第76話 共闘、そして。

 ……田中ちゃんと戦って何分か時間が経過した。


 確かに彼女は他のプレイヤーと比べたら瞬時の判断力が非常に高く、腕も申し分ないため、強敵と言っても差し支えはないだろう……が、残念ながらタイマン勝負ならば俺の敵ではない。


 俺はトリガーにかけた指を動かすことなく、田中ちゃんの攻撃を避け続けた。


「……っ。どうして攻撃してこないの?」


「いやぁ、田中ちゃんが強くて反撃するのが難しいんだよねー?」


「……」


 田中ちゃんは何も言わなかったが、その表情から完全な苛立ちが見て取れた。その気持ちも分かるし、煽った俺が悪いのは分かるけれど、もう少しだけ我慢しててくれないか…………って、おお。丁度いいタイミングで来てくれたみたいだ。


「ん……? 何の音だ……?」「あっ……ま、まさか、あれは!?」


 戦いに参加していなかった田中ちゃんの下っ端二人も、この周辺の様子がおかしいことに早く気が付いたらしい。そしてその内の一人が田中ちゃんに近づいて。


「たっ、田中様! あちら! あちらをご覧に!!」


 そう言いながら俺らの間に入って、指を指したんだ。田中ちゃんと一緒にそっちの方向を向いてみると……案の定、生徒会クランが寄越した第二の部隊が、こちらにやって来ているのが俺らの目に入ったんだ。


「ちょ……なんだこれ!? どうなってんだよ!?」


 もう一人の下っ端は状況が読み込めていないらしく、慌てふためいているらしい。


「俺がいつまで経っても安置に来ないもんだから、わざわざ敵さんからやって来てくれたみたいだよ。感謝しなくちゃね?」


「いやいやいや、あれ何人いるんだっての!?」


 そして田中ちゃんはと言うと……ほんの数秒だけ悩んだ仕草を見せた後に。


「……作戦変更。荒川あらかわみさき。神谷と協力して、あの大群を壊滅させるよ」


 下っ端二人に俺と共闘して敵を壊滅させるよう、指示を出したんだ。


「ええっ!? どうして神谷を守るような真似を……!?」


「このまま争いに揉まれれば私らも殺される。そんな無駄な死を迎えるくらいなら、神谷と共闘してポイントを稼ぐのが得策だよ」


「でっ、ですが……!」


「異論は認めない。逆らったら殺すよ」


「……はいっ!!」


 自分らの意見など全く聞くつもりもないということを理解した下っ端の二人は、大人しく大型の銃を構えて、戦闘態勢を取るのだった。


「あははっ、やっぱり田中ちゃんは他とは判断力が一味違うなぁ。惚れ惚れしちゃうよ」


「……うるさい。これが終わったら神谷の番だから」


「はいはい。そんじゃありがたく、田中ちゃんらの力を貸してもらいますよ」


 そう言いながら俺は下っ端の隣に並び、敵の方に駆けて行くのだった。


「…………神谷。まさかとは思うけれど。私がこの指示を出すことろまで読んでいたの……?」


 ……その田中ちゃんの独り言には、あえて聞こえないふりをした。


 ──


 そして数分後……というか敵の大群の撃破後。


「ふぅー。やっぱり味方が多いと俺も楽だなぁ」


「はっ、どっ、どうしてあいつは息ひとつ上がっていないんだ……?」


「というか、なっ、何で全員無事なんでしょう……?」


 俺達は水鉄砲の山に囲まれていた。要するに死体の山。そして俺の足元には、座り込んで息を整えている下っ端の二人がいて……って何だか凄くデジャヴっぽいが、今回は全員で真正面から敵を倒したので、漁夫った時と内容は大きく異なっているんだよ。


 だからこんな風に疲れるのは当然のことなんだけれど……


「……神谷。まさか君は私らの位置を把握しつつ、敵に狙われにくいポジションを確保しながら交戦していたと言うの?」


 田中ちゃんは平然とした態度を取りながら、立ったまま俺に聞いてきた。全く、そのポーカーフェイスには驚かされるよ。


「あはは、まっさかー……ってごまかしても、田中ちゃんは信用してくれないか」


「……」


 そして田中ちゃんは落ちていた水鉄砲を拾って。


「……まぁいいよ。次は神谷の番」


 銃口を俺に向けてきたんだ。


「いや、ちょっとちょっとー。田中ちゃんも動いたし疲れてるでしょ? そんな状態で戦っても面白くもなんともないよ」


「そんなこと……」


「というか俺さ、藤野ちゃんの様子が気になるから、そろそろこのゲームから離脱する必要があるんだよね。ありがたいことにポイントも君らのおかげで稼げたしさ」


「……!」


「でもさ、エリア外で死んでもペナルティがあるらしいし、誰かにキルされても『キルリーダー撃破ポイント』が渡るのが嫌だからさ……とっとと、自らの手で終わらせることにするよ」


「え、まさか神谷……!?」


 ……きっと賢い田中ちゃんには、俺に敵わないことなんかとっくに分かっていたのだろう。それでも俺に挑み続けてくるのは『安心したい』っていう理由があったからなんだと思うんだ。


 田中ちゃんくらいゲームが強ければ、レベルの対等な相手、ましてや格上の相手なんてそうそう現れない。でも俺という存在を知ってしまった彼女は『自分より強い相手がいるかもしれない』『打ちのめしてくれるかもしれない』と一種の、自分の負け期待をしていたんだと思うんだ。


 ……でもね。俺は性格がとっても悪いから。俺の仲間を打ち抜いてしまった彼女には、強さの格付けすらしてあげないんだ。


「ま、待て神谷……!!」


「じゃ、またねー。田中ちゃん」


 そう言いながら俺はピストル(型の水鉄砲)で自分の頭(にあるポイ)を打ち抜いたのだった。

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