第一章 日常の中の非日常⑤

 女子生徒は,黄色のてさげを持っていた.入り口から出てくると,屋上の柵の方へ歩いて行って,柵を背にして,てさげからお弁当を取り出してひとりで食べ始めた.  

 女子生徒が三国とサイに気づいている様子は一切なかった.

「あれはいわゆるぼっちめし,というやつかい?」

 サイが言った.

「そうだね,普通は教室以外食べる場所はない.だから,しかたなく教室で一人で食べることが多いんだけど,彼女は屋上に来て食べてるみたいだね」

「屋上には鍵がかかってるんじゃなかったっけ?」

「そのはずなんだけどね,彼女はどういうわけか鍵を持ってるみたいだね.彼女みたいな不良だと,鍵は職員室からくすねたのかもしれないな」

「あの子のことを知ってるのかい?」

「知ってるよ.彼女は有名人だからね.成績が優秀でほぼすべての科目でトップの成績をとってるのに,学校にほとんど顔を出さない,浅貝ミト.僕と同じクラスだよ.」

「浅貝ミトね・・・・・・」

 サイは何か遠くにあるものを見つめながら言うみたいに,ぼんやりとした返事をした.

「何か気になるのかい?」

「いや,なんでもないよ.僕が中学に通っていたときも,ああいう不良みたいな連中はいたんだけど,もっと荒々しい格好をしてたよ.髪は金髪で,制服を改造してね.見ただけで不良だと分かる格好をしてたんだ.でも,あのミトって子はそう言うのとは違う種類の人間に見えるね.髪を染めてるわけでもないし,何か社会からあぶれてるが故に反抗しようっていう感じがない.どっちかっていうと善良な普通の生徒って感じがする」

「僕もそう思うんだけどね.噂によると,彼女は何かの軍団のリーダーらしいんだ.何人もの人間を従えて,深夜に歩いている姿を見たやつがいるらしい.あくまで噂だけどね」

「面白い噂だね」

 僕とサイが話している間にミトは弁当を食い終わり,屋上から校舎へ帰っていってしまった.しかし,ミトがいた当たりに何か緑色に光るものを三国は見つけた.三国はミトがいたあたりに歩いていき,緑色のものを拾いあげた.それは生徒手帳だった.三国が言った.

「ミトさん.生徒手帳忘れていっちゃったみたいだ」

「早く返してあげたら.身分証になるものだから.とりあえず,先生にでも届けたらどう?」

「いや,今日は僕は学校をさぼってるから先生に届けることはできないな.とりあえず,僕が持って,次に教室にくるか,ほかで会った時にすぐ返すことにするよ.なるべく早く返す」

「なら,そうするといい,僕はそろそろ公園にもどるよ.僕に会いたくなったら僕と会った公園に来てくれ.いつでも会えるから」

 サイはそう言うと,空を飛んで屋上から離れた.屋上にはただ一人,三国だけがぽつんと立っていた.三国は屋上でしばらく校庭にいる生徒たちを見たあとに,自分の家へ空を飛んで帰った.


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る