくら厳しくても厳しくし過ぎなんてないのよ。適任者が現れないのなら現れるまで審査を繰り返す。それだけよ」
と言いつつ次の書類に添付された動画を開いた瞬間、
「歩き煙草、はい、却下」
と吐き棄てる。
それから後も、「歩きスマホ、却下」「ゴミのポイ捨て、却下」「無灯火、却下」「店員への不遜な態度、却下」と次々と却下していく。
これらの動画は、申請書類だけでは分からない養親希望者達の普段の素行を監視したものであった。そこに映し出される人間性そのものを、蓮華は審査しているのである。
人間は嘘を吐く生き物だ。外面を取り繕い、綺麗事で身を固める者もいる。そういう人間の裏の姿こそが、審査対象なのだった。
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