第82話 ここに最強のアイドルがおるじゃろ?

 ───


「……というわけでパーティーも終わったことだし、次の大会の話をしたいと思いまーす。他のみんなも席についてねー」


 それからちょっとだけ時は流れて、パーティーはゆるっと終了し……俺らは次の公式大会に向けての作戦会議を行おうとしていた。


「神谷……その前に一個だけ質問してもいいか?」


「いいよ、何?」


「……どうしてお前らはそんなに距離が近いんだよ」


 俺の対面に座っている蓮は、視線を左右にやる。同じように俺も視線を動かしてみると、左隣には藤野ちゃん、右隣には真白ちゃんが俺にくっついていて……いやもう真白ちゃんに至っては、俺の腕に絡みついていた。


 そして俺が答えるより先に、二人は口を開いて。


「えっ、だって私は王子様の彼女なんですよ! だからこのくらいくっついていても、何もおかしいことではないんですよ!」


「そっ、そうだよ五十嵐君!? これは普通……普通のことなんだからね!?」


 照れ隠しなのか、藤野ちゃんは目をグルグルと回しながら俺の袖を掴んでくる……ホントにどこまでも可愛いなこの子は。後でナデナデしてあげよ。


 ……それで蓮は聞いたことを後悔したのか、非常に面倒くさそうな顔に変わって。


「……あ、そう。んじゃあもう何も突っ込まねぇよ」


「うん、そうしてくれると助かるよ蓮。これが俺達の定位置に……デフォルトのポジションになったからさ!」


「…………うぜ」


 ちゃんと聞こえてるぞ。お願いだから悪口はもっと小さな声で言ってくれ。


「それで神ちゃん、次の大会はどんなゲームをやるの?」


 そして花音ちゃんもひょっこり席に着き、話の進行役になって俺に質問をしてくれた。


「うん、どうやら次の大会はダンスのゲームが行われるらしいんだけど……ルールが少し特殊なんだよね」


「特殊って?」


「今から説明するよ」


 ここで俺は全員が見れるようにタブレットを机の上に置いて、次の大会の概要の書かれたページを開いた。そして、みんなそれを見るのに集中している横で、俺は大会について簡単に解説することにしたんだ。


「まずこの大会に参加出来るのがクランから二名だけ。そして男女のタッグで出場するのが条件になっているんだ」


「ん? 男女でだと? 何でそんなまた面倒なルールを?」


「それは知らないけど……最近は男女でペアを組んでやるスポーツとか人気らしいじゃん。その流行りにでもあやかったんじゃない?」


 最近俺も卓球の混合ダブルスとか最近見たけど、あれはまた普通のダブルスとは違って、新しい戦略とかがあって面白そうだったもんね……まぁ何か話が逸れたけど、多分そんな感じだろう。


「とっ、というか王子様! 男女で組むってことは、男子側は王子様か五十嵐さんのどっちかってことになりますよね!?」


 真白ちゃんは少し興奮気味に言う。おそらく彼女は俺が出場することに期待しているんだろうな……もちろんその彼女の期待には応えたいよね!


「そうだね、でも安心して! 今回も俺がゲームに参加するからさ!」


「えっ、本当ですか! 王子様のダンスが見られるなんて、私とっても嬉しいです……!」


「そうでしょー!」


 そんな会話を聞いた蓮は、俺達に冷たい視線を向けながら。


「……別に僕は出るつもりなど微塵も無いが、なんか少し腹立つな」


「え? ああ、ごめんってば蓮。じゃあ今回は蓮が出てみる?」


「いいや、絶対に出ない。人前で踊るなんて恥ずかしくて出来る訳がないからな」


「あ、そう……」


 じゃあなんも言うなよって思ってしまった俺は、心が狭いのだろうか……?


「それでシュウイチ、女子は誰が出るんだ?」


 それで流石は透子ちゃん。最もみんなが聞きたがっていたであろうことをズバッと聞いてきたね……まぁそれは俺の中でもう決まっているんだけどさ。


「そう、それなんだけどね。ゲーム内スコアだけで競うルールなら、俺が教えるから誰が出ても良かったんだけど……今回のルールはゲーム内スコアと、何人かの審査員が付けた点数の合計によって勝敗が決まるんだよ」


「えっ、人間が審査するんですか?」


「うん。そして噂によると視聴者投票も実装するとかなんとか……」


 ここで蓮は苦い顔を見せて。


「え……マジかよ?」


「うん、察しの良い蓮は気付いたみたいだけど、そうなんだよ。こんなことがあったらまた、生徒会クランがポイントを使って悪さするに違いないんだ」


 もちろんしない可能性だってあり得るが……もう俺の中では生徒会クランは極悪非道の連中だと思っているので、警戒するに越したことはないだろう。


「ええっ、それじゃあ勝てないじゃん! どうするの神谷君!?」


「いいや、大丈夫だよ。そんな不正なんかに負けないくらいに、人気と実力を兼ね備えた最強アイドルがウチにいるじゃないか!」


 そこで俺は一人の人物に手を向ける。そしてその手を追って、みんなの視線がその人へと向けられるのだった……!


「…………え、あれ。それってもしかして私のこと?」

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