第153話 命を懸けてやるよ
「へぇ……まさかお前からそんな提案をしてくるとはな」
久之池は感心したように言う。そして奴も手を伸ばして、いざ握手をするというタイミングで……勢いよく音を立て、俺の手を振り払ったんだ。
「……」
裏切られた俺は呆然としたフリをして、奴を顔面を見つめる。ま、どうせそんな態度を取るとは予想してたけどさ……にしても俺のこと嫌い過ぎだろ。手、ヒリヒリするし。
それで、久之池は乾いた笑いを見せながら。
「ははっ……怖気づいたか神谷? お前の考えはバレバレだ。オレはお前の提案にも取引にも応じねぇ……ちゃーんとお前まで殺してやるよ」
後半の言葉は俺にだけ聞こえる声量で、そうやって言ったんだ……ははは。どうやら奴は、本当に俺を殺す気らしいな。オマケにそれに対して全く躊躇いも、罪悪感も持ち合わせていないようだ。ほんっと……根っからのクズだな。
……まぁ。そんなクズだからこそ。
「ありがとな」
「あ?」
「お前のお蔭で覚悟が決まった。望み通り俺の命を懸けてやるよ」
本気で挑める訳で。俺は奴にそう吐き捨て、席に戻ったんだ。そして俺が着席するのと同時に、男性が口を開いて。
「それではゲームを開始してもよろしいでしょうか」
「はい」「ああ」
「ありがとうございます。では、準備フェーズに移らせていただきます」
そう言って、部屋の隅にあったボタンを押したんだ。そしたらガーっと音を立てて、天井に吊るされていた赤いカーテンが降ろされて、俺と久之池の間に挟まったんだ。丁度テーブルを挟んで、半分になる形だ。当然、これで向こうの様子は全く見えなくなったんだ。
ふぅ……さて、どうするか。俺の前にはリボルバー五つと弾丸が一つ。リボルバーには六発込められる。単純に考えれば、弾は早めに出た方がいいから一発目に込めるべきなんだろうけど。いきなりチャレンジされる可能性だって無い訳じゃないし。
そもそもこのゲームは久之池が考案した説が有力だし、イカサマは行われることはまぁ確定だと言っていいだろう。じゃなきゃこんな命を懸けたゲームに、余裕で挑める筈がないからな。だったら俺の込めた弾の位置も丸わかりなんだろう……ならあえて弾は、最後の六発目にでも込めておくか。
そう決めた俺は一番右の銃に弾を込め、最後に発射されるようにシリンダーを動かした。念のため他の銃も全て触って、シリンダーを動かしておいたんだ。
「おい、まだ終わらないのか?」
カーテンの向こうで久之池は言う。まるで『どこに装填しても意味が無いんだから、早くしろカス』とでも言いたげに。
「もうすぐ終わる。というかそっちも、ちゃんと考えた方がいいんじゃないの?」
「こういうのはフィーリングが大事だ。下手に考えても読まれるからな」
「お前の言葉じゃなきゃ、少しは同意したかもしれないけどね……終わったよ」
「ならとっとと始めようぜ」
「では、開始させていただきます」
合図でカーテンが開かれ、お互いに銃が交換されたんだ。そして俺の目の前に置かれるは久之池の銃……下手したらこれ、全部に弾が入ってたりする可能性だってあるけど『チャレンジ』というルールもある以上、そんなリスキーなことは出来ない筈だ。
まぁだからと言って、俺と全く同じルールで挑んでる保証なんて無いんだけどね。
「それではファーストラウンドを開始いたします」
そう言って男性はベルを鳴らした。そして液晶テーブルは更に光り出して、ゲームが始まったことを分かりやすく伝えてくるのだった。
「制限時間内にベットしてください。もう一度ベルを鳴らした時が終了の合図です」
そして男性は回転盤を回し、逆向きにボールを投げ入れた。高速でぐるんぐるんと外側を回る玉……当然だが、この時点で落ちる場所の予測なんか出来る訳がない。
それで……久之池はまだベットしないのか? 俺の様子を見ているのか?
同じ倍率なら先に賭けた方が相手に引かせられるんだから、先に置いた方が有利なのは明白だ……そう考えた俺はチップを手に取り、ひとまずそれを『黒』のゾーンに置いたんだ。
……それを見るなり、久之池はニヤリと笑って。
「へぇ。じゃあオレは……ここだ」
そう言って『4』と書かれたゾーンの真ん中にチップを置いたんだ。
「一点賭けだと……?」
「ああ。当たったら36倍だ。狙う価値は十分にあるだろ?」
そりゃあ、三十回以上引き金を引かせられるんだから、ほぼ勝ちみたいなものだが……それは当たればの話だ。そんなことはそうそう起こり得ないだろう。
「時間です。これ以降チップの移動は禁止となります」
そして男性はベルを鳴らして。次第に玉は勢いを失っていき、回転盤の中心を跳ねて跳ねて、一つのポケットに入ったんだ。その場所は……。
「結果は……黒の4です」
「ははっ、ツイてるな。当たりだ」
「……」
久之池の賭けた数字だったんだ…………はぁ。じゃ、皆さんご一緒に。せーの。
ですよねー。
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