第151話 渡されたモノ

 カジノに入り、俺は『従業員以外立ち入り禁止』の場所へと案内された。そして怪しげな扉を何個か進んで行くと、地下へと続く階段が現れたんだ。その階段は螺旋状になっており、先は暗くてよく見えなかったんだ。


「うわっ、こんな場所あったんですね」


「そう、あったんだよー。じゃあ踏み外さないようについて来てね」


「はーい」


 地水さんに言われて気を付けて階段を下っていく。そしたら案外すぐに一番下までこれて、赤いカーペットの敷かれた廊下が現れたんだ。そして端には警備の人が数名おり、廊下の一番奥には重厚な扉があったんだ。


 どうやらこの先が対戦場所で間違いなさそうだが……本当にここは何なんだろうか? この大会の為だけに作られたような場所とは思えないんだけど。まさか裏カジノとかそういうことなんだろうか? うーん、分からない。


「……よし、それじゃあ僕とはここでお別れだね」


「あ、もうですか?」


「そうだよ。もうここが決戦の舞台だからね」


 そして地水さんは続けて「あっちの警備の人に荷物を預けて、指示に従ってね」と言って、俺を送り出してくれたんだ。俺は彼に頭を下げて、お礼を言ったんだ。


「地水さん、ありがとうございました」


「いいよいいよ。お礼を言うのはこっちの方だよ。楽しかったし」


 そう言って地水さんはウインクをし、小さくお金のジェスチャーを見せてきた……ああ、ポイントはちゃんと貰うつもりなのね。まぁこっちから提案したし、情報もくれたから全然いいんだけど。


 思いながら俺は歩いて行き、扉付近までやって来た。そしたら警備の一人が、俺の行く手を止めてきて。


「神谷さんですね。これから会場に向かってもらいますが……ここで荷物の回収と身体検査を行わせていただきます」


「ええっ、そんなことするの?」


 地水さんから聞いていた通りだが、念のため嫌な顔をしておく……俺は演技派なのだよ。


「はい、ルール上そうなっておりますので」


「へぇー。まぁいいんですけど……というか俺じゃなくて、朱里ちゃんとか来てたらどうしてたんすか。ここの警備、男の人しかいないじゃないっすか」


 ここで俺は何となく気になったことを聞いてみたんだ。それで、どんな反応が返って来るか待っていたんだけど……。


「……」


 警備の人は何も答えなかったんだ。まさか想定していなかったって言うのか? じゃあ久之池は、俺が来ることを確信していたってことか……まぁ久之池じゃなくても、そう考えるのがベターであるかもしれないけど……。


「……まぁいいっすよ。早く済ませてください」


 だいぶ腑に落ちない点は残っているが、時間は無いし。俺は納得した体を見せて、検査を行ったんだ。それで身体検査は思っていたよりも念入りに行われ、ポケットはもちろん服の中までバッチリ調べられたんだ……本当に俺が来てて良かったぜ。


 そして荷物の回収も無慈悲に行われ、俺がせっせと詰めたカジノグッズはどこかへ持っていかれてしまったんだ。まぁ……最低限の準備は出来たし、重い荷物を代わりに運んでくれたって思っておこう。


「……大丈夫です。それでは会場までお進みください」


「はーい」


 オッケーのサインが出た俺は更に進んで、左手でその重厚な扉を開けたんだ。


 そこは。閉鎖的な空間になっていて、部屋の中央には長方形に伸びた大きなテーブル。その中にはルーレットが埋め込まれていた。周りには三脚で立てられたカメラが、テーブルを囲むように何台も設置されていたんだ。


 そして。


「……よお。しばらくぶりだな、神谷」


 久之池が右側の席に座っていたんだ。奴は行儀悪いのか、膝を立てて座っている……誰かこいつに椅子の座り方を教えてやってくれ。


「……」


 俺は黙ったまま歩き、久之池の正面の席に座った。まぁ残りの席が左のここしかなかったから、選ぶ権利すらなかったんだけど……そして俺が座るなり、久之池は更に話しかけてきて。


「いやぁ……やっとお前と戦えると思って、オレは楽しみにしてたんだぜ?」


「あれだけ俺を潰そうとして、失敗した癖によく言うよ。そろそろ強がるの止めたらどう?」


「ははっ……生意気なのは健在ってか。神谷の仲間が怪我したって聞いてたから、そんな反応見れて安心したぜ?」


 久之池わざとらしく笑ってそう言ってみせた……大丈夫、落ち着け。そんな安い挑発に乗るんじゃない。


「……それで何のゲームが行われるんだ? まさかこのルーレットで勝負なんて言うんじゃないだろうな」


「慌てんなって。オレだって知らねぇんだから、運営の合図を待てよ」


 久之池はそう言ったが……どうせ演技だろうな。この落ち着き様は明らかに異常だ。


 ……それからお互い無言で、試合開始を待っていた。それで、数分経ってから扉の開く音がして……黒のベストを着た男性が二人入ってきたんだ。二人は大きく豪華な金のトレイを持っており、その上には赤い布が被せられていたんだ。


「お、来たな」


「……」


 入って来た男性らはテーブルを境に左右に分かれ、俺と久之池の隣に立った。続けてそのトレイを正面にあるテーブルに置いたんだ。


 何を持ってきたんだと俺が予想する前に、男性らは視線を合わせて……一斉にその掛かっていた布を勢いよく取ったんだ。


 ……そこには。






「────ッ!?」


「……へぇ」


 小型の拳銃が五つ、そして弾丸が一つ置かれていたんだ。予想外のモノに俺は度肝を抜かれ、何も言葉が出ずにいると……俺の隣に立っていた男性が口を開いて。機械のような声色で、話を始めるのだった。



「……それでは。只今からルール説明を行わせていただきます」

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