第81話 まともなのはボクだけか……!?

「……はぇっ!!??」


「ああ……言っちゃった……! 全部言っちゃったよ、私……!!」


 突然の藤野ちゃんからの告白に、俺はトンカチで頭をぶん殴られたような衝撃を覚える。だけどもすぐに正気に戻って……


「うっ、うん!! もちろんだよ!! 断る理由なんてあるわけないよ!!」


 藤野ちゃんの気が変わる前に、即座におっけーの返事を出したんだ。


「…………嬉しい」


 それで藤野ちゃんは自分が告白してしまったことに照れているのか、はたまた俺の返事に照れてしまったのか、両手を頬っぺたに持ってって顔を隠している……ああ、なんでこんなに可愛いんでしょうかこの子は!!


「おおー!? カップル成立じゃん! こんな光景、初めて生で見たよ!」


 そしてそんな光景を見た花音ちゃんは、俺らを祝福してくれるかのようにパチパチと拍手をしてくれた。このまま流れでみんな拍手してくれるかな……とか何とか思っていたら。


「ちょ、ちょちょちょっと待てっ、結奈!!!! 忘れたのか!? こいつはこのクランの全員と付き合おうとしている、とんでもないクズ人間だぞっ!?」


 俺達のカップル誕生を阻止するかのごとく、焦ったように透子ちゃんが大声で口を挟んできたんだ。


 そしてボソッと朱里ちゃんも続けて。


「それと、お二人の幸せを邪魔する意図は全くないんだけどさー。修一と付き合うのは、修一が学園のトップになってからじゃなかったっけ?」


「…………あっ」


 本当にそのことが頭から抜け落ちていたのだろう。それを聞いた藤野ちゃんは、またまた顔を赤らめて。


「あ……わっ、忘れてたぁ……!!」


 そうやって頭を抱えた……かと思えば、藤野ちゃんは両手を合わせて、真白ちゃんに謝るような仕草を見せたのだった。


「えええっと、ごごごっ、ごめんね!!!! 決して、抜け駆けしようとか!! そういった魂胆は全くなかったからね!! 本当だからね!!」


「んふふっ。大丈夫です、分かってますよ。こんな慌てた藤野さんを見れば、疑う余地なんかありませんからね」


「ホントに? ああ、良かったぁ……」


 そしたらそのタイミングで、また透子ちゃんが噛みついてきて。


「ちょっとぉ!! 何にもよくないんだってば、結奈!! ボクは……ボクはとっても優しい結奈が、こんな浮気するって公言してる奴と付き合うだなんて許せないんだよっ!!」


 まるで声優かと思うくらいに心を込めて、透子ちゃんはそう言ったのだった……本当にそれは、ぐうの音も出ない程の正論である。


 だから俺は何も言い返す言葉が見つからず、黙ったままでいたんだけど……そんな俺の様子を見たのだろう。藤野ちゃんは一歩だけ前に歩き、透子ちゃんに視線を合わせて……優しい口調で、こうやって言ったのだった。


「……えっとね、透子ちゃん。私もそのことがずっと引っかかっていたんだけど……神谷君が他の女の子と付き合うのは、まだ嫌だって思うんだけどさ。このクランにいるみんなならね、大好きだから許せるっていうか……むしろこの幸せを仲間のみんなと共有したいなって思うんだよ!」


 そして真白ちゃんも同意するように、手を上げながら。


「あ、それ私も同じ意見です! それに王子様は、一人で収まるような器ではありませんからね!」


 そう言って藤野ちゃんに微笑みかけたのだった。藤野ちゃんもその笑みにつられたのか、笑顔を見せてくれたんだ。


 ……そんな幸せそうな二人とは対照的に、みるみるうちに絶望に浸ったような顔へと変わっていった透子ちゃんは、その場に座り込んでしまった。


「うっ、嘘だろっ……!? まともなのはボクだけなのか……!?」


「いや……僕もこの光景に眩暈がする。何かの法で裁けないのか、アイツは」


 同情したように蓮も呟く。多分この場でまともな反応を示しているのがこの二人なんだろうけれど、この場では二人が少数派に変わってしまうのだ……多数決ってコワイね。


「ごめんね透子ちゃん……でもいつか私の気持ちが分かるかもしれないから……!」


「そんなの知りたくないよぉ!!」


 そう言って透子ちゃんはそっぽを向く……ああ、完全に拗ねてしまったようだ。


 こうなってしまったら、しばらくは口を聞いてくれないことを理解している俺は、透子ちゃんにバレないように『そっとしてあげて』のジェスチャーをみんなに見せたんだ。


 そしてそれがみんなに伝わったのを把握した俺は、やっとまた安心して口を開けたのだった。


「いやーとっても嬉しいよ俺は! できることなら今すぐに君達と付き合いたいんだけど、俺が最強と認められるまではおあずけらしい……くそぉ!! 何でこんな条件を付けてしまったんだ俺は!!」


 そんな悔しそうな俺の言葉を聞いた真白ちゃんは疑問そうに。


「んー。というかもう王子様って、最強のゲーマーなんじゃないですか? 今回のゲームのキル数だって圧倒的でしたし」


「あっ、うん、そうだよ! 今回は私が美味しい所持って行った感じだったけど、全部神谷君の作戦だったもん!!」


 二人も今すぐに俺と付き合いたいのか、俺を最強だと持ち上げてくれてくれている……これって俺の自惚れじゃないよな? いやまぁ心の中ぐらいは自惚れてもいいと思うけれどさ!!


「……それにこんなタイミングで言うのもなんだけど、サイッターで最強生徒ランキングみたいなものが非公式で行われていたけどさ。神ちゃん一位になってたよ」


 そしてダメ押しと言わんばかりに、花音ちゃんが追加の情報を投下してくれた。


「えっ、ホント!? じゃあ俺、最強ってことでいいの!?」


「んー。まぁ神ちゃんがそれで納得できるならいいんじゃないの?」


 えっ……余裕で納得できるんだが!? ……でも一応念の為に二人にも聞いておこう。


「……藤野ちゃん、真白ちゃん。俺って最強で間違いないよね?」


 そしたら二人はとびっきりの笑顔を見せてくれて。


「うん! だって私、神谷君より強い人なんか見たことないもん!」


「私もです! 王子様は最強で間違いありませんよ!」


「そっか。じゃあ……じゃあ俺達、付き合ってもいいんだよね!?」


「はいっ! もちろんですっ!!」


「う、うんっ!!」


 ……そして。今度こそ本当に許可を得た俺は、大きく両手を開いて二人に近づいて……ギューっと強く抱きしめたのだった。


「わっ!」「……んふふっ!」


「これからもよろしくね! 藤野ちゃん! 真白ちゃん!」

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