第二章 僕らの知らない世界⑧

「結論から言ってしまえば,アキラさんはベニバナの社内に囚われていると考えられます」

「ベニバナっていうと,あの株式会社の?」

 三国が言った.

「そうです.日本発の巨大IT企業ですね.いろいろな事業に手を出していてもうIT企業といえるかはわかりませんが」

 ベニバナは十年ほど前にできたIT企業である.近年ではメガベンチャーと呼ばれ,約十年で時価総額が世界で一位の企業になった.

「なんでアキラさんがベニバナに捉えられているんですか? ベニバナのサービスはみんな使ってるし,第一ただの企業が個人をとらえる理由が分からない」

 三国が言った.

「三国君は,なんでベニバナが十年で時価総額一位の企業になったと思う?」

 ローリエが三国に訊いた.

「検索エンジンとか,SNSのサービスが流行ったからでしょう.ベニバナがやる前にもそういう事業をやっている会社はあったけど,利用人数が増えるにつれてサービスが安定しなくなって,利用者が減って潰れた.でも,ベニバナのサービスは元のサービスより使いやすかったし,どんなに利用人数が増えても安定してサービスをし続けられたからみんなに受け容れられた.だから,みんなベニバナのサービスを使うようになったからじゃないですか?」

「ご名答.でも,ベニバナが出てくる前にあった会社はどの会社も優れた技術力を持っていた.その技術力を持ってすれば,安定したサービスを利用者に届けることも十分に可能だったんだよ.現在ベニバナがサービスを提供している人数さえも余裕で処理できただろう.でも,サービスが安定しなかった.なんでだと思う?」

「それは......」

 三国が答えに詰まった.

「ベニバナが何らかの妨害工作をしたということですか?」

 サイが言った.

「正解.ではどのように妨害工作をしたと思う?」

「ローリエ,問題を出すのはもういい.答えを早くいってくれ」

 蓮華が言った.ローリエが少しつまらなそうな顔をした.

「はいはい.わかりましたよ.蓮華さんは生真面目なんだから.正解はベニバナが超能力者を使って,ライバル企業のサーバーをダウンさせたから.それにベニバナは妨害工作だけしてたんじゃない.ライバル企業のアイデアも盗んで自社で開発したことにしたのさ.やられた企業は産業スパイがいるんじゃないかって,大混乱して結局,経営も行き詰ったのさ.最後にはベニバナの一人勝ち.そうやってベニバナは世界一の企業になったのさ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る