第75話 小さな好敵手?
俺が後ろを向いて待っていると、数秒も経たない内に追いつかれた。
ここで初めて花音ちゃんの命を奪ったであろう、敵部隊とご対面したのだが……見てみてびっくり。先頭に立っていたのは、小柄で黒髪ショートの女の子だったのだ。
清楚なアイドルのような整った顔立ちで、ちょっとだけ可愛いと思う反面……ハイライトの無い真っ黒な瞳で向けてくる視線は、少し不気味さを覚えてしまう。
そして女の子後ろには、黒のマントを羽織った男が二名いた。両方とも黒マスクも装備していたため、はっきりと顔を視認できなかったが……こいつら教室で見たことある気がするような……?
「一人なの?」
女の子は不思議そうに、俺に向かって問い掛けてくる。俺のイメージ通り、彼女は非常に落ち着いた声色していた。
「お陰様でな……つーかあんたら真っ黒だな。中二病の真っ最中だか何だか知らないけれど、もうちょっとオシャレとかに気を配った方がいいんじゃないの?」
そしたら無表情だった少女が、苛立ちを見せるように少し眉をひそめて。
「……鳥咲花音はエプロンドレスを着用していた為に、咄嗟の回避が間に合わなかった。この意味が君に分かる?」
「分かるよ」
「……ならどうして彼女に何も言わなかったの?」
「だって女の子は可愛くオシャレしてて欲しいじゃん。花音ちゃんが『メイド服を着たいんだ!』って言うのなら、動きにくかろうと俺は何にも言わないよ」
「このゲームが不利になることが分かっていても?」
「うん」
そしたら少女は言葉を溜めた後に、強く感情を込めて。
「……馬鹿なんじゃないの?」
「辛辣だなぁ。好きでもない子からの罵倒は、ご褒美でも何でもないんだぞ」
「……」
そして彼女は無言で銃を構えてきた。
「おっ、やる気なの? でもこんなところで戦ったら、君ら絶対次の安置に間に合わないよ?」
「そんなの構わない。私の狙いはただ一つ……君だよ、神谷修一」
「まぁそうでしょうねぇ。アンタらも生徒会クランの手先ってか……」
そしたら少女は食い気味に。
「勘違いしないで。あんなポイントに釣られた、愚かな奴らと一緒にされたら困るよ。私はあんな無能じゃないんだから」
「めちゃくちゃボロクソに言うじゃん。まぁ何だっていいけれど……ともかく俺の敵ってことには間違いないんでしょ?」
「うん、そうだね」
「じゃあ手を抜くわけにはいかないな。えーと……何ちゃんだっけ?」
俺がそう聞くと彼女は少々迷った挙句、小さな声で。
「……田中」
「フルネームを聞いたつもりだったんだけど……まぁいいや、田中ちゃんだね?」
『田中……! そうか、こいつが!』
そこでずっとこっそり会話を聞いてたのか、蓮が久しぶりに言葉を発してきた。
「どうしたの蓮?」
『前に言っただろ、僕が強敵になりそうな新入生を探している時に、真っ先に名前の挙がった人物……! それが田中だ!』
「ああ……そんなこともあったような……?」
『お前、一年生の総合ランキング一位を狙っていた時、田中に抜かれそうで焦ってただろ。その時は汐月がいたから何とかなったが……本来なら僕らのポイントを合わせても、田中に届かなかった可能性が高いんだよ!』
蓮の話を聞いて、うすらうすら当時のことを思い出してきた。そうそう、あの時はゲームを禁止していたから、ポイントを稼ぐのがかなり難しかったんだよな……
「……誰と話しているの?」
田中ちゃんは不思議そうに俺に問い掛けてくる。まぁ傍から見れば、急に独り言を話し出した変人にしか見えないだろうからなぁ。
「ああ、気にしないで。それより田中ちゃんは俺に個人的な恨みがあるみたいだね? 俺をしつこく狙っているのはそういった理由があるからかな?」
「……別に。それより会話を繋げて時間を稼ぐのは感心しないよ」
「ああ、ごめんごめん。それじゃあやろうか……気になったけど、そこの後ろのSPみたいな人も戦うの?」
指をさしながらそう聞くと、田中ちゃんは一歩前に踏み出してきて。
「いいや。私だけで十分だよ」
「へぇー。随分と舐められちゃってるなぁ」
はたまたそれ以上に腕に自信があるのか……こればかりは戦ってみないと分からないことなんだけどね。
そしたら田中ちゃんの後ろに立っていた片方の男が、彼女に近づいて。
「ですが田中様。奴は異次元の強さを誇る最強ゲーマーです。今回ばかりは俺達も参戦した方が……」
すると田中ちゃんは男の言葉が言い終わる前に、男の顔面に向かって勢いよく水を発射したのだった。
「え、ええ……」
「たっ、田中様!? どうしてですか!?」
予想もしていなかったのだろう。男はビシャビシャになったマスクを外しながら、田中ちゃんに訳を問い詰める……が、田中ちゃんはそれをガン無視して。
「……次は頭を打ち抜くよ。だから静かにしてて」
「……しっ、失礼いたしました!!」
そして田中ちゃんはこちらに向き直った。
「それじゃあ始めるよ……神谷修一」
「あ、うん……」
中々恐ろしい子だな……と思いつつ、俺も水鉄砲のトリガーに指をかけるのだった。
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