第三章 三国と父④
三国と華はかつて鋼と玲とで住んでいた家で話し合いをすることになった.テーブルを挟んで,三国と華そして鋼が座る.家の中は空きが多かった.離婚するということで玲がいろいろなものを持って言ったからだ.三国と華は玲と住むようになったのでその家になかったものは三国たちのものになった.テレビや本棚がなくなった家を見ると三国は本当にこの家にお別れをしなければならないときが来たんだなと感じて目頭が少し熱くなった.
「今日は来てくれてありがとうな.剣,華.お父さんとお母さんがいろいろ話し合って疲れただろう」
三国と華は無言でうなずいた.鋼がうつむきながら言う.
「父さんと母さんはな.お前たちも知っている通り離婚することになった.一時は悲しくなるかもしれないが,時期に悲しみは収まる.それに父さんと剣と華とが会えなくなるわけじゃない.剣や華が会いたいといえば父さんはいつでも会うつもりだ.これから一緒にいる時間は少なくなるが,一生の別れというわけじゃないんだ」
三国は鋼の言っていることは理解できた.しかし,三国をたまらなく不安にさせたのは鋼の態度である.鋼はこの話をするときに一度も三国や華の目を見なかった.父さん,本当は何を考えているの? 三国はそう思った.
それから中学生になるまでの間,三国は鋼と数回会った.会って話すことは他愛のないことだった.しかし,玲に恋人ができて,その男と玲は再婚した.それは三国が中学生になった時だった.それから三国は鋼と合わなくなった.玲は別に会うことに関しては口を出さなかった.また,新しい父親の和夫も鋼と会うことには理解を示した.しかし,三国自身が遠慮をして,鋼と連絡を取らなくなったのだ.実は三国が遠慮をしていたというよりも三国自身が鋼という存在を忘れたかったから鋼と会わなくなったというのが事の真相であるのだが,三国は玲と和夫の二人に遠慮をするという大儀名分を自分の感情だと思い込むことによって,鋼と会わなくなることが仕方のないこと,時間の流れと共に起こる自然なことだと三国は自分自身に言い聞かせていた.鋼のことは忘れて和夫との関係を大事にしてもう過程が壊れるような悲劇のない生活をしたい.それが三国の本音だった.自分自身の中にある実の父親を切り捨てるという感情を三国自身が持っているということを三国は自覚したくなかった.これは三国が意図的に行ったことではない.三国の無意識がこのような思考に三国を誘導したのだ.
しかし,ミトの父親をさらった犯人の首謀者は鋼である.三国は鋼と向き合わなければならない.三国は自分の机の引き出しにある鋼が写っている最後に取った家族写真を見ながらそう思うのだった.
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