第77話 ツイてる日はとことんツイてるもん

 ──


 ポイが破れて失格となった俺は、さっさと田中ちゃんの元から離れてゲームから離脱し、エリアから離れた所で藤野ちゃんの様子を確認することにしたんだ。


 俺は近くにあったベンチに座り、無線機を使って藤野ちゃんに呼びかけてみる。


「もしもーし藤野ちゃん? 大丈夫? 元気?」


 そしたらすぐに、慌てたような藤野ちゃんの声が返ってきて。


『ああっ、神谷君!? ずっと呼びかけてたのに、全然返事しなかったんだから!』


「ごめんごめん。元々これはクランハウスにいる蓮たちと連絡する用に準備した物だからさ、藤野ちゃんの声が今まで届いてなかったんだよ。それに俺も戦いの連続で、この無線機を弄る時間が無かったんだ」


 そしたら今まで無視されていたことに納得したのか、藤野ちゃんはちょっとだけ申し訳なさそうに。


『あっ、それはそうだよね。ごめん……でも、連絡してくれたってことは、神谷君はどうにか切り抜けたってことだよね! 今から合流できるの!?』


 藤野ちゃんは次第に声を弾ませてそうやって言った……ううっ、心が痛いぜ。


「えーっと……そのことなんだけどさ。俺もキルされちゃったからさ、このチームの残りは藤野ちゃん一人だけなんだ」


 そしたら分かりやすいくらいに、藤野ちゃんは動揺を見せて……まぁ姿は見えてないんだけれども。


『え、ええっ!? そそそっ、そんなぁっ! わたわたっわたしだけじゃ……!!』


「ああ、落ち着いて藤野ちゃん。ちょっと一回深呼吸しようか。はい吸ってー」


『…………すーっ』


「吐いてー」


『ふーっ……」


「あっ、すっごい耳元ゾクゾクする。今度、添い寝ボイスでも収録しない?」


『ちょっ、ちょっと神谷君!!』


 ナイスツッコミ。やはり藤野ちゃんはこうでなくちゃね。


「よーし。いつもの藤野ちゃんに戻ったね!」


『……もう。私、今も不安でいっぱいなんだよ?』


「それはごめんよ。俺も傍に行ってやりたかったけれど、敵に狙われまくってたからさ……でも俺は更にキルポイントを稼いだから、藤野ちゃんは生き延びてさえくれれば、俺達の優勝は間違いなしだよ!」


『ホントに? ……でもこうやって隠れるのも、結構大変なんだよ?』


「まぁそれはそうだよね。ちなみに今どこに隠れているの?」


『通りにあるカフェ……の掃除用具の中』


「それはまた凄い所に隠れてるね……」


 というか建物内もアリなんだ。まぁ普通にエリア内にあるから大丈夫か…………って、ん? というかさ。もしも俺がまだ生き延びていたら、藤野ちゃんとロッカーで二人きりでくっついて隠れてた世界線もあったって……コトォ!?


 ……クソォ!! 恨むぞ、田中ちゃんと生徒会クランめぇ!! やはり俺の敵は全員、歯向かってこれないくらいコテンパンに潰しておくべきだろうか……?


『いい場所見つけたと思ったけれど……ここは逃げ場が全くないから不安だよ』


「んー……まぁもしも敵が接近してきたら蓮が教えてくれるし、多分大丈夫だよ」


『神谷君……何だかアドバイスが雑になってない?』


「えっ、いやいやそんなことは! あー……そうだほら! いざとなったらプールにでも飛び込んで逃げればいいんだよ! そのために君に水着を着せたんだからさ!」


 俺がそう言うと藤野ちゃんはわざとらしく棒読みで。


『え、ええっー! そうだったのー! ……ってなる訳ないでしょ。どうせそれ、後付けの理由でしょ?』


「あははっ、バレた?」


『バレるよ。だって私、もう神谷君のことほとんど分かるもん』


「……えっ、あ、そうなの?」


 おっ、ふぉおっ……まさか藤野ちゃんにドキッとさせられるとは。不意打ち食らった感じだぜ……少しキョドったのはバレてないよな?


 そして藤野ちゃんは続けて。


『そうだよ。だってもう私達、半年くらい一緒にいるんだよ?』


「ああ、もうそんなに経つんだ。思えば受験の日から一緒にいたんだっけ?」


『うん。何にも分からない私を神谷君が助けてくれたんだよっ……あの日から、今日に至るまでずーっとね!』


 藤野ちゃんは笑いながらそう言った。どうやら彼女はこの先も、俺に助けてもらうつもりらしい。もちろんそれは全然構わないし、むしろ大歓迎なんだけれども。


「でもまぁ今回は、藤野ちゃんが俺のことを助ける番だけどね!」


『うーん……私に出来るかなぁ?』


「きっと大丈夫さ。最強ゲーマーの俺が言うんだから間違いないよ!」


『そうかな?』


「うん! それにキスもしたしさ……あ、もしも優勝出来たらもう一回……」


『〜〜っっ!!! あー!! もー!! こんな時に思い出させないでよぉ!!』


 ……そこでザザっとノイズが入ったかと思えば、蓮が会話に参加してきて。


『あー。いちゃつき中に失礼するが……藤野。今、最終安置が発表された。端末で安置を確認して、上手いことエリア内に移動してくれ』


『うん、分かった……あと別にイチャイチャはしてないからね、五十嵐君……!!』


『そうなのか?』


「あっ、もしもしれんれーん? 最終安置ってどこになったのー?」


 俺がそう聞くと、途端に蓮は不機嫌そうな声に変わって。


『ああ? 何でお前が知りたがるんだよ。カッコつけて早々に自害したくせに』


「いいだろ別にー。それに俺も藤野ちゃんの後方支援をする義務があるんだよ!」


 そしたら蓮は面倒くさくなったのか『あっそう……』と一言呟いた後。


『最終安置は噴水広場の周辺だ。もっと詳しく知りたかったら、生配信のページにでも飛んで確認しておけ……』


 そこで気になった単語が出てきた俺は蓮の言葉を遮り、こう聞き返した。


「えっ、噴水広場って……俺達が練習していたあそこか!?」


『ああ、そうだが。それがどうかしたのか?』


「……ははっ!」


 あははっ……! どうやら藤野ちゃんには幸運の女神様が宿ってるみたいだ。


「藤野ちゃん! 藤野ちゃんってば最高にツイてるね!」


『えっ、ツイてるって……何が……?』


「うん! とにかくツイてるんだ! 『アレ』を使えば敵を一掃……いや、オーバーキルだ! そして俺達の完全な優勝だっ!!」


 脳内で勝利のイメージが明確に見えた俺は、思わず興奮して声が弾んでしまった。


『おい神谷。一人で盛り上がってないで、早く教えろよ』


「なーんだ、蓮も気付いてないの? じゃあ……朱里ちゃんに代わってくれない?」


『ええ? 葉山にか?』


「うん、きっと朱里ちゃんは『アレ』のスペシャリストだからさ!」


『余計意味が分からないんだが……』


 そうやって蓮はぼやきつつも、朱里ちゃんに代わってくれたのだった。

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