第四章 動き出す歯車⑥

「三日後にアキラを救出するのか」

「アキラさん無事だといいね」

 三国が答えた.結局三国は自分の父親が鋼であることを言いそびれてしまった.言わなくてはいけないわけではないのだが,自分の意志で言っていないという事実は罪悪感を三国に抱かせていた.

「鋼が生き返らせたい人間って誰なんだろう.人間を生贄にしてまで生き返らせる必要のある人物なんだろうか」

「わからない.でも,他人の命なんてそんなもんなんじゃないの? 僕らだってマンションの隣人が死んでも葬式にはいかないことだってあるじゃん.近所に誰が住んでるのかも把握してない.そんな中で生きてたら自分の身の回りの人間だけ大事にすればいいっていう考え方になるのはごく普通のことなんじゃない? 半径5メートル以内にいない人間は僕らにとってどうでもいい人なんだから」

 三国は自分で言っておいてなんだが,少しひどいことを言っているような気がした.しかし,そんな三国の意見をサイは笑って受け止めた.

「君はずいぶんドライというか,リアリスティックなことを言うんだね.確かに僕らは周りの人間たちについて考える機会は少なくなってきているのかもしれないね」

 ひどい奴だと非難されずに済んで三国は内心ほっとしていた.

「三国君,話は変わるけど蓮華さんたちのことどう思う?」

 サイが話したかったことの本題はこれか,と三国は思った.サイはミトの家に浪人のような形になっているので,本来三国と帰り道は同じにならないのだが,サイが三国を見送るよと言ってついてきたのだ.

「どう思うって,アキラさんを助けようとしてくれている,良い人たちだと思うけど」

「その割に能力とかは教えてくれないよね」

「それは,簡単に教えることができないって言ってたじゃないか」

「ローリエさんの能力はあんな簡単に見せたのに?」

「それは作戦に必要だからで.....」

「本当に必要かな? 僕らがローリエさんが空気銃を打てると知っている必要はあったのかな.能力の詳細はぼかしてもいい.例えば遠近戦に強い能力を持ってるとか言えばよかったんじゃないのかな.それにアキラが空を飛べたら,僕らはおそらくローリエさんの能力を見てないしね.わざわざ開示する必要がないと思うんだよ」

「それは......」

 三国は言葉に詰まった.

「なんかそういう小さなところが腑に落ちないんだよ」

「気にし過ぎじゃないか」

「確かにね」

 そう言ってサイは笑った.三国の家の前まで来ると三国とサイは別れた.サイに言われたこと,確かに引っかかるな.と三国は思った.

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