第154話 「チャレンジだ」

 何とも綺麗なフラグ回収……まぁ、何かしてくるのは分かってたけどさ。初っ端から飛ばしてくるのは、流石に俺も予想してなかったよ。


「両者とも的中です。しかし倍率は久之池様が高いため、神谷様が先行となります」


 そしてラウンド2が開始された。このラウンドでは、ロシアンルーレットが行われる……つまりここから、命を懸ける時間が始まるということを意味するんだ。


「すまねぇなぁ神谷。もう少し楽しみたかったんだが、オレの運が強すぎたみたいだ……でも、こればっかりは仕方ねえだろ?」


 久之池は勝ちを確信しているのか、ヘラヘラしながら俺に話しかけてくる……久之池は確実にイカサマしているが、その証明は出来ない。外界との通信も出来ず、時間制限もある今、イカサマを暴いて勝利するということが厳しいからだ。


「それじゃあ引き金を引いてもらうが……これにも制限時間はあるんだ。このままビビッてお前が何もせずにいると、反則負けになる。まぁ、お前はそんなダセェ負け方しねぇって信じてるけどなぁ?」


「……」


 確かにそんな負け方はダサい。だが、ここで判断を誤って自分を打ち抜いてしまうのは、もうダサいとかそういうレベルじゃない。死だ。


 だから。俺は残された勝ち筋『チャレンジ』を成功させる必要があるんだ。その確率は三十分の一。普通に考えれば、圧倒的に俺が不利な状況だが……俺は奴の込めた弾の場所を把握している。だから判断さえ間違えなければ、必ず勝てるんだ。


「……久之池。俺はお前の込めた弾の位置が分かっている」


「は? 今度はハッタリか? 天才ゲーマーって言われてる神谷が、最後にこんな悪足搔きするなんて……ファンは興醒めしてるぜ?」


「そんなに言うなら見せてやるよ」


 言いながら俺は、一番左の銃を手に取って。それをこめかみに突き刺して「いち、にー、さん、しー、ごー、ろく」とテンポよく、六回トリガーを引いたんだ。


 それを見た久之池は、瞳だけ大きくさせて。


「……へー。ま、それくらいの強がりは出来るのは褒めてやるよ」


「……」


 本心を隠しながらそう言ったんだ。だが俺はそれを無視し、続けて隣の銃を取って……またさっきと同じ要領で六回、高速でトリガーを引いていったんだ。


 この行動には、流石の久之池も驚きの表情を見せたんだ。


「ははっ……おいおい。恐怖で頭がおかしくなったのか?」


「だから言ってるじゃん。俺には弾の場所が分かってるって」


「いい加減、冗談は止めろって……」


 久之池はここでようやく焦ったような声を出した。ああ、良かった。この反応、銃には細工はされていないみたいだ。まぁルーレットに勝てるなら、そんな細工は必要ないもんな。それじゃあ……久之池が選んだ銃も、これで間違いないみたいだ。


「久之池。お前、一番右の銃に弾を込めただろ」


「……ハッタリもここまでくると笑えてくるな」


「意地でも認めないんだね。ここに証拠が残ってるのに」


 ここで俺はその銃を手に取って、奴に見せつけたんだ。


「証拠だと?」


「ああ、そっからじゃ見えないか。白い粉の跡」


「粉……?」


「俺はチョークの粉を右手にまぶしていたのさ」


「……!!」


 そう。あの時……カジノに足を踏み入れる時、俺は用意していたチョークを握りしめていたんだ。どんなゲームが行われるか分からなかったから、とにかく目印になるような物を持ち込みたかったんだよ。もちろんチョーク自体は持ち込めそうになかったから、粉だけね。


 それで手に付いていた粉は、流石に身体チェックでも見つけられなかったようだった。ま、わざわざ手の平をじっくり検査することなんてないだろうしね。


「だから握手を拒んでも、お前が一瞬でも手に触れてくれれば良かった。そしてその粉が付着したままの手で、お前は弾を込めた。更にお前は準備が終わって、他の銃に触りすらしなかったんだ……それはお前が油断していたからだ。久之池」


「クッ……! だが場所が分かったところで、順番が分からないだろ!?」


「ああ。でも、予想は出来る」


 言いながら俺は、その銃を自分のこめかみに押し付けた。


「まずこのゲームは前提として、弾が早めに出る方が良い。決着を早めにつけたいもんね。それに外の人が、この銃にいつ気付くか分からないし。でも、俺が降参のチャレンジをする可能性だってあるから、一発目に弾を入れるのはかなりリスクがある……」


 ここで俺は覚悟を決め、カチャっと引き金を引いた。弾は……発射されなかった。


「……だから。ビビりなお前は一発目に弾を込められなかった。そして……ゲームを楽しもうとせず効率だけを考え、試合を早く終わらせたがっているお前は、二発目に弾を入れてる筈なんだよ」


 そして俺は銃口を奴に向けた。


「チャレンジだ」


「……ッ!!!!」


「チャレンジ、承認いたしました。それでは相手に向かって発砲をどうぞ」


 男性は特に止めるようなことはせず、俺に発砲の合図を出した。どうやら久之池の味方って訳でもないらしい……それで。久之池は焦ったように口を開いて。


「お、おいおい、本当にいいのかよ? オレは二発目になんか入れてねぇっつーの」


「……」


 俺は震える手を押さえつけ、更に狙いを定めた。


「おい何とか言えよ、神谷。このままだとお前負けるぞ? いいのか? 仲間に顔向け出来ねぇぞ?」


「俺は本気だ。久之池」


「おい、冗談だろ? なぁ、おい、おい!!」


「何を焦ってる。弾は入ってないんだろ?」


「入ってねぇよ!! でも、でもそんなことしたらお前!!!!」


「何だ」


「だからっ!! お前ッ!!!!!!!!」


「……」


 俺は敗者を弄ぶ趣味も無い。これ以上無様な久之池の姿は見たくないから……とっととこの茶番を終わらせてしまおう。







「────俺の勝ちだ、久之池」


 言って俺はトリガーを引き、爆音とともに弾丸を発射させたんだ。

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