第152話 ルール説明

「今回あなた方に行ってもらうゲームは『ルーレット×ルーレット』です。これは学園が考案した、オリジナルゲームとなっております」


 ルーレット×ルーレット……当然だが聞いたことのないゲームだ。ルーレットの一つは、この机に埋め込まれている回転盤だろうが、もう一つは……ああ、嫌でも銃が目に入る。そんな俺の顔を見てか知らないが、男性は続けて。


「このゲームはルーレット、そしてこちらの銃と弾丸を使って行われます。もちろん、銃や弾丸は本物ではありませんのでご安心を」


 そう言ったんだ。ご安心を……つってもこれ、どう見ても偽物には見えないんだけど。いや、本物なんて見たことないんだけどさ。この弾を込める部分が出てる銃って、確かリボルバーって言うよな。偽物なら……こんな精巧に作る意味ないよな?


「それでは詳しいルールの解説をしていきます。まず、あなた方は最初にこちらの銃に弾を込めていただきます。お互いの姿を隠してですね……もちろん弾丸は一つしかございませんので、この五つの銃のどれかに込めていただきます。弾を装填した後、シリンダーを自由に動かしてもらっても構いません」


 聞きながら俺は弾丸を手に取ってみるが、それは不気味なほどに冷たく、命を刈り取る形をしていて……何だか嫌な汗が出てきたんだ。


「そして装填した銃を含めた五つの銃をお互いに交換し、テーブルの前に置いてもらいます。これで下準備は完了です」


 そして説明者は、久之池側の男性へと変わって。


「次にゲームについてですが、これは二つのラウンドを繰り返して進行していく形になります。最初のラウンドではルーレットのゲームが行われます」


 ここで男性はカジノで使われているチップを二枚取り出しながら。


「まず、お互いにこのチップをこちらにベットしてもらいます」


 言い終わり二人にチップを配ると、テーブルにルーレットの賭けるマスがブワンと浮かび上がってきたんだ。うわこれ、液晶テーブルだったのか。


「ベットが終わったらルーレットが開始されます。配当は通常のルーレットと同じで、一点賭けなら三十六倍。二点賭けなら十八倍……赤黒、前半後半、奇数偶数は二倍といった感じです……そして。そのルーレットで当たった場合、その当たった倍率分、相手に引き金を引かせることが出来ます」


「えっ、相手に……?」


 ここで思わず俺は声を発してしまった。それを聞いた男性は頷いて。


「はい。このゲームは基本的に銃口を自分に向けて、引き金を引いていきます。所謂『ロシアンルーレット』のようなものです」


「ロシアンルーレット……」


「ははっ『ルーレット』と『ロシアンルーレット』を混ぜたゲームで『ルーレット×ルーレット』ってか。随分いい趣味してるじゃねぇか」


 こんなイかれたゲーム思いつく奴なんて、お前くらいしかいねぇよ……久之池。


「お互いがルーレットを当てた場合、当てた倍率の低い方から引き金を引いてもらいます。倍率も同じだった場合、その時は後から賭けた方から引き金を引いてもらいます。そしてこのラウンドを繰り返して行って、どちらか一方の弾が発射された時、その時点でゲームは終了となります」


「じゃあ弾が自分に発射されたら、そいつの負けってことで良いんだよな?」


「左様です……しかし一度だけ相手に向けて引き金を引ける『チャレンジ』というものが行えます。これは自分が引き金を引いてるフェーズで行え、宣言すれば使えます。弾丸が発射されればそのプレイヤーの勝ちとなりますが、発射されなかった場合失敗となり、その時点でチャレンジをしたプレイヤーの敗北となります」


 なるほど、一発逆転のチャンスも残しているって訳か。でもチャレンジが成功する確率なんて相当低い筈だ。このリボルバーに装填できる弾は六発までだから、三十分の一……引き金を引くほどそれより確率は上がるが、それでも現実的な数値には近づけないだろう。


 だから。このゲームに勝つには、ルーレットを当てて相手に引き金を引かせまくるのがベターなんだろうけど……久之池がそれを許してくれるとは思えないんだよな。


「これで説明は以上になりますが、何かご質問はございますか?」


「はい、えっと……これって本当に偽物の銃と弾丸なんですか?」


 ここで俺は一番気になっていたことを問い掛けたんだ。そしたらその男性は表情一つ変えず、ただ冷徹に。


「はい、偽物であると伺っております」


「……」


 そう言ったんだ。伺ってる……ね。ハッキリと明言しないってことは、本物である確率だってある訳だ。『間違えて実物を渡してしまいました。知らなかったんです』って展開になる可能性だって…………いや。もうハッキリ言おう。現に今、そのような状態になっているんだ。


 故意に持ち込まれた実弾で、ゲームが行われようとしている……そして見ている人はどうか知らないが、少なくともこの場にいる人物はこれらが実物であることに気付いている。そしてそれを知った上で、この馬鹿げたゲームをやろうとしているんだ。


 このままだと確実に死人が出る……いや、確実ではないか。死人を出さない方法……それは俺がチャレンジを失敗し、自ら負けを認めるということだ。


 ……敗北。勝ちに必要な負けはするが、それ以外の敗北は許さないのが自分ルールだ。これは絶対に曲げられない……ゲームをやる以上、俺は絶対に奴に勝たなくちゃいけないんだ。


 ……やれるのか? 俺に。久之池の命を奪うという行為が。


「こっちは質問無い。やるなら早く始めないか?」


 アイツはやる気満々だ。言い換えるなら、俺を殺す気満々だってことだ……あんなクズ、生きてちゃいけないとは思うが……当然自分の手で下すとなると、話は大きく変わってくる……蓮。俺がお前の仇を取るしかないのか。


「……」


 ……覚悟を決めろ。神谷修一。ここには逃げ場も無い。少しでも迷いを見せたら一瞬で殺されてしまう。俺がやるしか……勝つしかないんだよっ……!!!!


「神谷様はよろしいでしょうか?」


「はい……大丈夫です。その前に……」


 そこまで言って俺は立ち上がり、久之池に近づいたんだ。そして。


「……久之池。おそらくこれが最後の戦いになるから……記念に握手でもしないか?」


 そう言って奴に手を差し出したんだ。

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