第83話 まっくらゲームセンター
───
……それから数日後。俺達はダンスゲームの筐体が置かれている、ゲームセンターへと足を進めていた。
「ふぅ、着いたね。朱里ちゃん、ここが練習場所のゲーセンだよ!」
「いや、それは分かってるけど……どうしてこんな時間に呼び出したの?」
街灯からの光で微かに見える朱里ちゃんの表情は、少しだけ不信そうなものになっていた……はい。現在の時刻は午前二時。皆が寝静まり、天体観測に最適な時間ですね。
……まぁもちろん何の理由も無しに、こんな時間に朱里ちゃんを呼び出した訳ではない。というかこの時間でしか、俺達はまともに練習出来ないんだよね。
「次のゲームが発表されてから、みんな練習しようとダンスゲームのあるゲーセンに集まってるんだ。でも当然筐体に限りはあるから、順番待ちで長い時間待たされることになる……だから昼の時間だと、ロクに練習が出来ないんだよ」
それに練習をギャラリーに見られることによって、振り付けをパクられたりする可能性とかあるからな……おちおち油断も出来ないのだよ。
「だから夜中に来たの?」
「うん、そうだよ。というか本来は夜の時間は閉まっているんだけど……バイトの子に協力してもらって、この時間を貸し切って貰ってるんだ」
実は俺の本を読んで、ゲーセンのバイトを始めた子を知っていたから、前回の会議の後にメッセージを送ったんだよね。『ゲーセンを貸し切りたい』って。
それでまぁ色々とやり取りをして……最終的に閉店後になら自由に使っていいと許可を貰ったんだ。もちろん、多少のポイントは払ったけれどね。
「ふーん……それは分かったけれど。でも夜中は外出禁止じゃなかったっけ?」
「ああ、なんとそれがね。成績優秀者は特例で夜中の外出が許されるんだよ」
これはホントについ最近知ったことだ。夜でも外に出られるのは、単純に活動時間が増えるってことだから、他の生徒より多くの時間ゲームをプレイできるのだ。ホント、学園はどこまで一般生徒と差を広げさせたいんだろうなぁ……
まぁ夜に外へ出るってことは、生徒会の連中と出くわす可能性が高くなるから、なるべく俺は外に出ないんだけどね。
そして朱里ちゃんはこのことを知らなかったらしく、ちょっとだけ驚いて。
「へぇー! 成績ってゲームの?」
「そうだよ。前回の水鉄砲大会で俺達は優勝したから、クランのみんなが夜の外出を許されているんだ!」
そして朱里ちゃんは、少し考える仕草を見せた後。
「そっかー。でも透子とかには、このこと言わない方がいいんじゃない?」
「うん、俺もそう思っててね、今のとこは蓮と朱里ちゃんにしか話してないんだよ」
いくら学園内だからと言っても、夜に女の子一人で歩かせるのは心配だもんね……それに夜のカジノとかは掛け金がエグイらしいから……透子ちゃんがもし行ったら、なんて思うだけでも頭が痛くなる。
そしたら朱里ちゃんは、ゆるるっと笑って。
「あはは、流石は修一だね。やっぱり大切な彼女には、危険な目に遭って欲しくないもんねー?」
「……よし!! それじゃあ早速入ろうか!!」
「あれ、ひょっとして修一照れてる?」
───
ゲーセン内。
深夜のゲームセンターは静まり返っていて、この異質さに少し恐怖を覚えてしまう。もしもここに藤野ちゃんや透子ちゃんが居たのなら、きっと叫んですぐに逃げ出してしまうそうなものだけど。
「おおー。静かなゲーセンなんて、何だか変な感じだねー?」
暗い所は平気なのか、朱里ちゃんはこの状況を楽しんでいるようだった。
「そうだね。中々こんな体験は出来ないよ」
「でもゲーム機の電源落ちてるけど大丈夫なの?」
「ダンスのゲームだけは付けっぱなしにしてくれてるみたいだから大丈夫だよ……ほらあれだ」
俺達は二つだけ、明かりと音が出たままになっているゲーム機を見つけた。確かにこれが大会で行われるダンスゲームに違いない。
「わーすっごい目立つねー。他のゲームが動いてないから、とっても音が聞こえるよー」
「きっと音量はそのままなんだろうね……それじゃあ一旦一緒にプレイしてみようか。それから振り付けとか合わせる部分とかを考えてみようよ」
俺はそうやって提案した。そしたら朱里ちゃんは、人差し指を口に当てて。
「うーん、それでも良いんだけど……良かったら先に私の踊りを見てみない? 修一はそこに座ってさ」
そして後ろにあるベンチを指した。
「え、俺が朱里ちゃんの踊りを見るの?」
「うん。ゲームと言っても体感ダンスゲームだからさ、私修一より上手いかもよ?」
「おお、言うじゃーん。それなら見てみようかなー?」
それに納得した俺はベンチに座る。一方で朱里ちゃんはポイントを払って、ゲームをプレイし始めた。
……このゲーム自体は単純で、音楽に沿って流れて来るノーツをタイミング良く足で踏んでいくというものである。他にもジャンプとかステップとかはあるけれど、基本は普通の音ゲーと何ら変わりはない。
「修一、どの曲やればいいかな?」
「ああ、課題曲が何個かあってね……ちょっと待ってて」
俺は端末を取り出して、大会の課題曲を全て読み上げた。それを聞いた朱里ちゃんは、背後を向けたまま。
「なるほど……じゃあ『cute//song』にしようかな?」
「ああ、いいと思うよ!」
その曲は低難易度ながらも見せ場が多く、プレイヤーによって踊りが大きく変わる独特な譜面になっている。朱里ちゃんならきっと上手く踊ってみせるだろうな。
「よーし、頑張るぞー」
言いつつ朱里ちゃんは選曲し、ゲームを開始した。
……曲が始まるなり、朱里ちゃんは慣れたように身体を揺らしながら、ノーツを踏んでいった。そういや初めて会った時、朱里ちゃんは音ゲーが好きって言ってたっけ。だからこのゲームもやったことがあるのだろうな。
……朱里ちゃんは流れて来るノーツを逃すことなく、上半身も動かして可愛げなポーズを取っていく。もちろんまだ何も考えていないだろうから、きっとこれらは即興でやっているのだろうけれど……それはダンスとして完全に成り立っていた。
センス……の一言で片付けるのは失礼な気がした。これは朱里ちゃんが、必死に本気でアイドルを続けたことで身に付いたテクニックなのだろう。俺はそう確信した。
そして後半もダレることなく……むしろキレさが増していくような気がして。俺は目が離せなかったんだ。引き込まれていたんだ。朱里ちゃんの世界に。
「……ふぅ。どうだった?」
「……」
「ん、修一?」
朱里ちゃんに呼びかけられてハッとする。どうやら俺は放心状態になっていたようだ。
「あ、うん!! とっても最高だったよ!! 百点満点!!!」
俺はクソ雑魚の語彙力で、朱里ちゃんを褒め称えた。そしたらまんざらでもなかったのか、朱里ちゃんは天使の微笑みを見せて。
「あははーありがとう! でも本番はタッグでやるから……修一は私と同じくらいキレキレで踊る必要があるよー?」
……あ、忘れてた。これ俺も踊るんだっけ……?
「え、ああ、うん! それは頑張るよ!! 絶対に朱里ちゃんに負けないくらい、上手くなってみせるよ!!」
……でも俺は出来ないなんて言わない。だって俺は……最強ゲーマーの神谷なのだから。どんなゲームだろうと、トップである必要があるのだから!!
「ふふー。やっぱり修一は頼もしいねー?」
朱里ちゃんはまた笑った。だけど今回の微笑みは……小悪魔っぽく見えた気がしたんだ。
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