第二章 僕らの知らない世界①

「ただいま」

 三国は自分の家に帰ってきた.

「おかえりー!」

 先に帰っていた妹の三国華の元気の良い返事が返ってきた.時計を見てみると,時刻は十四時.小学六年生の華は午前授業だったようだ.

「お兄ちゃん.また,学校さぼったんでしょ.こんなに早く帰ってきて.学校をさぼったらいけないんだよ」

 華が三国に向かって言った.

「いいんだよ,ある程度,学校は休んでも卒業できるんだから,休まなきゃ損でしょ.今日は自主休校の日だったんだよ」

「そんなこといって,お父さんとお母さんに言いつけちゃうからね.お父さんもお母さんもいってるもん,学校にまじめにいかない人は将来ろくでもない人になるって」

「はいはい」

 三国は妹の正論をいなしながら階段を上がって,二階の自分の部屋に入った.

 三国は自分のベッドに腰かけた.少し気分が高揚していた.サイに会って,空を飛べたことが素直にうれしかった.誰にもはできないことが自分にはできる.それが人には見えなくても,自慢できなくとも三国には満足できることだった.空を飛べるようになった三国にはありとあらゆることができるような気がした.全能感.万能感.空を飛べるようになれば世界が変わる.世界のいろいろなことが三国にとって意味を変えるのだ.

 高揚感と同時に三国はサイのことが気になった.自分と同い年くらいの少年だが,実際はもう四十年以上生きている.暗い道を歩き続けたらこの世界に来たという.もしあればだが,元のサイの世界に戻れるのなら,サイは戻りたいと思っているのだろうか.それとも,もう四十年もこの世界にいると,そんなことはあきらめてしまっているのだろうかと三国は思った.いろいろなことを三国は考えたが,とにかく,サイが何かに困っていることがあれば,何かしら協力したいと三国は思った.

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