3.
所変わって、ここ、からくり城――。
無事に罪人達を奉行所へと送り届けたリツキはその足で、城内にある天守閣の上層に位置している大広間へと通されていた。
リツキと対面している三右衛門は、ぱたぱたと扇子で顔を扇ぎながら、
「そこの者、良き計らいをした。褒美に菓子をやろう。いただき物だが京都の菓子だそうだ。めずらしいだろう。どうした? 嬉しくはないのか」
にこやかに告げる三右衛門とは反対に、リツキは、ぶすっと頬をこれほどかと言うほど膨れさせる。
「で。褒美なんて体の良いことを言って、本当の要件はなんだよ。偶然通りかかったーなんて、どうせ犬丸の発信機を頼りに来ただけだろう。――父さん」
特に語尾を強調させ、リツキはつんと口先をとがらせる。
そんなリツキの態度に、しかし一方の三右衛門は、別段変わった様子はない。ぱたぱたと変わらずに扇子を扇いでいる。
「なんだ、その物言いは。父が子を家に呼ぶことの、どこがおかしいんだ?」
「ただ呼ぶだけなら、な。世間話をする為だけに呼んだんじゃないんだろう」
さっさと本題を話せと促すリツキに、三右衛門は、そう急かさんでも良いであろうにと愚痴を溢す。
「全く忙しない子だ。仕方がない。リツキよ、そろそろ家に戻っては来ないか?」
「い・や・だ! こんな堅苦しい所。俺は今の生活が気に入ってるんだ」
「そうは言っても。あのような手狭な家屋では、何かと不便であろう」
「ほっといてくれ。住めば都、あそこが俺にとっての城なんだ。
それに約束通り
「とはいえ、お前はまだ十四歳。それに、お前のその破天荒な性分。お前の話は、度々小耳に挟むのだ。やれ罪人を追跡中に盛大に屋根から落ちただとか、やれ燃えている家屋に無謀にも突っ込んで火中に残されていた猫を助けただとか。心配が尽きないに決まっておろう」
見事痛い所を突かれたリツキ。反論する術を知らず、代わりにぐにゃりと口をへの字に大きく曲げた。
暫くの間、それでも一矢報いようと思考を巡らしたが、結局は時間を無駄にしただけで。
「とにかく、もう帰るから」
リツキはどうにかその一言を紡ぐと、その場に立ち上がる。
が。
ちらりと三右衛門の前に並んでいる菓子の山々を目にして、
「せっかくだから、これはもらっていくよ」
リツキはがしりとそれらを胸に抱え、そのまま部屋を後にした。
そんな背中に向け、三右衛門は、
「全く。食い意地も相変わらず人一倍だ」
はあと乾いた息を漏らすと茶碗に手を伸ばし、ずずうと残りのお茶を一気に飲み干した。
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