第73話 返り討ちじゃあ!
……それから数十分が経過した。
「大丈夫? みんな無事?」
あちらこちらに散らばっている水鉄砲を尻目に、俺は二人に呼びかける。そしたら今にも消えてしまいそうな、か細い返事が二つだけ返ってきた。
「も、もう喋る元気も残ってないよ……」
「逆に何でまだ生きてるのよ、ウチらは……?」
今の俺の戦績は19キル、5アシスト。どうしてこんなことになってしまったのか、それを詳しく説明するには……少しだけ時間を巻き戻す必要がある。
──
……始まりは、蓮の焦った声からだった。
『おい、聞け神谷! 何故かは分からないが、お前らの所に敵が続々と集まりつつある!」
「えっ何? どうかしたの?」
俺は急な蓮の連絡に驚き、何が起きているのかを聞き返す……が、蓮は俺の呼びかけを無視しているのか、そもそも耳にすら届いてないのか。深刻そうに続けて、こう呟いた。
『しかしこれはとんでもない量だ……軽く見ても十部隊はいると思っていいな』
「えっ、本当に? どうしてそんなことが……?」
ここで通話相手が変わったのか、ガサガサっとノイズの音の後に。
『王子様! ……と藤野さんと鳥咲さんも聞いてるんでしたっけ』
真白ちゃんの優しげな声が耳元から聞こえてきたんだ。
「何でちょっと不服そうなんだにゃ……?」「あ、あはは……」
「もしもし、真白ちゃん? 何か分かったの?」
そうやって聞くと、真白ちゃんは元気よく返事をしてくれて。
『はい! あの、王子様達を狙っている人物たちは皆、ヘルメットにマークが付いていたんですよ! これが何かのヒントになればって思って……』
「マーク? それってどんなの?」
『ええっとですね、三角の枠の中に十字のマークが二つ重なっているような感じで……』
「……なっ!?」
俺は衝撃で一瞬、言葉を失ってしまう。
「お、おーい神ちゃん? 何か分かったの?」
「……間違いない。それは生徒会クランのエンブレムだ」
「にゃんとっ!?」
……要するに奴らはこのマークで仲間かどうかを判断し、無駄な争いを避け、数の暴力で俺を潰そうって言う魂胆か。随分と小癪な真似をしてくれるじゃないか。
「えっ、でも神谷君! 一つのクランから何チームも出るなんてルール違反だよ!」
「もちろん藤野ちゃんの言う通りだ……でもね。他のクランを仲間に加えたのなら、話は別なんだよ!」
「えーっ!? そんなことが許されるの!?」
かなりグレーだが、禁止はされていないんだろうな……と。どうやらそこで理由が解明したことにより、逆に落ち着きを取り戻した人が一名だけ現れたようで。
『……フン、なるほどな。他クランをポイントで買収して、徹底的に神谷を潰そうとしている訳か。ようやくあいつらも動き出したってことだな』
「なるほどな……じゃねぇよ! 何でちょっと楽しそうにしてんだ、お前!!」
『でもお前なら大丈夫だろ。その絆とやらのパワーで何とかなるんだろ?』
「他人事だと思いやがって……というか何で俺達の場所割れてんだよ?」
『相手も僕らと同じことをやっているんだと思うぞ。キルログから辿って、キルしたそいつらのスタート位置を調べれば……おおよその位置が分かるんだ』
そして真白ちゃんも横から。
『しかもそこから安置に行くまでのルートも限られてきますから、待ち伏せでもされてしまったら、大変なことになりますね』
「マジかよ……」
この状況、決して良いとは言えない……というかむしろ最悪なケースと言っていい。ここで下手すれば全滅する可能性だってある。
『まぁでも王子様なら大丈夫ですよ! どんな戦いだろうと絶対に勝てますよ!』
……でも。ここまでみんな楽観的に、俺を信じてくれてるんだ。
「うん、ありがとう真白ちゃん! 何だかいけそうな気がするよ!」
たまにはリーダーらしいところを見せなくてはね。
「ほとんどレンレンと同じこと言ってるのに、態度が全然違うにゃ……」
「あ、なんか足音……というか地鳴りみたいな音が聞こえてきたよ!?」
「よーし、やってやろうじゃねぇか!」
そして俺は足音のする方へ、二丁の水鉄砲を両手で構えた。
「あっ……か、神谷君! 私も戦うよ!」
「あー。えーっとね。今回はさ、藤野ちゃん達は逃げに専念してて欲しいんだ」
「え?」「にゃ?」
──
そして俺達……というか俺は、生徒会クランが送り込んできた刺客を次々と倒していったんだ。つまりこの水鉄砲の山は、敵の数を表してるって訳である……いやぁ、ほんとあいつらは何人雇ったんだろうなぁ。
「でも神谷君、全員倒しちゃうなんて本当にすごいや。私は逃げてるだけで精いっぱいだったのに……」
「いいや。こんな風に敵を壊滅させたのは君たちのおかげでもあるんだよ」
「え、どういうこと?」
俺はしゃがんで敵の落とした物資を漁りながら、木陰に座っている二人に向かって、軽く説明をすることにした。
「敵の狙いはおそらく俺だ。でも俺はとっても強いから、エイムがブレブレな初心者が束になったところで適う訳がない」
「実際、神ちゃんは無双しまくってたからにゃ……」
「そしたら敵らは俺じゃなく、仲間の藤野ちゃん達を狙おうとする訳だけど……君たちは必死で逃げてくれたから、それも叶わず。諦めてしまったんだ」
「……あっ! 本当に狙いが神谷君だけなら、必死で私達を追いかけてくる意味もなかったってことなのかな?」
「そーいうこと。きっと俺にだけ懸賞金がかけられてたんだろうね……それで俺も仲間も倒せないと判断した敵は、どんな行動を取ると思う?」
すると俺の耳元から。
『おい神谷、クイズをやってる暇はないぞ』
「あ、蓮も聞いてたんだ。じゃあせっかちくんの為にサクッと答えを言うけど……仲間同士で殺し合いを始めるんだよ」
「え?」
「奴らはポイントだけで雇われた、ペラペラな仲間なんだ。『俺を撃破する』という目標が達成し難いものだと分かった以上、次なる目標は『大会上位を取る』という俺らと同じものに変化していくんだ」
「ということは……誰かが裏切ったんだね!」
「花音ちゃん、せーかい。そこで一人が裏切れば全員が疑わしくなっっちゃって、仲間同士で殺し合いが始まっちゃうって訳。ほんと笑っちゃうよね」
「それじゃあ、その神谷君のキルポイントは?」
「それはまぁこっそり漁夫った感じで……」
「ぎょふ?」
そこで解説を入れてくれるように、すかさず真白ちゃんが。
『漁夫の利を得たということですよね! やっぱりすごいですよ、王子様!』
「えへへ」
やっぱり女の子に褒められると嬉しいね。帰ったらよしよししてもらおう。
『……というかお前ら、安置縮小が始まってるけれど、動かなくていいのか?』
「あ、やべぇ! 行くよ二人とも!」
「ええー!? もうちょっと休ませてよ、神ちゃんー!!!!」
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