第74話 戦場のキス
バトルロイヤルゲームというのは安置縮小……つまり戦えるエリアがどんどん狭まってくるのが大きな特徴なんだ。もちろんこの大会も例外ではなく、現在エリア制限が行われている真っ只中である。
そして制限時間内にエリアに入れなければ失格となり、完全に敗退となってしまうため、俺達は急いでリング内へと向かっているのだが……
「あっ、神ちゃん! あそこにめちゃめちゃ光ってる銃落ちてなかった!? もしかしてあれが補給物資じゃないの!?」
隣で走っていた花音ちゃんは急に足を止め、興奮気味に言う。言われて俺も見てみると、確かに遠くの茂みの方に最高レアリティであろうスナイパーライフルが箱の中に入っているのに気が付いた。
確かにあれは補給物資……つまり一発逆転を狙える程、超高性能にデザインされた武器で間違いないだろう。
…………だが。こんなにも簡単に補給物資って見つかるものなのか? しかもこんな時間にまで残って、誰にも見つからず置かれたままなんてことがあるのだろうか?
……どうも嫌な予感がする。
「花音ちゃん、あれは無視して先を急ごう」
「えー? なんでよ!」
「何だか……怪しい気がするんだ」
すると花音ちゃんはあっけらかんと。
「いやいや大丈夫だってば! ちょっとパッと行って取ってくるだけだからさ!」
「あっ」
俺の有無を聞かずに花音ちゃんは進むべき道から外れ、補給物資を取りに行こうとした。
そして進んでいき、花音ちゃんがスナイパーライフルに手を伸ばそうとした刹那────茂みの方から、ガサガサっと物音が聞こえたんだ。
「──っ!? 花音ちゃん、危ないっ!!」
「……へっ?」
腑抜けた花音ちゃんの声とほぼ同時に撃破音が鳴る。そこで全てを理解した俺は、咄嗟に隣にいた藤野ちゃんの手を引いて、この場から一秒でも早く離れる為に全速力で駆けだしたんだ。
「かっ、神谷君!!?」
「クソっ!!! 奴ら、まだ生き残りがいたんだ!!!」
「え、生き残りって!?」
『どうやら待ち伏せしている連中がいたとはな……流石にこの時間まで、この場所に潜んでいるとは思いもしなかった』
蓮が申し訳なさそうに小さく呟く。そう、ただ勝つためだけならこの時間に、このエリアにいる意味など全くないのだ。奴らの目的はただ一つ……俺をキルすること。
まだそれを諦めていない部隊が存在していたんだ。ずっと息を潜めて、好機を窺って……その相手が花音ちゃんになったのは敵の誤算だろうが、それでも仲間を一人失ったのは痛手であることに変わりない。
「それより神谷君! 花音ちゃんはどうなったの!?」
「藤野ちゃん、とにかく今は逃げることだけを考えるんだ!! 後ろは振り向いちゃ駄目なんだっ!!」
そこで耳元から。
『聞いてください王子様!! この先にも待ち構えている部隊が何体もいます!!』
「なっ、嘘だろ!?」
『おそらく王子様を仕留めそこなったことを生徒会クランが知って、新たな策を用意したのだと思われます! きっと敵は王子様を安置に入れさせないつもりです!』
「マジかよ……!」
恐らく敵の大群は壁か俺を囲むような形を取って、俺をエリアに通さないつもりだろう。数十人相手なら一人で勝てないことも無いが、もちろん時間は掛かる。だが強引に突っ込もうとするのならば、キルされる可能性だって出てくるんだ。
もちろん今のキルリーダーは俺だから、誰かに奪われるのだけは避けたい。なぜならそれが誰かに奪われてしまったら、ほぼ確実に生徒会クランのポイントへと変換されるだろうからだ。
「神谷君……」
クソっ、考えろ……ここからどうにか勝つ方法を……!! 俺は無敗のゲーマーだろ……こんなところじゃ負けられねぇんだよ……!!
「…………あ」
あった。良い作戦を思いついた。懸念点は多いけれど、その部分は信じるしかない。
覚悟を決めた俺は、走っていた足を止めた。
「ど、どうしたの?」
「藤野ちゃん。今から二手に分かれよう」
「えっ、ええっ!?」
藤野ちゃんは俺の提案に驚き、困惑している。だがそんなのお構いなしに俺は話を続けた。
「俺はこのまま敵のいる方へ真っすぐに突き進む。藤野ちゃんは少し遠回りをして、リングの中に入ってくれ」
「で、でも……!」
「大丈夫、敵の狙いは俺だ。全員俺の方に向かってくるから、藤野ちゃんは簡単に安置内に入れる。だから君は次のラウンドに進められるんだ」
「えっ、でもっ、それじゃあ神谷君は!!」
「……これが勝つための最善の方法なんだ。分かってくれ」
そしたら藤野ちゃんは涙目になりながら、今にも泣きそうな声で。
「むっ、無理だよ!! 私一人だけで戦うなんて!! だって私神谷君がいなきゃ、何にも出来ないんだよ!! 一人じゃどうしようも────」
そんな彼女に向かって俺は顔を近づけ……静かにキスをしたんだ。
「……」
「………………あ、あっ、へっ、えっ……?」
「藤野ちゃん。いつだって君は最初に俺のことを信じてくれた。だけど今回はさ、練習を重ねて強くなった自分自身を信じてほしいんだ」
「あっ……か、かみやくん……?」
「俺はまだ全くこのゲームを諦めていない。君がいてくれたら勝てるはずだからさ」
そして俺は藤野ちゃんの肩をポンと叩いた。そしたら正気? を取り戻したのか、少しだけいつもの喋り方に戻って。
「あの……神谷君…………責任取ってよね……?」
「ああ。今度特大パフェ奢るから」
「~~っっ!!! だからぁ!! そうじゃなくて!!」
そこまで言ったところで、背後から足音が近づいてきたのに気が付いた。
「時間だ。俺はもう行く、藤野ちゃんも早く行くんだ」
「…………神谷君」
「何、もう時間が──」
「好きって言って」
「……えっ?」
「私のこと、好きって言って」
…………ああ。何だ、そんな簡単なことか。藤野ちゃんがお望みなら、そのくらいいつだって言ってあげるさ。
「うん。大好きだよ、藤野ちゃん」
「…………私もだよ。神谷君」
その言葉とほぼ同時に、藤野ちゃんは走り去ってしまった。だからどんな表情をして言ったのか分からなかったんだけど……きっと藤野ちゃんのことだ。過去最高級の照れた顔をしたんだろうな。
そしていつもならここから藤野ちゃんの言ってくれた言葉を噛み締め、擦り続け、幸せな余韻に浸るのだけど……敵が追ってきている状態じゃ、流石の俺も厳しいものがあるよな。
……だから。俺は俺の仕事をきっちりと終わらせてから、幸せな時間を過ごすことにするよ。
「ふぅ……それじゃあ見せてやるよ。ゲームの神と呼ばれた俺の実力をな……!」
俺は両ポケットから水鉄砲を取り出した。
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