第157話 カミヤのお願いごと

「えっ、ええ……!?」


 俺が中学生の頃に届いた、俺の正体を知っているという謎のメール……まさかあの送信主が、真紀ちゃんだったなんて……!? ……まぁ正直アレの存在自体を忘れていたから、そこまで驚きはしなかったけどさ。こんなところで伏線回収するなんてワンピかよと、流石に突っ込まざるを得ないよ。


「ま、正確に言えばワタシが部下に命令しただけなんだけどな。あのKamiyaをウチの学校に連れて来る方法を考えろってね。そしたらなんか記事を書いてくれて、これ送ればイケるだろって感じになったんだ」


「そうだったんだ……でもあれ、有料記事だったんだけど。確か続き読むのに五千円くらいしてなかった?」


「だって、隠してた方が読みたくなるだろ?」


「それはそうかもしれないけど、君と違って俺はお金持ちじゃないんだよ……だから俺、その有料部分の記事は見てないよ?」


 それを聞いた真紀ちゃんは、ひどく驚いた声を上げて。


「えっ、そうなのか!? あの先にこの学園について色々書いてたのに!! 合格証明書まで付けてやってたのに!!」


「まだ受験すらしてないのに……? そもそもあの文章の流れで、どうやって学園の話に繋げたんだろう……? しかも何で俺の年齢知ってたんだ……?」


 ツッコミどころは尽きないが、ひとまず話を整理すると……真紀ちゃんは俺をこの学園に呼ぶために、俺の興味を引きそうな記事を送ったと。そしてその記事には学園案内や合格証まで付いてたけれど、俺はその先まで見なかったと……じゃあ。


「……それじゃあ。俺がこの学園に来たのは、本当にたまたまってこと?」


「そういうことだな! まっ……結局来てくれたんだから、結果オーライか!」


 言って真紀ちゃんはケラケラと笑った……なんかコロコロ感情が変わる様、透子ちゃんみたいだな。きっと二人は仲良くなれそうだ。


「えっと、それじゃあ……合格証明書送ってるはずなのに、ちゃんと受験している俺を見ててどう思ってたのさ?」


「ああ、それはカミヤって真面目なヤツなんだなーって思ってたぞ」


「あ、そう……」


 その時教えてくれても良かったじゃん……って思ったけど、俺が受験していなかったら、藤野ちゃんにも会えてなかったんだよな。そうなってたら、この先大きく人生変わっていただろうから……これも結果オーライってことなのか?


 そして真紀ちゃんはこのタイミングで思い出したかのように、大きな声を上げて。


「ああ、そうだ、忘れてた! ワタシはただカミヤとお喋りするために呼んだんじゃないんだ!」


「呼んだのには理由があったの?」


「もちろんだ! カミヤ……まずはレジェンド大会優勝おめでとう!!」


 そう言って真紀ちゃんはポケットからクラッカーを取り出し、それを俺に向かって鳴らしたんだ。


「うん、ありがとう! ……それで?」


「反応が薄いなー。まぁいいけどさ……ワタシはな、レジェンド大会を優勝した人には毎年プレゼントをあげていたんだ!」


「へぇー。そうなんだ……」


 そういや前に朱里ちゃんも何か言ってた気がするよ。確か『一位になったクランは、何でも願いを叶えてもらえる』とかなんとか……って、まさか。


 ここで俺が真紀ちゃんを見ると、彼女はニヤニヤ顔を浮かべていて。


「ふふ、内容、思い出したか?」


「うん……まさかとは思うけど。何でもお願い事叶えてくれるの?」


「ああ、その通りだ! プレゼントの内容は『一個だけ何でも願いを叶えられる』権利だ! もちろんワタシに出来ること、という条件は付いているが……まぁ基本出来そうなことは出来るから安心していいぞ!」


 真紀ちゃんは胸を張ってそう言ったんだ。まぁこんな学校を作れるぐらいだから、お金に関するお願いにはNGは無いんだろうな……でもお願い事かぁ。正直、今の俺は怖いくらいに恵まれているんだよな。


 俺のことを愛してくれる恋人がいて。信頼出来る友達やライバルもいて。蓮も徐々に回復していってるし。ポイントも決して多い訳じゃないけれど、暮らしに困るようなことは今のところはないし……特に叶えて欲しいお願いってのは、思いつかないんだよなぁ。


「それでカミヤ、お願いはどうするんだ?」


「ああ、じゃあ……歴代のチャンピオンは、どんな願いをしたのか聞いてもいい?」


 そうやって聞くと、真紀ちゃんはちょっと不満そうな顔を見せて。


「まぁー有名大学の推薦が欲しいだとか、ポイントを貰えるだけ貰うとかだな……何でも叶えてやるって言ってるのに、奴らの夢ってホーント小っちゃいよな?」


「あはは、そうだね……」


 まぁ、普通の人のお願いってそんなものだろうけどさ。そもそも歴代チャンピオンは、真紀ちゃんが学園長って本当に信じたんだろうか? もし信じていなかったら、結構適当にお願い事を言ってしまったって可能性も考えられるよなぁ。


「それでカミヤはどうするんだ? ワタシ待つのは嫌いだから、あと数分で決めてもらうぞ?」


「えっ、そんな……じゃあ電話で仲間に案を聞くってのは……?」


「それはダメだ。なんか面白くないからな」


「えー……」


 面白くないって……まぁ真紀ちゃんは、俺が心から願っている物を知りたいんだろうな。俺も逆の立場だったら、多分そうするもん。


 それで……俺の願いか。確かに今の俺は満たされているけれど…………って、あっ、そうだ!!


 まだ、俺らがやっていないことがあったじゃないか! とっても大切で、とっても幸せで、とっても必要なあの『儀式』を行っていないじゃないか!! あれをやらずに俺は学園生活を終える訳にはいかないよ!!


「お、その目。何か決まったみたいだな?」


「うん、真紀ちゃん。決まったよ。俺の願いは…………!!」














「この学園に結婚式場を造って欲しいんだっ!」


 ────


 次回最終回です

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