第四章 動き出す歯車②

「サイ,あなた私の家に住みなさい.寝るとこはないからどこか宙に浮かんで寝てもらうことになるけど,廃棄食材を食べるような生活は体に毒だわ.今日から私の家に来なさい」

「そんなことしてもらっていいのかい?」

「大丈夫.母さんに父さん救出のための仲間だっていえば何とかなると思うわ.それに父さんがいなくなって一人分ちょうど余裕ができてるのよ.それに連絡する手間も省けるしね」

「ありがとう」

 こうしてサイはミトの家に居候することになった.

 そのとき,ピロロロという電子音が屋上に響いた.ミトのスマホの着信音だ.ミトが電話に出た.話し方の様子から蓮華さんたちから電話が来ているらしい.ミトが電話を切ると言った.

「今日の放課後に私の家に二人とも来てほしいって.ベニバナに潜入してた仲間が帰ってきたらしくて,私たちに最新の状況を教えてくれるらしいわ」

 放課後,三国達三人はミトの家のテーブルに座っていた.テーブルには三国達中学生三人と蓮華とローリエ,そして黒い背広を着たスーツ姿の男が座っている.

 テーブルの上にはミトのお母さんが注いでくれた麦茶が並んでいた.

「全く,参りましたよ.ベニバナは警備が厳重すぎて,潜入した時は生きた心地がしませんでしたからね.蓮華さんも一回やってみるといいですよ.九死に一生を得るようなことが何回もありますからね.本当に大変なんですからね」

 男は元気よくしゃべっている.男の言う通り,九死に一生を得るような体験を何度もしているようには三国には見えなかった.

「紹介しよう.我々と同じ異世界から来た,五右衛門君だ」

 蓮華が言った.

「五右衛門って,石川五右衛門の五右衛門?」

 三国が訊く.

「その通り.みんな僕の名前は知ってるんだよね.まあ,親が元ヤンってやつでね.息子に何かインパクトのある名前を付けたいと思って,盗賊の主張だった五右衛門って名前が俺につけられたのよ.俺自身もこの名前を気に入ってるから,親には感謝してるよ.ただ,古臭いってよく言われるけどね」

 訊いてもいないことをペラペラしゃべってやっぱりこれまでにいくつもの死線を超えてきたような人には見えないなと三国は思った.

「まあ,話がそれてしまったが,この五右衛門君がベニバナに潜入してアキラさんの居場所を突き止めてきてくれたわけだ.今からそれを話してもらう」

 三国はミトの気が引き締まっているのを感じた.

 急に五右衛門がまじめになって言った.さっきとは全然雰囲気が違うなと三国は思った.

「とりあえず,結論からいうとアキラさんは生きています.ただ,今すぐに救出しないとまずい状態であることは確かだね」

「まずいってどういうこと?」

 ミトが口を挟んだ.

「ミト君心配になるのは分かるが最後まで五右衛門君の話を聞いてくれ」

 ミトはしゅんとなった.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る