第五章 作戦決行
作戦決行の日になった.ミトの家に三国達は集まる.
「みんな行くぞ」
蓮華さんが言って,みんなが黒いワゴン車に乗り込む.
「役割分担を改めて伝える.三国君は火災報知機を鳴らす係.サイ君とミト君は我々と一緒に来てもらう」
役割分担は二日ほど前に聞かされていたが,蓮華が改めて言った形になる.三国はベニバナビルにある火災報知機の場所はすべて覚えていた.蓮華が火災報知機の場所を記した資料を三国に配っていたのだ.
社内の空気には緊張していて誰もそれ以降はしゃべらなかった.
車はやがてベニバナビルの中に入っていく.ベニバナビルの駐車場に止まっている車は高級車ばかりだった.
車が止まった.
「最後の連絡になる.三国君は火災報知機を作動させたあと,ミト君の家に一足早く帰っていてくれ」
「わかりました.蓮華さんたちの作戦がうまくいくことを祈ります」
「それでは作戦開始」
蓮華がそういうと,三国は駐車場を抜け出してベニバナビルに侵入した.
宙に浮いている三国はほかの人間には見えない.蓮華から指紋を残さないようにと用意されていたゴム手袋をはめると三国は一回の火災報知器のボタンを押した.
火事です.火事です.一階で火災が発生しました.
火災報知器が鳴り出した.三国の周りにいたベニバナの職員はパニックになっていた.三国はパニックになった社員を放っておいて次のスイッチを押した.2階,3階,4階......順番に一階づつのスイッチを押していく.最上階までのスイッチを三国は押し終えた.これで僕の仕事は終わりだ.三国はそう思い,近くにあった窓から外に出た.下を見るとベニバナの社員たちがビルの外に出ていてあたりは騒然となっている.消防車のサイレンも聞こえてきた.三国の作戦は成功したと考えていいだろう.あとは,ミトの家に戻り蓮華さんたちを待つだけだ.三国はほっとして息をついた.
「火災も起こっていないのに火災報知器を鳴らしちゃいけないんだって,小学校で習わなかったのかな? 君は?」
三国が振り返るとそこには三国と同じように空を飛んでいる人間がいた.季節外れの茶色いロングコートを羽織っている.片手には杖を持っている.その男は杖で横から三国の頭を叩こうとした.三国は即座に下に避ける.自分,サイ,ミト,そしてアキラさん以外に空を飛べる人間はいないはず.こいつは誰だ? 三国はそう思ったが,男は三国に息をつかせぬように杖で三国の頭を執拗に狙ってくる.
このままじゃミトの家に帰ることができない.状況から見て男はベニバナの一員だ.どうすれば良い? 三国は必死に考えた.
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