第三章 三国と父③

三国は父と母の仲が良いところを見たことがあまりなかった.山登りをした日からなのかは良くわからないが,父と母はよくケンカをしていた.それは年月を経るごとに激しさを増していった.父と母,両方から出てくる暴言は本人たち以上に三国と華を傷つけていた.

 ある日,三国が家に帰ると玲が荷造りをしていた.

「何してるの?」

 三国が玲に尋ねた.玲は少々のいら立ちを見せながら答える.

「荷造り.この家からお母さんちょっと出てくことにしたの」

 突然のことに三国は困惑した.明日から突然母親のいない生活になってしまうのは三国にとって,いや,小学生の子供にとって考えられないことだったからだ.

「置いてかないで」

 三国は目から涙がこぼれそうになったが,必死に我慢して言った.玲が我に返ったような顔をして三国を見つめた.

「置いてかないよ.剣も準備して,これからおじいちゃんとおばあちゃん家にいくから」

 三国は荷造りをした.荷造りをする三国と玲を華は口に指をくわえて見ていた.

 玲が実家に帰ってから,一か月ほどで玲と鋼の離婚が正式に決まった.玲が実家に帰るとき,鋼あてにテーブルの上に置手紙をしているのを三国は見た.見てはいけないと分かっていたが,おそらく母親と父親は別れる,少なくとも会う機会はほとんどなくなるだろうと三国は分かっていたので,最後に母親が父親にどんな言葉をかけるのかがどうしても気になった.見てはいけないのは分かるが,見ないと一生後悔するとも思った.だから,三国は置手紙を見た.


今までありがとう.お父さん.


 置手紙にはきれいにそう書かれていた.その手紙を見た三国は涙が止まらなくなり嗚咽を上げて泣いた.頭の中でもやもやしていたものが言葉によって現実に起きてしまっていることを三国は改めて悟ってしまったのである.置手紙を見た三国に気づいた玲は慌てて駆け寄って,三国を慰めた.

 それからだった.三国は何事も平穏が一番だと思い始めたのは.三国には家族の楽しい思い出がなかったわけではない.それがより一層三国を苦しめた.楽しく家族で旅行したり,外食に行ったりしたのだが,結果離婚することになってしまうことに三国は失望せざるを得なかった.同じ時を過ごしていても,心はすれ違ってしまうという悲劇を身をもって体感してしまったのである.自分はこうならないようにしよう.何があっても,こういう悲劇は起こさないようにしようと三国は心に決めた.

 また,鋼との連絡手段も途絶えたわけではなかった.離婚が正式に決まったあと,三国と華は鋼に会った.

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