第85話 ピンチヒッター透子ちゃん?
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そして病院へと辿り着いた俺達は、医師から衝撃の事実を聞かされるのだった。
「えー葉山さん。あなた足首骨折してます」
「ええっ!? 」「……」
「症状は比較的軽いですが……それでも骨折は骨折です。すぐに入院してください」
「……」
それで朱里ちゃんは現実を受け止められなかったのか、先生に噛みつくように。
「でも先生。来週には大会があるから、私は休んでいる暇なんかないんです……練習しなきゃ、大会に出なきゃいけないんですよ!」
「何を言ってるんですか。そんなの駄目に決まっているでしょう……激しい運動なんてもってのほかです」
「でっ、でも……!」
ここで俺は朱里ちゃんを落ち着かせるよう、優しく言った。
「そうだよ朱里ちゃん、無茶はしないで。まずは身体を直すことを優先してよ。大会のことは俺が何とかするからさ」
その俺の言葉を聞いた朱里ちゃんは、少しだけ冷静さを取り戻したのか「……ごめん」と一言だけ呟いた。
「謝らなくていいよ、朱里ちゃんは頑張ってくれたんだから。朱里ちゃんの行動は間違ってなんかなかったからさ」
「うん……ありがとね修一」
「大丈夫。みんなでお見舞いにも行くから……朱里ちゃんが元気でいてくれたら、それだけ俺はいいからさ」
そしたら朱里ちゃんはホッとした顔から、いつもの微笑みを見せてくれて。
「あはは、来てくれなかったら私泣いちゃうよー?」
「それは大変だ」
うん、冗談を言えるくらいに元気になってくれて良かった。
それからは朱里ちゃんも先生の言うことにも納得したようで、入院する流れで話は進んでいき……俺は朱里ちゃんを病室まで見届けてから、病院を後にするのだった。
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そして次の日。俺はクランメンバーを招集し、昨日の出来事を全て話した。当然、面白い話なんかじゃなかったために、誰も最後まで口を挟むことはなく、重たい空気だけがそこには残ったんだ。
「……それで今、朱里ちゃんは入院してる。多分今日の午後には公表されると思う」
「そ、そんなことが……」
「これは俺の責任だよ……本当にごめん」
そう言って俺は頭を下げた。ここでみんなは慰めの言葉をかけてくれたのだが……
「……何だよ。どうしてアカリがケガしなきゃいけなかったんだよ! どうしてオマエは犯人を逃がしたんだよっ!!」
透子ちゃんだけは違った。感情をあらわにし、全力で俺に怒りを向けて来たんだ。
「……」
その言葉には俺は何も言い返せず、俯いたままでいると。
「止めろ明智。僕らは神谷の行動に何も口を出せない筈だ」
珍しく俺の味方になってくれたのか、蓮は透子ちゃんの肩を引っ張ったんだ。
「そっ、そうだよ透子ちゃん。神谷君は朱里ちゃんを守ろうとしただけだよ!」
「……」
反対の肩も藤野ちゃんが掴み、透子ちゃんをなだめる。そしたらまだ透子ちゃんは俺を睨み付けたままでいたものの、それ以上は何も言わなかったんだ。
「……まぁ僕もそいつの正体に興味がないと言えば噓になるが。それよりも僕らが考えなければならないのは、大会のことだな」
「王子様、どうなさるのですか? 朱里さんが大会までに完治するとは思えませんが……」
確かに真白ちゃんの言う通り、朱里ちゃんが大会までに怪我が治るとは思えない……それでも俺は。
「……まだ俺は諦めないよ。ここで諦めたら練習した意味が無くなる。それに朱里ちゃんが作ってくれた振り付けだってあるんだ。この意思を継がなくてどうするのさ!」
そうやって熱弁したんだ。そしたら花音ちゃんは「んー」と考えるような仕草を見せながら。
「神ちゃんの気持ちは分かったけどさ……あかりんの代役はどうするの? 流石にウチとかは厳しいよ?」
「確かに朱里ちゃんの代役は荷が重いかもしれない……でも任せそうな人が、ここにいるんだ」
「えっ、誰なの?」
全員の視線が俺に向けられる。そこで俺はスパッと手を正面に向けて。
「透子ちゃん、君だよ」
そうやって口にしたんだ。
「は、はぁ!? ボクがアカリの代わりになんてなれるワケがないだろ!? バカ言うなよ!!」
当然、予想なんか全くしていなかったのだろう。また透子ちゃんは怒りを見せ、大きく身振り手振りで俺に訴えてきたんだ。
「別に俺は朱里ちゃんになれと言ってる訳じゃないよ。透子ちゃんは朱里ちゃんとは違った強みを持っているし、このゲームで活かせそうだと思ったから……」
「嫌だ!! 何を言われようと、ボクは絶対に出ないからな!!」
透子ちゃんは俺の言葉を遮る。こんなに怒って混乱している中、説得するのは流石に厳しいか……とか考えていたところに。
「……いいのか明智」
「……っ!」
再び蓮が口を開いたのだった。そして蓮は続けて。
「神谷はお前になら任せられると。優勝出来ると確信した上で提案している。こいつの人間性に難があるのはお前も知ってるだろうが、ゲームの腕に関しては本物だ。それはお前も痛いくらいに実感しているだろう」
「しっ、信じられるか! こんなヤツの言うことなんか……!!」
「……フン、そうか」
そう言うと蓮はこちらに視線を向けて。
「残念だったな神谷。明智は出てくれないみたいだぞ。お前の練習も、葉山の用意した振り付けも、全部無駄になったな」
「お、おい蓮! そんな言い方は酷くないか!」
「酷いも何も、だったら他の仲間を大会に誘えば良いだろ……でも、お前はそうはしないんだろ?」
「……!」
「他でもない明智なら。まだ勝てる可能性があると。葉山の意思を受け継いでくれると思っているから、お前は明智に頼んでいるんだろ?」
それは……全く蓮の言う通りだった。今回ばかりは透子ちゃんじゃないと、朱里ちゃんの代役は務まらない。何故か俺はそう確信していたんだ。
「……うん、そうだよ。運動神経が良くて、かつ朱里ちゃんとも傍にいる時間の長かった透子ちゃん。君なら絶対に出来るんじゃないかって、俺は思ってるんだよ!」
「……」
透子ちゃんは何も言わない。そんな状況を見かねたのか、藤野ちゃんも口を開いてくれて。
「わ、私からもお願いだよ透子ちゃん! 嫌かもしれないけど、怖いかもしれないけど……それでも神谷君の力に。クランのみんなの力になって欲しいの!」
「……」
そして他のみんなも続けてくれて。
「私もですよ。きっと明智さんは私のことを嫌っているでしょうけれど……それでも私は頭を下げます。どうか王子様の力になってあげてください」
「え、えっと……ウチは別に嫌なら出なくてもいいんじゃないかなー? なんて思っているけれど。でも! 一回やってから決めるのもありなんじゃないかな?」
「や、やめろよ……オマエら……!」
透子ちゃんは一歩後ろに下がる。すかさず俺も一歩前に踏み出して。
「透子ちゃん。俺は君のことだって大好きだ。とっても愛してるさ」
「は、はぁっ!!!??」
「だから俺は君の意見は尊重したい。出たくないのならこれ以上は誘わない……けれど。最後にもう一度だけお願いさせてくれ。俺と一緒にダンスを踊って欲しいんだ!」
そう言って俺は頭を下げた。
……そして長い長い沈黙が訪れ。みんなに見守られ。遂に透子ちゃんも折れたようで。
「…………ああー!!! もう!! 分かったよ!! やればいいんだろ!?」
半ギレながらも、俺と大会に出ることを了承してくれたんだ。
「ああ、良かった! ありがとう、本当にありがとね、透子ちゃん!」
「お、大げさなんだよオマエは……!」
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